第21話
エルフの里に近づくにつれ、だんだんリディア様の歩く速さが速くなっていく。そして、遂にエルフの里に足を踏み入れた。
「あの、私リディだよ!帰ってきたよっ!」
近くを通ったエルフに、リディア様がそう話しかける。
しかし。
「えっと、貴女はどちら様?」
「………え?」
リディア様の表情は先程の笑みではなく、明らかな戸惑いだった。
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「
呪文を唱える。だが、何も起こらない。
「
再び唱えても、虚しく声が響くだけだった。
『うーん、やっぱり厳しいみたいだね』
「豪水」の魔王はムム……と顔をしかめる。
「まぁ、予想はしていたが……「
俺はそう言うと、「豪水」の魔王に問いかける。
「なぁ、聞いておきたいことがあるんだが」
『なんだい?』
「エルフの里、はこの近くにあるよな?」
『そうだね』
「そこは、お前が管理しているのか?」
『まぁ、そうだね』
やっぱりクロノスの言う通り、「豪水」の魔王ウィレムの支配域はエルフの里を含んでいた。
「なら、教えてくれ。エルフの里は勇者に襲われたことがあるか?もしそうなら、エルフの里の住人達は無事なのか?」
『どうしてそんなことを聞くの?』
「たまたま奴隷のエルフの少女を引き取っていてな。その子が送り届けている最中に、そんなことを気にしていたからだ」
そう俺が言うと、「豪水」の魔王はしばらくじっと目を見つめてきた。
『どうやら、その言葉に嘘がないようだから………いいよ。教えてあげる。……確かにエルフの里は「剣」の勇者に襲われた』
「じゃあ、やっぱり住人達は……?」
『いや、生きてるよ。でも、勇者は爪痕を残していった……「記憶」という爪痕を』
「豪水」の魔王は表情を暗くして、目を伏せる。
「記憶……?」
『奴隷の子達を連れ去ったという記憶を、消したんだよ。だから、住人たちの今の記憶は、「自分に子供なんていない」という状況』
「っ……!」
そうか。やはりあいつは救いようがないゴミだ。許せない。大切な記憶を消すのは……その人の大切な存在を消し去ることに等しい。俺はギリギリ、と手を握りしめる。
「どこまでもクズかあいつは………!」
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「え……?リディだよっ!?私はリディ!忘れちゃったの!?」
「え、えーと、ごめんなさい。誰だか分からないわ。人違いなんじゃないかしら?」
「じょ、冗談……じゃないの?」
「冗談なんて言うわけないじゃないの。……あ、そうだ。お父さんかお母さんの名前、教えてくれる?」
この反応からして、本当にリディ様のことを知らない様子。いや、でも普通に考えておかしい。他人とはいえ同じ村に住んでいる者同士顔くらいは覚えていてもいいはずだ。少しだけ、ある可能性が脳裏をよぎったが……確証が持てないためすぐに打ち消す。
「お母さんの名前は、リニー」
「え、リニー!?……うーん、確かに言われてみれば似てないこともないけど……」
実際に「リニー」という名前の人はいるみたいだが、やはりそう言われても納得はしがたいようだ。
「リニーさん、子供なんていつの間に作ったのかしら……?」
「とにかく、会ってみたら分かると思うの。だから、1度だけでも会わせて!」
相手方の反応からして、リディ様が変なことを言っていると思われているのは間違いないだろう。
「ま、まぁ……そこまで言うなら……」
渋々といった様子で案内をし始めてくれた。
街を行き交うエルフ達は子供の同族がいることに少し驚いているようで、チラチラと視線を向けられる。
「着いた、ここがリニーさんの……」
と、ちょうどその時、中から誰かが出てきた。
「……!!お、お母さんっ!」
リディア様はその人の姿を見るなり走り出していた。
家から出てきた人は突然自分をお母さんと呼ぶ人物が現れて、目を丸くしている。
「お母さん、私リディだよ!ねぇ、覚えてるよね!?リディ!」
だが、必死な訴え虚しく、私たちを案内してきてくれたエルフの女性に引き剥がされてしまった。
「一旦落ち着きましょうよ。……リニー、この子がさっき「お母さんはリニーだ」と言ってたけど。あなた、いつの間に子供なんて作ってたの?」
この返答次第で……あの可能性が確証に変わってしまう。
私はゴクリ、と生唾を飲み込んだ。
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「じゃあ、いくよ?」
「ああ」
結局、俺はひとまずアーシャ達と合流するためエルフの里に転移をさせてもらうことにした。
「
体全体が水に覆われた。
「!!??」
水が激しく流動する。俺はグチャグチャになる感覚を覚えた。これが、魔王の力を使った転移か。
バシャーン!と体全体を覆っていた水が弾ける。
ゆっくりと目を開くと、目の前には巨大な門が構えていた。そこにはたくさんのエルフ達が行き交っており、すぐにエルフの里だとわかった。
「ここが、エルフの里の……入口か?」
周りを見るが、アーシャ達の姿は見当たらない。もう既に中に入っているのだろうか?
と、肩が誰かにぶつかった。
「あ、すいません」
「ああ、いや。こちらこそわりぃな」
ぶつかった男の人は服に隠れてよく分からないが、すごい筋肉質だった。ぶつかっただけでこちらが軽くよろけてしまうくらいである。
「ん……?お前、その髪色……もしかして北国の出身か?」
男は俺の髪色を見て、驚いたような表情をする。一応、北国出身ということにはしてあるが……そんなに珍しいのだろうか。
「まあ、そうだな」
「おお!!良かった、仲間がいた!」
俺の肯定の言葉を聞くと、男の人の顔はパッと明るくなる。そしてガシッと手を握られた。
「仲間……?」
「ああ。俺も実は、北国出身なんだ」
そう言うと男は嬉しそうに笑った。髪色は赤色なのだが……血縁がそういう血を引いているからなのだろうか?
この時の俺はこの男が重要な人物になるとは、微塵も思っていなかった。
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