第58話 [改稿]

「よぉ」

「やぁ」

 ぎこちない挨拶を交わしながら、結城は席に着いた。

「……もう、いいのか?」

 遠慮がちに尋ねる佐竹に、「ああ」と顔を向けると彼の椅子が変わっていることに気づいた。

「その椅子……」

「これか」佐竹が照れくさそうに頭をいた。「壊れたんだ」

「……そうか」

 壊れたのか。限界に近かったものな。 

 佐竹の新しい椅子をぼんやりと見つめていると、居住いずまいをただした佐竹が「すまなかった」と結城に向かって頭を下げた。

 結城は、佐竹の心許ない頭頂部を見つめながら、「気にするな」と頭を上げるよううながした。

「けど、俺が止めていれば……」

「あの時、お前が止めてたとしても俺はきっとやってたよ」結城は自嘲気味に笑い、「今回のことは、自分を見つめ直すいい機会になったよ。……に関わった事、今は後悔してないしさ」

「結城……で、本音は?」

「二度と関わりたくない」

 肩をすくめる結城に佐竹は「はは」と乾いた声で笑い、「高い勉強代だったな」と真新しい椅子をさすった。

「……おい、まさか」

「そのまさかだよ。まさかだろ? 俺もまさか自腹になるとはまさかだよ。今月の給料から天引きされちゃうんだぜ」

「まさか、まさか、五月蝿うるさいな」

「ひでぇな。慰めてくれよ」

 不満げに唇を尖らせる佐竹。

「で、いくらかかった?」

 結城の問いに佐竹は右手をにぎにぎして見せ、「備品は大事に使わないとダメだぞ」と言った。

「高っけぇ」

「パイプ椅子は却下されるしさ、今月どうしよ」

 大きなため息を吐く佐竹に結城はニヤリと笑いかけ、「若林にいい店教えてもらったんだ。お前のおごりで行かないか?」

「……おうよ、任せろ! どんとこいだ、こんちくしょう」

「かっけぇな、佐竹」

 結城が声を上げて笑うと、佐竹はホッとしたように表情をゆるめ、「んで、若様オススメの店は俺らみたいなおっさんでも行けるとこか?」といてきた。

 結城はしばらく考える。

「判らん」

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