第16話 乱戦武闘/Melee Action
「
突如として現れた、「
彼が
明確な敵対状態の宣言。
「……あなた、その
「ヴェインのスキルを現実に持ちこむためのアイテム。
それを使用する事で、使用者は
「……それ以外は?」
「それ以外に、俺の知っている情報はない」
その断片的な情報を元にして、
その
でなければ、チーターやハッカーの襲撃で容易く死ぬ可能性を生む
「
「……どういう事だ?」
初耳といった顔で
全てを告げるのは、
「
スキルを現実化させる以上、
逡巡の時間。わずかな時間を置いて
「俺は
「使用しない? それなら
「俺は
成程。それならば
だが、新たな疑問が生じる。
「――その人物を追って、どうしようっていうのよ。
わざわざハッキングまでしてヴェインをプレイしているんでしょう? 穏やかな理由とは思えないわね」
「そいつに俺の家族を殺された。
だから、俺自身がそいつを追っている。
冷酷に明かす
「……家族を殺された復讐なら、あなたがその人に追いついたら殺すつもりでしょう?」
「――――」
無言のまま、彼は
否定はない。後ろ向きな肯定でもって
「……誰かを殺そうとしている人には、
これまで表情を変えてこなかった
「残念だな。だが、それも当然だろう」
双方が共に相容れない事を確信し、空気が緊張に固着する。
その空気を割って、
「
クラス:
ターゲットは
「――ッ!」
スキル名の宣言が耳に届くと共に、
跳躍の際に、体をひねって背後の存在に向き合う。
そこにいたのは、
「チィッ!」
苛立たしげに
舌打ちした理由は、
「オマエカ――
チーターに知れ渡るその名を呼び、
「オマエとやり合いながら
ここは一つゲームをしようじゃないカ、
「断る。ゲーム感覚でプレイヤーキルをするつもりはない」
「規約違反のハッキングをしておいテ、今更良識派でも気取っているつもりカ?
ワタシハ、すぐに通報通報とわめくサルが嫌いだシ、無能なくせに小賢しい運営はもっと嫌いなんダ。
だガ、ワタシが一番嫌いなのハ――」
そこで
それがスキルの宣言だったのだろう。
『改竄検出。無効化します』
「――そうやって不正行為をしている癖ニ、正義漢を気取っているヤツが一番嫌いなんダ!」
『
『
『
次々に唱えられるスキル名と共に、即死必至の威力に書き換えられた攻撃が
『無効化します。一部解除不可――』
「――ッ!」
「知っていル。オマエがチーターに復讐する為に当たり散らしている事ヲ。
だからこそオマエが嫌いダ。復讐のためにハッキングに手を染めている癖ニ、
生温い復讐鬼――真なる復讐ハ、ワタシたちが体現してやル!」
防戦する
即死チートとチート解除で虚空に火花を散らす。
「……っ!」
激闘の間断を縫って、
にじり下がる彼女の足に、
「――
ギィンッ!
「ッ!」
隙を突いての離脱に失敗し、
――相手はチーター。分の悪い戦いだけれども――相手を倒すくらいしか他に方法は無いッ!
