第13話

「ここが昨日言ってた店か…」


俺とアーシャは昨日の温泉にて男性(ロボフという名前らしい)に紹介してもらった店に来ていた。店の名前は「ロボフ魔道具店」と、何ともシンプルなものだった。


「そうだ。意外と品揃えがいいだろう?」


ロボフは自慢げに語ってくる。ちなみに、ここの店にある魔道具のほとんどが自身の魔法で代用できることは……秘密にしてある。


「そうだな、結構驚いた……。何かおすすめなものとかあったりするのか?」


「商売人としてはこの店の全部の商品がおすすめだ、と言いたいところだが……うーん、ちょっと待ってろよ」


そう言うと店の奥に入って何やら漁り始める。


「パベル様、あまりお金を使わないようにしてくださいね。私たちはお金を手に入れる術がまだないんですから」


「もちろん、わかってるさ。でも、何一つ買っていかずに帰るのは申し訳ないから」


「まぁ、確かにその通りですね。でも、高いものはできるだけ避けてください」


そう話していると、奥からロボフが戻ってきた。


「これだよ」


そう言うと、小瓶に入ったポーションをカウンターに置いた。


「何のポーションだ?」


「魔力増強…それも、ほかの店で売ってるものの数倍だ」


見た目は普通そうだが、何か入っている素材が異なるのだろうか。


『このポーション、随分と効力が高いぞ』


(わかるのか?)


『ああ』


どうやらクロノスはこのポーションを認めているようだ。


「じゃあ、それを貰ってもいいか?」


「おう、2500ギルだ」


俺は腰に着けた皮袋に手を入れ、お金を漁る。


「ポーションにしては安いんだな」


「いーや、これが普通の店で売られてたなら2倍くらいしたさ。俺には安く売ってくれるツテがあるのさ」


「なるほどな」


俺はお金を支払い、ポーションを受け取る。


「にいちゃん、冒険者だろ?いつしか役に立つ日が来るといいな。……その時は感想を聞かせてくれよ?」


遠回しに、「また来いよ」と言われているらしい。俺はそれがおかしく、フッと笑うと


「わかった、またこの街に寄った時に来るよ」


と言ってその店を後にした。


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翌日俺たちは街を出発し、南西の方向へ進んでいた。目指すは「暴風」の魔王、ノトスの支配する北西の地。「暴風」の魔王は魔王の中では最も長く人間界にいる魔王だ。そのため人間界のこともよく知っていて、話が分かる奴だとクロノスは言っている。


「暴風の魔王……俺の魔法との相性は大丈夫そうだが、万が一交渉が失敗して戦闘になったら、どうすれば良いんだ」


『そうならないように最善を尽くせ』


「まぁ、それが1番無難ですけどね」


そう、今回俺たちがする交渉というのは、かなりリスクが高いものである。


「交渉、上手くいくでしょうか。などと急に言われては、いくら魔王でも躊躇う要求ですし…」


「まぁ、いきなり「時空」の魔王の力を持ったやつが現れて「俺の身体に入って、力を貸してほしい」なんて言われたらな」


俺は少し不安を抱えたていた。万が一この交渉の内容でノトスが機嫌を損ね、俺たちに危害を加えて来た場合どうすればいいのか、対策は考えられていない。力ずくで分からせるというのも無くはないが出来れば穏便にすませたい。それに相手は魔王だ。全力でやらなければあっという間に殺されるだろう。まぁ、自身の命を守るためなら「時空」の魔王の力を使うことも惜しまないが。


「……ん?」


道の少し向こうから、何やらとてつもない大きい魔力を2つほど感じる。それに、小さな魔力が大きい魔力の周りを囲んでいる上、こちらに近づいてくる。


「パベル様」


「ああ」


この感じ、間違いない。勇者の魔力量だ。だが、あの時の気配とは微妙に違う。


「王国に勇者はどのくらいの人数いるんだ?」


「確か3人だったはずです。「剣」の勇者レオノス、「斧」の勇者ゴルゴス、そして「拳」の勇者カルギア」


じゃあ、いるとしたら「斧」の勇者か「拳」

の勇者か。


「ひとまず、様子をうかがいましょう。マントには魔力隠蔽がかけてあるのでバレる心配はないはずです」


「ああ」


アーシャも顔を知られないように、上手く魔力を隠したようだ。そのまま俺たちは列に近づいていく。すると次の瞬間、俺の目に衝撃的な光景が飛び込んできた。


「おい、早く進め!」


「おせーぞ、さっさとしろ!」


王国兵が、数人の奴隷に大量の荷物を運ばせていた。皆苦しそうな表情で歩いている。おそらく、別の田舎の村から連れてこられた人達だろう。あの時、もし騙されて王国に行っていたら、村のみんなもこういう風にされていたのだろうか。

俺たちの真横を列が通過していく。


と、列の1番後ろから先程の強力な魔力を察知する。


「来たか……」


デカい大斧を背中に構えたがっしりとした体型の大男がでかい魔力量の正体だった。「斧」の勇者。確かに大斧を使いこなせそうな体つきである。


そしてその隣に、奴隷の少女を連れている。その少女は他の奴隷と比べて幼く見える。だが、この子が他の奴隷と違うところは種族だった。


(エルフか…)


エルフは人族と比べて魔力の保有量が倍以上だ。勇者のそばに置かれるのも万が一のための盾だろうが……。まぁ、こういうことをしている時点でこいつも「剣」の勇者のように

人をまともに扱わないことは分かったのだが。


そう思っていると、エルフの少女と不意に目が合った。すると、少女が何か訴えかけるように口を開く。


“たすけて”


それは耳を澄まさないと聞こえないような小さな声だった。だが、何故か俺の耳にはそれがはっきりと届いた。















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