魔王ネイビー殺害事件
レッドの誕生日を祝いたい
こんにちは、ぼくはトリリオン。トリィって呼んでもらえたら嬉しいな。
孤児院出身で、お父さんもお母さんも本名も誕生日も分からない。種族だけは分かってる。そのせいで散々いじめられたから。
魔王城にやって来て二年が経った。
ここは魔王城の一室にあるぼくの部屋。外からたくさん運んできた花が咲いて、窓際には木もあって、設置されたアーチの半分まで薔薇のつるが巻き付いているよ。隅にはベッドもあるんだ。
ドア付近に、鏡と一緒に飾られてある服がある。寝る前には無かったのに。
最近発見されて話題になっている音魔石がくっついている。言葉や音を記録できる不思議な石だ。レッドに教わった手順で再生すると、よく知る声が聞こえてきた。
【おはよう。今日は我の誕生日なので勉強は休みだ。夜にパーティーがあるので君の服を用意した。着てくれ。レッドより】
白くて立派なスーツで、ベスト部分がぼくの髪の色に合わせたエメラルドグリーンになってる。ネクタイはボタンで留めるだけの簡単なやつで、自力で着られて助かる。
孤児院に居た時は雑巾を着ていて、お城に来てからはレッドのお古をもらって着ていたから、生まれて初めての新しい服。嬉しいな。
もらってばかりだ。名前を、知識を、部屋を、自由を、その上さらに服まで。
ぼくもレッドに贈り物をしたい。
でも何を選べばいいのかな。お金も全然持っていないし。スーツは汚さないように飾ったまま、いつもの服を着て部屋を出た。
城内は騒がしい。パーティーの準備があちこちでされていて、たくさんの魔族が廊下を行き来している。
避けるのがちょっとたいへん。
右目を怪我していて見る事ができないから、よくぶつかる。見苦しいって孤児院でいじめられていたから、長く伸ばした前髪で隠している。レッドがいつか治してくれる約束なんだ。
チラリと覗いた厨房ではピカピカの食器が立ち並び、普段は閉じている大広間はテーブルセッティングがされている。なんだかワクワクする。
「おはようトリィ、いま食事の準備するよ」
狐耳メイドのコロンだ。心を読む妖怪サトリの家系で、ぼくの専属。長い金髪を首の下で二つ縛りにして、目が細くいつもニコニコしている。
「レッド様は朝から忙しいよ、十二歳だから成人。もう魔王様になれるんだよ。色んな打ち合わせとかあって。パンおかわりあるよ。お客様もいっぱい来るし、果物どれがいい?」
話しながら同時進行でテキパキと仕事をこなす彼女をすごいと見つめていると、フフッと笑った。
「誕生日プレゼントなら、本がいいと思うよ」
びっくりした。いま焼きたてのパンの美味しさに浸っていたから、心の声を読まれたわけじゃない。顔に出ていたんだ。
「実はいいもの持ってるんだよ、おばあちゃんが仕事でコッソリ人間界に行ってるんだけど。内緒だよ? 報酬として貰ってきたコレ──」
引き出しの奥の方からガサガサと取り出したそれは、厚みのある古い本。タイトルはかすれて読めないが【◯◯殺人事件】とある。
「作者が出版してすぐに殺されたという呪いの推理小説だよ。犯人は捕まってて、実際に起きた事件を元にしてるんだよ。ワタシも読んだけどかっこいい名探偵と助手が出てくるんだよ」
レッドは常日頃から名探偵になりたいと口にしている。何のことかよく分からなかったけど、この本にはレッドの理想が描かれている。あげたら喜ぶはずだ。
「出版後すぐ絶版になったからお宝だよ。ワガママを聞いてくれたらトリィにあげるんだよ」
力いっぱい首を縦にふる。コロンは笑いながら古びた紙を取り出した。
「宝の地図だよ。このマークのとこに行って金のニワトリから卵をゲットして欲しいんだよ。盗んだら石にされちゃうから、頼んで譲ってもらうんだよ」
場所がスライムの洞窟なのであまり危なくないと言われて、ごはんの後すぐおつかいに旅立つ。ワイロ兼おやつのクッキーも預かって。
お城の玄関ホールには沢山の贈り物が並んでいる。服、靴、家具、武器など色々。レッドが王子様だという事を改めて理解する。
空では三つ並んだ太陽が大喧嘩してる。
あとで嵐になるかもしれない。降られないうちに片付けようと駆け足で洞窟に向かった。
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