第60話
「この社会の
俺は
「その法律もまた、不完全なものなんですよ」
「確かに時代のニーズに合わせた
「弁護士だからこそですよ。では、あなた方に身近な
「それが……理由、ですか?」
田上は「いいえ」とゆっくりと首を振る。
「私は司法の現状をお話しただけですよ」
「しかし、あなたはその司法の現状に不満があるのでしょう?」
「いいえ」
「でもあなたは」
「弁護士ですよ。だからなんです? これも社会を機能させる為の不具合のひとつにすぎません」
「馬鹿な!」俺は思わず叫んだ。「あんた、どうかしてるよ!」
「望月」
「ふふ」田上が含み笑いをする。「失礼。前にも同じセリフを言われたことがあるので、つい。――ひとつ、私の質問に答えていただけますか? あなたの〈正義〉を教えて下さい」
「田上さん。私たちはあなたと哲学の議論をする為にここに来た訳ではありません」
田村が口を
「これは失礼。ですが、あなた方は私と雑談をする為にここに来たのでしょう? それに、私もあなた方と正義論を展開する気はありません。――難しく考える必要はないでしょう。あなた方がここに来た理由を聞いているだけですよ」
田村は無言のまま、作り物の笑顔を浮かべている田上を見据える。
俺たちは完全に田上の掌の上で踊らされている。一瞬、結城の姿が頭に浮かんだ。それを振り払うかのように俺はきつく目を閉じ、ゆっくりと息を吐いて呼吸を整えてから口を開く。
「明かりの
田上は
「意味が解りません」
「見たことありませんか?」
「もちろんありますよ。それが、なんだと言うのですか?」
「俺、駄目なんです。あれを見ると、早く家に帰りたくてしょうがなくなるんです。うちは両親共働きなので、家に帰っても明かりは
「そうとは限らないでしょう。その家の中で、
「そうですね。確かに、明かりの
「面白いですね」田上は小さく
俺は最終電車に乗って
「いえ、一番落ち着く場所、安心できる家に自分も早く帰らなきゃって気持ちが
「では、あなたよりも仕事を優先させる両親を
「小さい頃は、誰もいない家に帰ることを
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