金のニワトリと遭遇

 魔王城から一キロほど離れた洞窟の中で、山盛りのスライムに絡まれて身動きが取れない。でもスライムの肌はすべすべで気持ちいい。


「エメラーダちっちゃくなったね?」

「エメラーダおかしちょうだい」


 透き通った楕円形ボディでぽよんぽよんと跳ねながらキャピキャピと話しかけられる。困っていると、明らかにレベルが高そうなスライムがどっしりどっしり現れた。


「王子の使いかな? 探し物なら協力しよう」


 ペコリと頭を下げて、懐から地図を取り出して見せた。


「ああ、金のニワトリか。案内しても良いがね、絶対に危害を加えないと誓えるかね」


 再び頭を下げて、どっしりスライムについて行く。若いスライム達が三匹ほど背中にくっついてきたから、歩くたびに体力が減っていくのを感じる。


「エメラーダ元気だった――?」

「またオシロにもどってきたの?おかえり――!」


 似ている誰かと間違われているようだけど、心当たりはない。

 たどり着いた空間には二メートルはあるかという巨大な金色のニワトリがピカピカ光を放って座っている。近くには産んだばかりといった卵がゴロゴロ並んでる。こちらも金色だ。


「礼儀を重んじる鳥だ。三回礼をして手を合わせて最後にもう一回礼をすれば、卵を一つ譲ってくれるだろう」


 言われた通りに三回礼をして手を合わせて最後にもう一回礼をしようとして……背中のスライムがはしゃぎだしたので後ろ向きに倒れてしまった。

 下敷きにしてしまったお詫びに頭を撫でていると、金のニワトリの目がギランと光った。


「クケエ――!」


 雄叫びをあげながら立ち上がり金色の羽を投げてくるニワトリから逃げて付近の岩に隠れるも、グサグサグサと連続で羽が突き刺さり、ビシビシッと岩にヒビが入る。蜂の巣にされた自分の姿を想像して恐怖に震える。

 それを見て──。


「エメラーダはぼくがまもる――!」


 若いスライムが前に出て、複数のパーツに分解され地面に落ちる。が、すぐにシュシュっと集まって元の姿になった。


「オルンにつづくぞ――ひゃ──!」

「こわくなあ――い!」


 三匹のスライムが次々と飛び出して羽攻撃を受け止める。そんなことが一分ほど続いた後、ニワトリは怒りを収め、座り込んだ。

 ヘトヘトな三匹を感謝を込めて撫でてから、鞄から取り出したクッキーをプレゼントする。

 すぐ元気を取り戻した三匹はぷよぷよ跳ねた。

 改めてニワトリに向き合う。正式な手順を踏んで卵を譲ってもらうと、壊さないように布でくるんで鞄にしまった。

 どっしりスライムにしっかり頭を下げて、帰ることにする。その背中にまたスライムがくっついてきた。ありがとうの気持ちで行きより軽い。


「お前さん、不思議に思っていないかね、なぜ違う名前で呼ばれるのかと」


 うなずくと、どっしりスライムは続ける。


「ずいぶん前だが、魔王城で働く樹木の精霊ドリヤードの女の子がいてね、いつも優しく暖かかった。彼女は魔王様が大好きで、スライムはみんな彼女が大好きだった」


 スライム達はキャッキャッとはしゃいでいる。


「その子がエメラーダ。ある日突然、故郷に帰ってしまったがね、また来てくれたと喜んでいる。お前さん、よく似ているんだよ」


 洞窟から出るとまだ日が高い。三つの太陽に照らされた魔王城はピカピカと輝いている。


「良かったらまた遊びに来てくれたまえ。わたしはここで一番長生きのスライムだ。だから魔力量も多い。力になれるだろう」


 どっしりスライムと、背中から降りたスライム達に礼をして、魔王城へと歩く。またお菓子を持って会いに来よう。

 穏やかな風を受けながら、目を閉じて拳を胸に当ててみる。レッドから言い付けられている魔法の訓練だ。


「自分の内側に問いかけると、何かイメージが湧いてくる、風や水など。我の場合は炎だが。君にも必ず得意魔法があるはずだ」


 浮かんでくるのはいつも、あたたかい光。

 鞄の中身を撫でて微笑む。特別なプレゼント。レッドは喜んでくれるかな。

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