「沖田くんなんて知らない!」
「うー……酷い目にあった……」
「どうしたんだよ」
うー!と、朝っぱらから机に突っ伏している島村さんにそうツッコむ。
「いや昨日ね?色々あったんだよ。」
「色々ってなんだよ……」
心配して聞いてるのに、向こうはあくまで話すつもりはないらしい。
「うーん。これは沖田くんには言えないの!」
「俺に言えないこと、ねぇ……」
大方俺の悪口か?まあいいや。俺は正直なんと思われててもいい。実害がなければ。
女の子から嫌われていた可能性があったとしても決してなんも思ってない。
「どしたの?沖田くん」
「いや、女の子たちに嫌われてるという可能性に呆然とした」
「いやどんだけネガティブなの?」
全く、と、一つため息を零した島村さんは、
「沖田くんが嫌われてることはない!それは確実だよ。でも、今回のは、沖田くんには聞かせられないというか……ともかく!女の子には秘密があるもんなの!」
やっばぁ。ちょっと安心したわ。にしても、秘密ねぇ。
なんか島村さんはそういうのとは無縁そうだったからじつはやっぱ島村さんみたいな人にも秘密ってあるんだなと意外に思った。
「にしても、そんなに疲れるなら断ればよかったんじゃないか?」
「わかってないなぁ……沖田くんは!」
ふふん!と、若干ドヤ顔気味で言う。
「恋バナなんて男の子の前で言えるわけないじゃん!」
「恋バナ?」
「あっ!」
やってしまったと言わんばかりに口元を抑える島村さん。
俺はと言えば口角が少しずつ上がっていっているのがわかる。
「ほう……恋バナねぇ。」
「あっ、あっ、あっ!だっだめ!言えないの!」
顔を赤くしながら話を逸らせとアピールしてくる島村さんに、
「島村さん。恋バナって言っただけで赤くなるなんてかわいいね。」
そう揶揄ってやると、ガチで蹴られた。痛い。
「もう!沖田くんなんて知らない!」
と、すぐに拗ねた様子で教室を出ていった島村さんだったが、サボることなど島村さんが出来るわけもなく、
授業が始まる前に帰ってくると、こちらをチラチラ見ながら様子を伺っていた。
今日は昼ごはんもサッと島村さんがどこかにいってしまったので、一人で食べ、なんか悲しかった。
放課後になり、また一人かと思っていたら、靴箱に見知った影を見つけた。
「島村さん……」
「なに?まだ怒ってるんだからね!」
その言葉だけでも、もう実際には怒っておらず、冗談であることがわかる。
「ごめんね。ジュース奢るからさ」
「……だめ。アイス」
そこまで言うと、ようやく島村さんはいつもの笑顔を向けてくれた。
「もう!沖田くんはデリカシーなさすぎなの!」
「す、すまんって……」
そこからコンビニに行くまでにずっと愚痴を吐かれていたが、これこそ「いつもの」と言う感じがして思わず笑みがこぼれた。
「ねぇ島村さん。」
「ん?なぁに?」
「俺さ、正直島村さんと話せなくって寂しかったよ?」
「……私も。」
「俺さ、たった1日話さなかっただけなのに、こんなに寂しい思いしてるんだ。」
「うん。」
「もう、君がいないとダメかも」
「なんでわざわざ重い言い方するのさ?」
俺がわざと重い女風に言ってやると、苦笑いしつつ返してくれた。
「でも、私も安心しちゃったかな。」
それがね。と、一拍置いて、
「すぐそばにいる大切な人を無視するの、いない時に我慢するのの何倍も何倍も悲しいから。」
そうやって悲しげな表情を浮かべた。
「島村さん……」
「はい!この話は終わり!」
パン!と、手を叩いた島村さんは、ちょうど目の前にあるコンビニへ向かった。
「ん?奢ってもらうんだから沖田くんがこなきゃ!」
島村さんはすぐ後ろを振り返り、誘うように、言葉を口にした。
「あ、ああ!」
さっきまでの空気を霧散させ、すっと切り替えた俺たちは、コンビニに入り、俺は約束のアイスを買ってやることにしたのだが、バーゲンを選びやがった。
お陰で高校生の貴重なお小遣いがめちゃ減った。
でも、おいしー!と、とても美味しそうに食べるので、奢った側としては、そうかい。と言いつつ、嬉しい気持ちになるのだった。
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