第22話
私とリディ様は答えを待った。
そして、返ってきた言葉は。
「私は子供なんて、いないわよ?」
「……!」
やはり、そうだ。この里の人たちの反応といい、案内してくれたエルフの人の反応と言い……まさかとは思っていたが。リディ様のお母様の反応で確信に至る。
この里の人達。みんな何かしらの魔法によって記憶が、消されている。
「え……ど、どうして……?お母さん……なのに、お母さんなのに……!絶対に、間違えるはずなんてないのに!」
涙をボロボロとこぼすリディ様。
その反応を見て、リニー様は少し慌てた様子になる。
「ご、ごめんなさい!泣かせるつもりはなかったのよ……でも、本当に覚えていないのよ」
「とりあえず、ゆっくり話をしてみてはどうでしょう。だいたい事情は分かりましたので、説明させていただけないでしょうか?」
私は警戒させないようにできるだけ優しい声音で話しかける。
「えっと……
「クロノ……コホン。えっと、旅の者です。偶然彼女と会いまして、ここまで送り届けるつもりだったんですが」
一瞬「クロノス様の部下、アーシャです」と口走りそうになった。危ないところだった。
長年の癖は無意識に出てしまうものだ。
「そうなんだったんですね。道理でお強そうな……」
そう言って私の背中に装備している「
「ここで話すのもなんですし、私の家で話しましょうか」
リニー様は私たちに家に入るように促した。
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「……というわけなんですが」
私は家にいたリディア様の父様も含めて改めて丁寧に、1から事情を説明した。一応私とパベル様のことは「旅人」ということにしておいた。もしものことを考えるとまだ正体は隠しておいた方がいい。
「そうですか……記憶が消されて……にわかには信じられない話ですが、確かにこの子は何となく妻の面影があります」
リディア様の父──コア様は複雑な表情を浮かべる。リディ様は先程泣いたせいか目が少し赤くなっているものの、きちんと正座をしている。
「かと言って、信じようとはまだ思えません。まだあなた達の事はほんの僅かしか知らない」
「おっしゃる通りです。ですが……私とパベル様はリディア様をこの村に帰してあげるためにここまで来ました」
せっかく帰って来たのに。数年ぶりに肉親と再会できたのに。こんな結末は、小さい子供にとってはあまりにも残酷な結末である。
「だから問題を解決するまで、この里にいるのは……ダメでしょうか?」
「!」
リディア様は驚いたように私を見る。もちろん、リニー様、コア様も同じく驚いている。
「アーシャお姉ちゃん……どうして?」
「………もう二度と後悔したくないからです。リディ様を見てるとどうしても……妹のことを思い出してしまうから」
「……?」
よく分からない、といったふうに首を傾けたるリディア様。
リニー様とコア様は何かを察した様子で私の言葉に頷いてくれた。
「じゃあ、見張りを一応つけさせて貰っても良いですか?何かあるか分からないので……疑うような真似をお許しください」
「いえ、構いません」
信頼を得るには了承せざるをえない。ここで断れば逆に怪しまれる。
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「何とか……この場は
私は一旦家の外に出て、一息ついていた。
さて、ここからどうするか。まずはパベル様と合流するのが最優先である。あの人はどこかに転移されてしまったものの、必ず戻ってきてくれるはずである。
「まずは……村の皆さんの信頼を得なくてはいけませんね」
どうするべきか考えていると、家からリディア様が出てきた。
「あ、あの、アーシャお姉ちゃん?お母さんがアーシャお姉ちゃんのことを呼んできてって……」
「……?分かりました」
家の入口に向かおうとと足を踏み込んだ、その時。
ズブブブ……
「「!?」」
急に地面がどす黒く染まり、泥沼のように体がゆっくりと沈みこんでいく。
「これは……上級階梯魔術!?」
それにそれが拘束魔法となると……抜け出すのはかなり難しい。
「アーシャ様!」
私は必死に彼女に手を伸ばす。
しかし、ありえないことに、リディア様の体は黒泥に変化してしまった。
「!?」
「はーい残ねぇーん!!まんまと偽物に引っかかったなぁお嬢ちゃあん!?」
「あなたは……!何故ここに!?」
「ゴルゴスの野郎を倒したっていう魔法使いとその連れがこの村に来るって言うからよお、力量を見に来たんだよ!」
そう言っている間にも体はどんどん地面に沈みこんでいく。
「っ……
周辺の泥を叩き潰し、地面を抉りとるように
「無駄だぜえ!?この泥は数十人係で編み上げた超高密度の拘束魔法だからなぁ……逃れようとも無駄だっての!大人しく捕まってろや!」
体が、ゆっくりと沈んでいく。
「っああ……!!」
最後の力を振り絞って、空に向かって闇属性の爆発系魔法を放った。
「どこ打ってるんだ?もしかして馬鹿かな!?無能かなぁ!?あひゃひゃひゃ!!」
(気づいて……パベル様!)
そこで私の意識は、プツンと途切れた。
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