刹那のティータイム

 水とクッキーを持ってレッドのいる会議室をノックする。

 疲れた声で返事があり、机に突っ伏してぐったりしている赤い髪が目に入る。

 レッドはぼくを見てホッとした顔をして、椅子を引いて隣に座らせてくれた。簡単なティータイムが始まる。紅茶じゃないけど。


 机に紙とペンがあったから、毎日練習している文字を書く。うーん、これで合っているかな。


「ふくありがう……か。『おようふくありがとう』だな。意味は伝わる。よく練習した」


 レッドが笑うとぼくも嬉しい。

 ナッツの入ったクッキーを口に運ぶ。サクサクとした食感が心地よい。しかしクッキーには紅茶だろうと笑われる。


「こんなに盛大なパーティーは久しぶりなのだ。母上が亡くなってから質素にしていたからな。父上がゆっくり療養できるよう、魔王として頑張るつもりだ。

 後見人となる叔父上と共に、君の事も助手として紹介する。隣でしっかりと頭を下げてくれれば良い」


「わかった」


 一瞬、何が起きたのか分からなかった。二人は顔を見合わせてキョトンとした。


「え、トリィ……なのか? もう一度いいか」


「わかった」


「話せるようになったのか!? いつからだ!?」


 レッドがガタッと席を立ったものだから水が揺れる。なんで急に話せるようになったんだろう。よく考えて、原因と思われる物に到達した。


「さっき金のニワトリの卵を食べたから、多分そのせいかな」


「そうか……それなら、今だけかもしれぬな」


 話せるのは今だけ。

 次はいつか分からないんだ。こんなチャンスを逃すわけにはいかない。言いたいことをちゃんと伝えなくちゃ。


「レッド!」


「な、なんだトリィ」


「名前をありがとう! すごく気に入ってる!」


「そうか、よかった!」


「お部屋をありがとう! 朝起きてから夜寝るまでずっと楽しい!」


「なによりだ!」


「勉強ヘタでごめんなさい」


「少しずつ前進している。気にするな」


「ハチからも怖いオバケからも守ってくれてありがとう!」


「いつでも守る」


 鞄からプレゼントの本を取り出して突き出す。レッドは驚いた顔をしている。


「これ、金の卵をとってきたお礼にコロンから貰った人間界の本。名探偵が出てくるんだって。

 レッド、十二歳のお誕生日おめでとう!」


 良かった。ちゃんと言えた。

 金のニワトリさんありがとう。異常な食材扱いしてごめんなさい。

 レッドは本を見つめて、じわっと涙を浮かべた。


「トリィ……ありがとう。今まで生きてきた中で一番嬉しいプレゼントだ。君の先生で良かった」


 レッドの笑顔がキレイでみとれていたら、ドォンと、爆発音が鳴り響いた。

 大きなざわめきが五階の会議室まで聞こえてくる。メイド長が猛スピードで走ってきた。


「た、大変でございます……レッド様」

「何があったのだ」


「魔王ネイビー様が、屋上から落ちてお亡くなりになりました」

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