第4話 点火
ヴェインには多くのチートツールが存在している。
それをアウトロー気取りの
そうして多くの悪質プレイヤーが、チートを用いるようになる。
無論、ヴェインの運営とて無策ではない。チートの際に使用される
しかし、所詮はいたちごっこなのだ。脆弱性を塞げば新たな脆弱性が見つかる。チートツールは絶える事なく供給され、数多の人間の手に渡る。
今、目の前で猫耳の少女を締め上げている
「厄介だな」
広く流布されている一般的なチートツールは、零一が構築したサポートシステム「
それらについては、自動的に解除・対処する事は可能だ。
だが、それは有名なチートツールだけの対応に留まる。
クラッカー間で秘匿され、表立って使われる事のないチートツールには、
「そうだろう。何しろ、オレは文字通りに『無敵』だ」
相対する
その無敵化チートを全て解除しなければ、
そして、
ククク、と
「オマエは
オレはクラッカー。落ちているチートを拾うだけじゃない。チートを作り、自在に操るコトができる」
悪人としての実力を誇る
「そのクラッカーが、どうして無関係のプレイヤーを襲う必要がある」
「襲う必要? それは、その女が無関係じゃないからだ」
「何だと?」
青ざめた猫耳は、必死に首を振った。
「違う……! あたし、何もしてない!」
否定する猫耳に、
「いいや、してたさ」
「あたし、ただ普通に生きてただけじゃない! 普通に高校に行って、普通にヴェインをプレイしてただけ!」
「オマエの認識ではそうだろうな。だが――オレでは、違う」
「ガッ、ア……!」
喉を絞り、掠れた声を上げる猫耳。
その苦痛が、現実にも反映されているのだろう。抵抗の為に暴れ、引っかき、それでも
「やめろ!」
「やめないとも」
バチッ!
「くっ!」
接触不可チート。書いて字の通り、指定したプレイヤーを一定距離まで近づけさせない。
「クソッ……!」
このチートを解除しなければ、
仮想キーボードを叩き、立往生する
そんな彼を横目に、
「女、ヴェインの
オレはそのアイテムにしか用はない」
「……
聞き覚えのある単語を、
しかし、全くの無知である猫耳は、大きく首を振った。
「あたし、
「知らなくても、オレは知ってる。
探せ。でなければ
全てを見通しているような
「……
「ああ、そうだが? そのお陰で、この女が
肩をすくめる
「こ、コレがあったから……あなたにあげるから、離して……!」
譲渡品に
所有権が
それは、シワ一つない、真っ白で真四角なA4の紙の形をしていた。
表面に書かれているのは、数字とA~Fのアルファベットで綴られた、意味不明な文字列の塊。
誰も見覚えのないアイテムを手にし、
「……良い子だ」
「ゲホッ! かっ、ケホッ!」
猫耳が咳き込み、教室の床に座り込む。
「くっ――!」
ようやく、
「こいつは俺が相手する。お前は充分に離れたらログアウトしてくれ」
「――っ、っ!」
喉を潰され声を出せない猫耳は、何度もうなずきながら教室から出ていく。
「さあ、正義気取りの
オレの目的は
「……その
問いを投げかけた
「ナニを? オマエ知らないのか?
……ああ、ハッキングの腕はあっても、オマエは単なる無知のガキか」
「使うのさ、
コイツはヴェインの超レアドロップ。公式データベースにも載っていない、ウワサで出回るだけの存在。
だが、そこから先についてはオマエの体で実証してやる。完全に――殺してやるよ」
殺意を剥き出しにし、
閃光が、満ちる。
「なっ!?」
反射的に目をつぶる
その光は、ヴェインのログインの光に似ている。だが、それよりも光量は激しい。
真正面から見れば、視界を焼かれる閃光。
不意に、光は収まった。
「分かる――
「原初の釜、煮え立つは万象! 断ち錐穿て、
芝居がかった詠唱と共に、攻撃魔法スキルが放たれた。
単体指定の火炎属性であり、正規に習得された中級魔法。そこに必中や必殺のチートは乗せられていない。
正規の攻撃ならば、正規の手段で回避できる。
「――っ!」
回避判定こそ成功したが、火炎の刃が過ぎる最中、ゾクリと背中に悪寒が走った。
――何だ?
