第3章 激怒

第20話

「ウィレム……?」


『そう、「豪水」の魔王さ。大事なことなので2回言ったよ?』


そう言っていたずらっぽく笑う「豪水」の魔王。クロノスとは打って変わって、放つオーラに殺気は篭っていない。それに、人間の姿だ。


「魔王って、人間みたいな見た目のもいるのか」


『んーん?現世に馴染むために姿かたちを人間に寄せてるだけだよ。ね、クロノス?』


そう言って「豪水」の魔王は俺の心の中にいるクロノスに話しかける。


「クロノスを知ってるのか」


『そりゃそうだよ。同じ魔王だもん。それに、君らの目的も知ってるよ』


そう言ってググッと距離を縮めてくる。俺は思わず後ずさりした。


『いやぁ、すごいこと考えるね。まさか魔王を人間に取り込ませるなんて考えたこともなかったよ』


「なら、俺がここに転移された理由はなんだ。それを知っててこうしてるのは、それに同意したのか?」


『まさか!そんな軽々しく力を渡したくはないよ。……実力を試させてもらおうと思ってね?』


パチン、と指を鳴らすと地面の水が先程戦った魔物の形に変形する。


『ちょっとぼくの戦闘暇つぶしに付き合ってよ』


「腕試しっていうわけか……上等だ」


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「うおっ!?」


『ほらほら、さっきの威勢はどうしたんだい!?』


絶え間なく俺に向かって放たれる魔法の数々。何とか魔物達は倒しきれたが、息つく間もない。魔法攻撃、避ける、避けたところに再び魔法攻撃。その繰り返しである。このままではキリがない。


黒夜烙愛ディアスカディ!」


9つの黒喰ヴァイータを出現させ、3つを魔法の吸収、残りを攻撃に回す。


「確か水は帯電しやすかったはず……」


だが、「豪水」の魔王は指をパチン、と鳴らすと、水が棘状になって黒喰の下から現れる。そして、そのまま黒喰が破壊された。


「なっ……」


『んー、魔法自体は良いんだけど、上手く使いこなせてないね。魔力の流れが荒い感じ』


「ご親切にどうも……!」


今度は単純に、電撃サンダーを地面に向かって放つ。


『おおっ?痺れるね』


だがかすり傷にもなっていない。まあ、だいたい予想はついていたが。だが、一瞬動きが鈍くなった時を狙い撃つ。


黒炎轟球エンスフィア!!」


極限まで魔法を縮小し、魔力の密度を高めに高めたこの技は、確実に相手にダメージを与える。極限まで縮小したので、光線のごとくそれは「豪水」の魔王の所に向かっていく。


『じゃあ、僕も少し本気出そうな。………… 凶滝降烙サベージカスケード


見た目は普通の水球ウォーターボールだが、込められてる魔力量が断然に違う。


そして、技どうしがぶつかった瞬間。


「なっ!?」


俺の放った黒炎轟球エンスフィアは「豪水」の魔王の技に飲み込まれ、爆散した。


『はい、君は殺されました』


「!」


気づけば俺の背後に「豪水」の魔王が立っていて、首元に水の剣が押し当てられていた。


『僕が殺すつもりだったらとっくに君死んでたよ?』


スっと、剣が離れる。


「やっぱり俺は、弱いのか」


そう言うと「豪水」の魔王は首を横に振る。


『普通の人と比べたら遥かに強い。けど、フルヴィオを相手にするんだったら、弱すぎるね』


やっぱり、そうか。


「豪水」の魔王は『そんな君にひとつアドバイスしてあげる』と付け加える。


『君はクロノスの力に「影響を受けてる」だけ。力を「自分のものにして使えてない」んだよ。ね、クロノス?』


『ああ』


クロノスもその言葉を肯定する。

けど、力を「使う」ってどういうことだろう。その疑問にクロノスが答える。


『魔王の力を一時的に現世に顕現させることで、飛躍的に能力が上昇する魔法--「宿魔ドゥーマ」を使いこなすことだ』


宿魔ドゥーマ?」


『あれ、言ってなかったの?』


もう言っててもおかしくないと思ったのに、と「豪水」の魔王は首を傾げる。


『ベルに教えるのはまだ早いと思ったからな』


『さすがにもう教えたら?クロノスの力を使った状態で戦ってみたいし、その方が実力が分かるでしょ?』


そういうと俺のそばに寄ってくる。


宿魔ドゥーマはね、結構難しい魔法なんだよ。上級階梯魔術よりもずっと。もしかしたらできるのはまだまだ先かもしれないけれど、知識を入れておくだけでもだいぶ違うと思う」


「とにかく、やってみないと分らないってことか」


「そういうこと。中にいるクロノスを全面的に外に押し出すイメージ」


やはりその魔法もイメージ力が必要なのか。


「ふう……」


息を吐き、集中力を高める。中にいるクロノスに準備はいいかと問いかける。『構わん』との返答がきたので、呪文を唱える。


宿魔ドゥーマ!」



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「ベルお兄ちゃん、大丈夫かな……」


隣を歩くリディア様は心配そうな表情を浮かべている。


「きっと大丈夫です。彼は強いですから」


パベル様が転移して消えてしまった後、私は命令通りリディア様を送り届けるためにエルフの里に向かっていた。あの魔法陣は一体誰が仕掛けたのだろうか。篭っていた魔力量が段違いだった。それこそクロノス様級に……。


「あ、あそこ……!」


リディア様が袖をクイクイ、と引っ張る。そちらの方向を見ると、とても大きく、綺麗な街が広がっていた。所々に人影も見える。


「これが……エルフの里、ですか」


街の建物は全て美しい淡水色の結晶で作られており、その美しさは言葉に表せないほどだった。


「帰ってこれた……ようやく……」


リディア様は目に涙を浮かべている。


「早く帰って、みんなに会わないとですね」


「うん……!」







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~投稿者より~

お知らせです。しばらく他作品の毎日更新にしばらく力を入れるためだいぶ不定期更新になります。把握よろしくです。

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