第18話
「よっと」
「う、うわぁぁ!?誰だお前!?」
すぐに束縛。
「7人目捕獲完了」
俺は地下街から逃げた奴隷商人達を次々と捕まえていた。
捕獲用の影の中に奴隷商人を放り込むと、次の獲物に取り掛かる。
(気配探知で見つかるのはあと1人か)
どうやらこの森のさらに奥の方にいるみたいだ。俺はヒュっと地を蹴ると、森の中を駆ける。
森の奥に辿り着くにつれ、魔力の密度が濃くなっていく。そこで俺は違和感を感じた。
「奴隷商人がこんなにでかい魔力を持ってるか……?」
もちろん自己防衛用に多少の魔法術、もしくは武術、剣術あたりを身につけてはいるだろうが、だとしてもこの魔力量はおかしい。
そして、魔力の根源に辿り着く。そして俺は全てを悟った。
「なるほど……な」
グルルルルルルル……
探知したのは奴隷商人……の死体。もう既に奴隷商人は魔物の腹の中って訳だ。
「にしても、何でこんな昼間に魔物が?」
洞窟から出てきたのだろうか。だとしても、日光には弱いはずだが。
「まぁ、いいか」
俺は魔物の前に姿を表す。魔物は俺の姿を視界に捉えると、すぐさま飛びかかってくる。
「
魔法を発動させると、魔物の胴体は真っ二つに割れた。魔物は音を立てて目の前に倒れた。
「……思ったよりも威力が上がってるな」
初級階梯魔術は最近使う機会が少なかった。だが、威力は衰えるどころか、前よりもさらに増していた。
「強くはなってる……のか」
だが、斧の勇者には負けた。まだこれでは実力不足だというのか。
「もっと強く、ならないとな」
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「あ、ベルお兄ちゃん!」
街に戻ると、リディが駆け寄ってくる。
「なんか……色々買ってもらったな」
リディはボロボロな服から一変、旅人が着るような質素な服になっていた。それでも前よりかは十分なものだろう。
「見て、ベルお兄ちゃんとお揃いのマントだよ?」
そうやってヒラリ、と回ってみせる。
奴隷の時の彼女の表情とは異なり、ほんとに無邪気な笑みで、見ているこっちまで嬉しくなった。
「ああ、似合ってると思う」
「えへへ……。アーシャお姉ちゃんも、ありがとう!」
「喜んでもらえて嬉しいです、リディア様」
アーシャも笑みを浮かべていた。
「用事は済んだのですか?」
「ああ、影の中に放り込んでおいた」
今の王国に引き渡したところで、もはや何にもならないだろうしな。
「ねえ、この匂い何?」
スンスンと、リディが美味しそうな匂いに反応する。それと同時に、リディのお腹が可愛らしい音を立てたので、思わず笑みがこぼれる。
「飯にするか。と言っても、今はあんまり金がないからだいぶ質素なものになるが……」
そうして向かったの先は。
「おや、あの時のお兄さんじゃないか。一昨日は大丈夫だったかい?」
「一昨日……?」
一昨日は確か地下で斧の勇者と戦っていたが……。
「だいぶ大きな地揺れが何回も起こってね。なんだい、知らないのかい?」
「あ~……その日はこの街の外に狩りに出かけてたからな」
何とか動揺せずに誤魔化せた。おそらくその地揺れの正体は俺と斧の勇者の戦闘によるものだろう。あいつ、馬鹿力でバンバカ技発動してたしな……。
「ベルお兄ちゃん、これは何?」
リディは陳列してあるリンゴパイを興味深そうに見つめる。
「リンゴパイだ。結構美味しいんだぞ?」
「そうなの?私、食べてみたいな」
「まぁ、買うためにここに来たんだからな」
俺は3人分の代金を支払うと、2人にリンゴパイを手渡す。
リディは恐る恐るといった感じでリンゴパイにかぶりつく。すると、パァァァ、と表情が明るくなった。
「美味しい!ベルお兄ちゃん、これ美味しいよっ!?」
「気に入って貰えて良かった」
リディのはしゃぎ具合には、店主のお姉さんも満更でもない表情である。
「いつ食べても美味しいですよ、ここのリンゴパイ」
アーシャもやみつきになっているようだ。
「またこの街に来た時は、沢山買わせてくれ」
「その言い方からするに、もうそろそろ旅立つのかい?」
「ああ、明日には出発するよ」
リディの帰りを待っている親がいる。その親の気持ちを考えると、早く帰してあげた方がいいだろう。
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深夜。部屋で寝ていると、何かの気配を探知した。
「………?」
ガチャ、とゆっくりと扉が開く。
「リディ?」
そこには隣の部屋でアーシャと寝ているはずのリディが立っていた。
「どうし……」
どうした、と言い終える前に、リディがギュッと抱きついてきた。
「お、おい……」
「こ、怖い夢を見たの。怖い人がみんなを襲って、次々と連れていった夢……」
見ると、リディはポロポロと涙を零していた。俺は思わず息を飲む。
「私、みんなのことを守ろうとしたの。でも、怖い人が「逆らうなら殺す」って言って、大好きな故郷のみんなが……みんなが……っ!!」
話からして、リディの故郷のことを言っているのだろう。夢の話か、現実の話かは定かではない。けど、どちらにせよその怖い思いは、恐ろしい思いは俺も身をもって体験している。だからこそ、リディの気持ちがよくわかった。
「もう良い、それ以上、言わないでいい」
できるだけ優しく抱きしめ、頭を撫でる。
「大丈夫、俺がついてる。俺がいる限り、お前をそんな目に絶対に合わせない。だから、安心しろ」
リディは俺の胸の中に顔を
結局、俺はその日は一晩中、リディの頭を撫で続けていた。
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