体を掠める、煮えるような熱。
恐らくスキル自体に痛覚再現チートがかかっている。本来遮断されるべき危険な感覚を――70℃以上の熱を感じる事は、チートの存在を考えれば不可解ではない。
それでも、あまりに真に迫った熱さだった。
不穏な気配が湧いて出る。
チートだけではない何者かを相手にしている感覚が、
――攻撃され続けるのは、得策ではない。
例え上級魔法攻撃を放ったとしても、
故に、クラスの枠から外れたスキルを使用する。
扱うはクラス:
「――
ガゴォン!
「なにッ!?」
無敵化チートで固められた
通常は破壊不能なオブジェクトである教室が変形し、床が割れ、巨大な穴が
クラス:
マップの地形を一時的に変更する。エンドコンテンツ攻略には不要である為に習得する者は少ないが、一部のダンジョン攻略やボスの足止めに有効な魔法である。
そう、あくまでもこれは足止めだ。
足元深くへと落下した
「――
『了解しました』
そして、カタをつける算段があった。
* * *
「痛ェな、チクショウ……」
学校の地下。瓦礫を押しのけ、
あの青年のクラスは
だが、使用したのはクラス:
そして、クラスチェンジは戦闘時にはできない。
導かれる道理は一つ。
「別クラスのスキルを強制使用するチートは、最新のアップデートで塞がれたハズだが……まさか既に抜け穴を突き止めていたのか……」
敵ながら、
自身と肩を並べるほどの技術を持つクラッカー。
敵という立場でなければ、味方に引きこんでいた所だ。
だが、結局は自分を殺す事はできない。
所詮そこまでの存在に過ぎないと、
「オレの
仮に破れるとしても、結構な時間がかかるハズだ。その間にオレがアイツを殺してやる」
牙をぎらつかせ、
「
飛行を行う補助スキル。
教室の床に着地し、未だ必死になって解析を行うZi|chの姿を嘲笑した。
「どうだ? 宿題は終わったか?」
Zi|chは
『……いいや、まだだ』
「だろうな。まあ、その前にオマエが終わっちまうんだけどよ」
スキルの真なる力を引き出す、連続する言葉。
口が結ぶのは、詠唱とスキル名。
「底に赫、蝶舞う彼岸花! 揺れ乱れ枝垂れ、
床一面に咲き乱れる、花の如き火の絨毯。クラス:
『ぐっ……!』
回避不能な火に足を焼かれ、Zi|chが
「フン、逃げようがもう遅い!」
『――
Zi|chが使用するのは、どのクラスでも使用できる汎用補助スキル、
移動速度を向上させ、
「無駄だ!」
『いや、無駄じゃない!』
Zi|chがシステムウィンドウにコマンドを叩きつけ、
だが、甘い。
「時間稼ぎで、どこまで逃げられる!」
追いつくのにそう時間はかからない。
このペースならば、Zi|chが全てのチートを解析するよりも先に、殺せる。
Zi|chは学校の階段を駆け上がる。空を滑る
「脈動の色、貪食の師団! 咆哮は火の音、森羅万象を喰う飢餓の熱!
『――ッ!』
Zi|chは無敵化チート解析の手を止め、不正に使用された
「――
『な――!?』
先程の
食らえば確実にHP:0になる、絶命の一撃。
『があぁああっ!』
Zi|chは回避に失敗し――アバターが、炎に巻かれる。
扉ごと吹き飛ばし、Zi|chを焼く火炎の刃。
屋上に、Zi|chが転げ落ちた。
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