第3話 光の魔法

 僕たち二人が洞穴にたどり着くころには、日がもうすっかりと落ちていて、辺りはずいぶんと暗くなっていた。だからこそというわけではないけれど、二人ともすごく眠たかったのを覚えている。これは、とんでもない事態に巻き込まれてしまった、ということだけじゃなくて、この孤島にきてしまった時間帯も、大きく関係していただろう。夕方からいきなり、時を昼間に戻して活動していたのだ。したがって、本来の僕たちにしてみれば、今はもう夜更けだったのだ。

 僕は努めて明るくふるまっていたのだけれど、イオリの気分には、残念なことにあまり影響しなかったようだ。やつれたような顔のまま、洞窟の中へともぞもぞと入っていく。


「……。明かりがほしい」


 そう言ったとたん、イオリのすぐ隣には、光る玉のような小さい何かが浮かんでいた。思わず、僕は「ひっ」という声をあげていたが、イオリはあまり驚いていない様子だった。たぶん、疲れていてそれどころじゃなかったのだと思う。

 僕は驚いたり、感心したりするばかりだったが、すぐに別のことも試しはじめたイオリは、好きな相手という色眼鏡を抜きにしても、やはり優秀なのだろう。


「水がほしい。……火がほしい。食べ物も」


 ただ、結果はどれも芳しくなかった。ついでに言えば、僕も穴の中へと入ってイオリと同じように、明かりがほしいとつぶやいたのだけれど、変化は生じなかった。……なんで?


「この洞穴じゃなくて、イオリがやっているんじゃないの?」

「馬鹿なこと言わないでよ」


 そのように口では言っていたが、重ねてイオリがさらなる灯火を求めると、結果はそのとおりになった。まばゆい光は、目を大きく開けていられないほどだ。こうなってくるとさすがに、イオリも僕と同じ考えに至ったようで、気持ち悪いものでも見るかのようにして、自分の手に視線を落としていた。

 幸いなことに、光のおかげで、洞穴の全体像をつかむことができた。奥行きは狭く、せいぜいが三から四メートルといったところ。幅は十分に広く、寝そべっても問題なく足を伸ばせるだろう。入口から少し中へ入ったところからは、地面が一段高くなっていて、それは僕の腰あたりにまで達していた。

 何も考えずに、僕は上へあがろうとしたのだけれど、即座にイオリから釘を刺されてしまった。


「ちょっと。もっと、離れてよ」


 ……こうして、以降は僕だけが下で寝ることになった。特に何かを期待していたとか、そういうわけではないのだけれど、あきらかに下のほうが背中は冷たい。いいけどさ、別に……。

 これについては本当に気にしていない。もちろん、僕の体調は目に見えて悪くなったので、実際は大事なことなのだけれど、それよりも重要だったのは、魔法としか言えない何かを、イオリだけが使えているという事実だった。

 ただでさえ役立たずな僕である。……今の発言と真摯に向き合うことが、いかに難しいのかというのを、僕は声を大にして説明したいのだけれど、事情が事情だ。ひとまず、置いておこうじゃないか。

 おっほん。遺憾ながら役立たずな僕だ。このまま僕だけ魔法が使えない、なんてことに間違ってもなってしまったら、本当にイオリから見放されかねない。こんな島で一人きりになったら、余裕で生きていけない自信がある。ふつうの人でも、孤独感でえらくしんどいはずだ。ゆえに、僕はなんとしてでも、魔法を使えるようにならなくてはならない。……自分で言っていて、無謀であることがよくわかった。何、魔法って? 無理じゃん。

 僕はもう泣きそうだった。実際、イオリが眠ったあとで、少し泣いた。

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