第14話
“たすけて”
「っ……」
一瞬体が動きそうになった。だが、すんでのところでアーシャがそれを止める。
(待ってください、今行ってもこの数だと相手が悪すぎます)
(じゃあ、どうしたらいいんだ)
(我々の今の目的はあくまでも各地の魔王に協力を求め、フルヴィオと対等に渡り合えるだけの力をつけること。勇者を倒すのは、力を手に入れた後の方が…)
確かに、アーシャの言う通りその方が安全であり、無難だ。けど……。
(別にあの人達を見捨てろ、とは言ってませんよ?でも……)
(でも、あの子は助けを求めてるんだぞ?目の前で助けてと言われたんだ。なのに見捨てるなんて出来るわけがない…!)
アーシャの言葉を遮って、俺は自分の気持ちを語る。
(あの奴隷の子たちは最期まで使い潰されるだけだ。……もう、村のみんなのような思いをする人は増やしたくない)
アーシャの目をじっと見つめる。
しばらくして、彼女は「ふぅ」と溜息を着く。
(全く……あなたはどこまで優しいんですか。分かりました、貴方に付いていきますよ)
アーシャはやれやれという表情を浮かべる。
(ありがとう、アーシャ)
(ですが、先程言ったように今の数では分が悪い。一度戻って作戦を練りましょう)
(ああ)
すると、俺はここであることに気づく。
(クロノス。さっきから黙ってるがどうかしたか?)
『……いや、少し過去に浸っていただけだ』
そう答えるクロノスは、どこか寂しげな感じがした。
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「よぉ兄ちゃん。なんだ、今朝発つんじゃなかったのか?」
「ああ、急用ができてな。もう少しだけこの街にいることになった」
街に戻ってきた俺達は、「斧」の勇者の情報を集めるために情報を探していた。そのために一旦「ロボフ魔道具店」に戻ってきていた。
「なんだよ、次会うのはだいぶ先だと思ってたんだけどなぁ……。まぁ、また会えて嬉しいぜ」
「ああ、昨日ぶりだしな」
そう言うとロボフはガハハ、と笑う。
「それで、今日はなんの用だ?」
「この街に斧の勇者が来たと聞いたんだが、何か知ってることがあったら教えてほしい」
ロボフは「斧の勇者」という言葉を聞いた途端に表情を曇らせた。
「斧の勇者……か。あいつはいい評判は聞かないぞ。なんでも奴隷を好んで集めるらしくてな。そいつの周りにはいつも奴隷がついているらしい」
俺は先程の奴隷の子たちを思い出した。
「戦闘奴隷、労働奴隷、性奴隷……様々いるが、中でも一番のお気に入りがいるそうでな」
「斧の勇者のお気に入り……」
おそらくはあの助けを求めてきたエルフの少女のことだ。彼女だけ他の奴隷とは異なって魔力量が桁違いだった。戦闘奴隷にでもしているのだろうか。
「まぁ、それ以外の情報は知らねえな」
「いや、ありがとう。かなり有力な情報だった」
「そうか?なら良かったよ。何かあったらまた言ってくれ。相談に乗るぜ?」
「おう」
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宿に戻るとアーシャは既に部屋に戻っていて、何やら部屋で作業をしていた。
「どうだった?」
「良い情報を手に入れましたよ」
そう言うと1枚の紙を見せてくる。
「勇者の傍付き達から聞き出したものです」
そこには
・斧の勇者は総勢50人の奴隷と護衛を連れている
・斧の勇者はこの街で人身売買を行おうとしている
・人身売買のオークションは地下街にて明日の深夜から
といったことが書かれていた。
「こんなことよく聞き出せたな」
「闇魔法を応用して、洗脳術を使っただけです。安心してください、ちゃんと記憶も消しておきました」
「なんだかんだで凄いよな、アーシャ」
「お褒めに預かり光栄です」
そう言ってアーシャは少し嬉しそうな表情を浮かべる。
「聞き出した情報によると、斧の勇者は人身売買の代表挨拶のために舞台に上がるそうです。その為にはまず、舞台裏の通路を通る必要があるんだそうです」
「つまりはそこが狙い目だってことか」
「はい。おそらくは潜伏の魔法で影を媒体にして斧の勇者を引きずりこむことができます」
「なるほどな……斧の勇者の周りにいるやつは巻き込むかもしれないのか」
となると、あまり広く影を広げるのは難しそうだ。狭く、深く、と言ったところか。
「侵入するのは幻覚の魔法で可能ですが、やはりそれでは勇者にバレる可能性があるので注意してください。後、影に引きずり混んだ時に殺しきれなかったら、一旦私の所まで下がってください」
「分かった」
それから俺とアーシャはクロノスの意見も混じえながら夜遅くまで作戦を練っていた。
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次の日の夜。俺たちは地下街への入口があるという隠れ家に来ていた。
ガチャり、と扉を開けると中は物置になっていた。一見すると何もないように感じるが、隠し扉があることに気づいた。そこから僅かに魔力の漏れがあったからだ。
棚をずらすと、地下に繋がるであろう扉があらわになった。
「
視覚的にだが、俺たちの姿は消えた。それに今はフードを被っているため魔力隠蔽が働き、相手からはほぼ何も感じない状態になった。
「行こう」
こうして、斧の勇者討伐作戦が幕を開けた。
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