「毒は響く。
詠唱と共にスキル名を発する事で、そのスキルはVR上のみならず現実にも作用する。
「――ただのプレイヤー如きガ、このワタシにスキルが届くと思っているのカ?」
赤いダメージエフェクトは出ず、無敵状態を表す青いバリアが発光した。
「――っ」
「……そもそもスキルが通らなきゃ、意味がないわね」
素直にスキルが通用しない二人を相手に、
このまま常道にスキルで攻めたとしても糠に釘。策を必要とした
「
クラス:
スキルの対象は
反射神経と思考回路の加速。一瞬を引き延ばした思考時間の中で、
――ハッカーやチーターであっても、ゲームシステムに縛られる。
スキルの威力や確率を改竄によって引き上げる事はできたとしても、一からスキル自体を作り上げたり、スキルの効果そのものを別にしたりなどはできない。
そして、それだけではないはずだ。彼らが用いる万能と思える技法。その間隙を見極める為に、鷹の目と化した動体視力で観察を行う。
「毒は響く。
消費SPの低い初級スキルの
先程と同じ攻撃である。当然
「だかラ、ワタシには通用しないって言ってるだろウ!? 三歩歩けば忘れるのカ?」
わずかな一瞬である。アバターが瞬時に掻き消え、即座に表示される。ログアウトの演出に相似した明滅表示だ。
「――
再度唱える。今度は
「……何のつもりだ?」
どちらも同じ。
それはわずかな情報ではあった。改竄を行う際には必ず彼らは明滅する。逆を言うならば、チーターのアバターが明滅したならば改竄を行った証拠にはなるだろう。
だが、それでは致命を得るに至らない。
「
「
「
「
そして、
彼らは、攻撃スキルしか使用していない。
当然だろう。チーターであれば、搦め手もなしに極大威力に増幅した攻撃スキルを叩きこむだけで相手を殺せる。
補助スキルや弱体化スキルなど手間でしかなく、彼らは他者を直接的に害するスキルにしか興味はない。
そこに
「
クラス:
攻撃スキルはチートによって通らないが、弱体化のスキルは無効化されずに通るようだ。
「今度はなんダ? そんなもノ、焼石に水としかいいようがないゾ?」
回避率低下、スキルのクールタイム増加と、移動速度の低下。
確かにそれは
びゅんっ!
「鬼さんこちら! 手の鳴る方へ!」
「なッ、早ッ……!」
そして、先程
彼女の周囲にはログアウト不可エリアの設定がされている。ならば、彼女から離れることで、
「くッ、
目論見通り、足の遅い
「クローズ・ザ・ヴェイン!」
ヴェインからのログアウトを指示する語句を唱え、カウントダウンと共に
逃げられた――そう思った矢先。
『ログアウトに失敗しました。Error Code 000188: Logout Failed / The logout process encountered an unexpected error on the server side.』
「なんでっ!?」
ログアウト演出が中断され、透明になりつつあった
走りながら背後を見る。
「――敵は一人ではない」
横手から現れた影に、
「……
その姿で、
クラス:
「俺はお前の持っている
逆を言えば、むざむざと
既に弱体化デバフという手の内は明かしてある。それが
追い込まれた
「……わたしを殺すつもり?」
「そうだ。お前が
「それが、本当にわたしを殺すことになるとしても?」
その言葉に、
「……
そのフィードバックは……ヴェイン上で
「……そうよ」
先程まで冷徹な表情を保っていたが、口の端が開き、息が止まり、目線が動く。
傍目から見ても分かる躊躇と葛藤。それが
その逡巡から
「――
攻撃の対象は
『改竄検出。無効化します』
「――腑抜けた男ダ。それだかラ、オマエは
だが、
「
その雷撃は虚空の中で立ち消え、
「
高圧の空気弾が
素人目からすれば、両者共に致命打を与えられない千日手。
この戦況の中、
現況は
ヘイトを稼がず、両者の旗色を伺う。
双方共に周囲にウィンドウを浮かび上がらせ、英字の羅列が続々と更新されていく。
完全な理解はできないが、それらがチーターの戦況のバロメーターであろう。
|Analyzing target AI. 96% complete. Estimated time remaining: 2 minutes.《対象のAIを解析中。96%完了、推定残り時間2分》
|Neutralization process of target security in progress... Successful deactivation of invincibility status. Testing effectiveness of normal skills...《対象のセキュリティの無害化プロセス進行中…無敵状態の無効化に成功。正常なスキルが作用するか成否を試行中…》
傍目からすれば互角の戦いであるが、水面下では
その
「――しまっタ!」
浮かぶ
「
「――
今度は
「そうダ――こんな初歩的な罠に引っかかるとハ、キサマもとんだ愚鈍だナ!」
ハニーポット――攻撃者を引き寄せ、誘導するために意図的に脆弱性を持たせたシステム。
このハニーポットの目的は、攻撃手法の記録および分析。
ハッカーとしての手練手管を
「くっ……!」
自身のハッキングAIが
すると、
「……こちらのセキュリティを剥がしたようだナ。だガ――既にキサマの中枢を握っているコチラの方が早イ!」
「
クラス:
そして――その
先程までは
「
「――ア?」
クラス:
それがチートを剥がされた生半可なプレイヤーに直撃すれば――。
「がああぁぁぁぁァッ!?」
仮想空間に、チーターの最期の悲鳴が響き渡った。
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