第19話
「ん……?」
目が覚めると、窓から朝の光が差し込んでいた。隣にはリディが眠っている。
「いつの間にか寝てたのか……」
リディは気持ちよさそうにぐっすりと眠っていた。昨日俺の部屋に入ってきた時には驚いたが、まさかあんな理由とは。
「ほんとに昨日の泣き顔が嘘みたいだな」
俺はもう一度リディの頭を撫でると、布団をかけ直し、ゆっくりと部屋を出た。
部屋を出ると、目の前にアーシャが立っていた。
「おはようございます、パベル様」
そう言うアーシャは部屋を覗き込む。
「リディア様が居なくなられて、どこに行ったのかと思ったらここにいらしたんですね」
アーシャはホッと安堵している。
「実は昨日の夜……」
俺はアーシャに昨晩の出来事について話した。
「なるほど……なら、もし夢ではなかったら、リディア様の故郷は既に勇者の手に落ちている可能性があるかもしれませんね」
「どうしてそうだと考えるんだ?」
「リディア様も言っていましたが、彼女の故郷であるエルフの里は南西に位置します。対して、王国は東。そして、パベル様の故郷は南に位置します」
つまり、東(王国)→南(俺の故郷)→南西(リディの故郷)→西(この都市)といった風に、右回りに進んでいるのだろう。
「確かに、もしそうだとしたらリディの家族達はもう……」
だが、そこへクロノスが予想外の言葉を発した。
『いや、おそらく村人たちは無事だぞ』
「え?」
『南西のエルフの里、と言ったな。そこは確か、「豪水」の魔王、ウィレムが住み着いているはずだ。魔王がいる限り、王国はその地域は手出しができまい。だが、万が一ということもあるからな。急ぐに超したことは無いだろう』
「豪水」の魔王、ウィレム。ちょうどいい。当初は「暴風」の魔王の元に向かうつもりだったが予定変更だ。リディを故郷に送り届けて、その時に会ってみるとするか。
「じゃあ、アーシャは早速準備を始めてくれ」
「わかりました」
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「んん……ベルお兄ちゃん……」
俺達は街を出て、南西にあるエルフの里に向かっていた……のだが、リディは歩き疲れ、今は俺の背中で気持ちよさそうに寝息を立てていた。
「気持ちよさそうに寝てますね」
アーシャはリディの可愛らしい寝顔に微笑む。
「まあ、いくらエルフとはいえ長距離を歩くのは疲れるか」
今は山の中。もうじき日が沈むので、早めに休める場所を探さないといけない。ちょうどいい所に洞窟があったので、そこで今夜は過ごすことにした。
「とりあえず、今日は食料のストックを使うか」
木の枝を並べ、炎魔法で火を起こし、水魔法で食材を浸して煮詰めてスープを作った。
これは、前にロゼが教えてくれたものでよく練習したものだ。
「リディ、起きろ。ご飯だ」
「んん……?」
ゆっくりと目を開いたリディは、目の前にあるスープに気がつくと、顔を輝かせる。
「美味しそう……食べていいの?」
「ああ。冷めないうちに食べろ」
「いただきます。……美味しい……!」
「そりゃよかった」
アーシャも「美味しいです」と頬を緩めている。が、その時。
「!?」
気配探知に何かが引っかかった。
それも、洞窟の奥から。
「リディ、後ろに下がって」
「え?え?」
俺とアーシャが急に戦闘態勢に入り、リディは困惑するも、大人しく後ろに下がってくれた。
「こんな魔物……見たことないぞ?」
現れたのは、まるで人と魚が合わさったような化け物だった。
「●●●●●●!」
咆哮しながらいきなり水のブレスを放ってくる。
「随分と荒っぽいやつだな……
魔法攻撃を影に取り込み、そしてそれをそののまま相手に返す。
「
「●●●●!?」
まさか自分の放った全力の攻撃が自分に返ってくるとは思わなかったのだろう。慌てふためいたのも虚しく、自分の魔法でやられていった。
「あ、この魔物……」
リディが思い出したように言う。
「私の故郷の近くでよく現れてた」
「なら、だんだん故郷に近づいてきてるってことか」
リディはコクリ、と頷く。
「とりあえず俺はこの魔物の死骸を片づけるから、リディとアーシャは休んでろ」
そう言って魔物に近づいた瞬間。
「なっ!?」
魔物の周りを取り囲むように青白い魔法陣が出現した。罠か。油断した。
「転移魔法か………アーシャ、リディを先に送り届けてくれ!俺もすぐに合流する!!」
「わかりました!」
アーシャにそれだけ伝えると、俺の視界は光に包まれた。
光が収まり、ゆっくりと目を開く。
「ここは、どこだ?」
周りを見渡すと、そこは古い神殿のようだった。地面は浅いが水が溜まっている。
気配探知を発動するも、アーシャとリディは引っかからない。引き剥がされたか。俺とアーシャ達を引き離すために仕掛けた何者かの罠か、それともたまたまあの魔物がそういう性質を持っていたのか。
「クロノス、寝てるところ悪いが、ここはどこかわかるか」
『……見覚えはないな』
俺の中にいるクロノスは大抵、魔力回復のため休眠をとっている。なんでも万が一に備えて力を蓄えていたらしいが、斧の勇者との戦いでまあまあ消耗してしまったらしい。
「仕方ない、とりあえず出口を探すか」
その場を動こうとした。その時。
『やぁ、待ってたよ』
背後から声が聞こえた。咄嗟に後ろに下がる。
そこには、水色の美しい髪の容姿端麗な女性が立っていた。
(この魔力量……只者じゃない)
それこそ、クロノスに匹敵するレベル。
「お前こそ、誰だ」
俺がそう問うと、女性は答えた。
『ぼくは「豪水」の魔王、ウィレムさ』
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~投稿者より~
第2章を読んでいただきありがとうございます。次は 第3章「「豪水」の魔王」編です。あと、今並行して書いてる作品があるのですが、ぜひこちらもご覧下さい(しばらくはこっちの方を更新するかもです)。https://kakuyomu.jp/my/works/16816927863301081877
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