お悩み島村さん?
「ね、ねぇ」
ツンツンと、肩を突かれる。
「ん?……なんだ?」
「あ……ううん。なんでもない。」
そう返す島村さん。
そう。今日の島村さんは何かがおかしい。いつもならもっとテンション高くウザ絡みしてくるはずだ。
でも、今日はそんなそぶりすら見せない。
「今日どうかしたか?」
「え?どうか……って?」
「いや、なんもないならいいんだ。」
なんというか、今日の島村さんは憂いを帯びてる感じでめっちゃ綺麗に見える。
いつもは体格とか、性格とかと合わさって、かわいいの方が適切だが、今の儚い顔に、ため息までついて、綺麗の方が適する表現であるようだ。
あまりのオーラに、いつも近づいている友達たちも近づけていないようだ。
……いや、ニヤニヤしてるな。
にしても、隣の友人がずっとそんなになっているのをみているだけというのもちょっと。と思った俺は、行動に出ることにした。
「なぁどうしたんだよ。そんなに暗い顔して。」
「いや、そんなこと……あるけど」
はぁ……とため息をつく島村さん。
「島村さんらしくないぞ」
「私らしいって何?」
こちらを向いて、抗議の目線で見つめてくる。
「いや、いつもの元気な島村さんはどこいったのかなってさ。」
「ああ。ごめん。ちょっと……ね?」
やはり歯切れの悪い島村さん。
キンコンと、タイミング悪くチャイムがなり、授業が始まったため、これ以上何かいうことができない。
昼休み、いつものように島村さんと弁当を広げていた。
島村さんは相変わらず、綺麗モードだ。
その中、二人で無言で弁当を食べている。
その中、ため息を一つつくと、
「私ね、悩んでたことがあるの。いっていいかな?」
「もちろん。」
「笑わないでね?」
「笑わないよ」
「しょうもないよ?」
「いいよ別に」
何度も念押しされ、一体なんなのだろうと息を呑んでいると、
「私たち、ずっと苗字で呼んでるじゃん。」
「は?うん。それで?」
「それで、下の名前で呼べればねって思ってたの!」
は?そんなこと?それであんなに悩んでたの?
「うん。自由にしていいよ。」
「沖田……じゃなかった。陽介くん?陽介くんもだよ?」
「へ?俺も?」
顔を赤くしながらも俺の下の名前で呼んだ島村さんは、俺にもそれを要求してきた。
「どしても?」
「どうしても!」
「わ、わかったよ。」
うん。島村さんの下の名前……由良さん?
……なんか恥ずかしいな。しまむ……由良さんが顔赤くしてんのもわかる気がする。
「じゃあ、い、行くぞ。」
「うん。」
「ゆ、由良、さん。」
「だーめ。」
「え?」
もしかして名前を間違っていただろうか?そう心配になると、
「由良。呼び捨てで。」
可愛いおねだりをされてしまった。
「由良。由良。うん。これからまた、よろしくね。」
「こちらこそ。陽介くん。よろしくね?」
そこまでいってようやく、由良は今までのかわいい表情で悪戯っぽく笑みを浮かべてみせた。
「やっぱり、由良はその顔の方がかわいいよ。」
「む!それはどういうことかな!」
おっと。このままでは拗ねられちゃうな。
「いや、由良は綺麗よりも、かわいいの方がいいなって。」
「うーん。今までなら蹴ってたかもだけど……」
一瞬怖いことを言って、
「今日は機嫌がいいし、許したげる。しかも、ほんとに褒めてくれてるみたいだし……ね?」
その時に浮かべた笑みは、今までで一番魅力的で、思わず見惚れてしまうほどだった。
そのあとは、いつものように冗談を言い合いながら昼休みを過ごしたのだが、このやりとりは俺たちが教室でやったという失敗のせいで一瞬で広まってしまい、周囲から生暖かい目で見られることになってしまった。
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