第10話

俺はいつも通り、隠れ家での特訓生活に勤しんでいた。だが、なにか異変を感じる。

言葉では表せない、何か。胸のうちがザワついているような、そんな感情が渦巻いていた。休憩の時、そのことをクロノスに打ち明けると、意外なことにクロノスも相槌を打った。


『まぁ、万が一外で何かが起ころうと、定期的に見回っているアーシャが報告にくるだろうから心配はない』


「まぁ、でも……」


それでも1度でもいいから、自身の目で確認しておきたい。そう思ったその時。


「クロノス様、パベル様。緊急事態です」


壁から影を媒体にしてズズッとアーシャが出てくる。


『どうした』


アーシャの声がかなり切迫している。何かあったのだろうか。


「南の地方を支配するとある魔族が、勇者に討ち取られた、と」


『そうか。……思ったより早かったな』


想定以上に進行が早い。王国は東に位置する。そのため、周辺である南の地域が制圧されたのだろう。


『まさか、フルヴィオがここまで行動が早いとは』


「どうします、クロノス様」


アーシャがクロノスに不安そうに問うた。


『……まぁ、ベルの実力も雑魚にはやられん程度にはついた。そろそろ頃合だろう』


「普通に強くなったって言えば良いだろ。今なら少なくとも上級階級の魔物は余裕で倒せる」


俺はムッとして、軽く小馬鹿にしてきたクロノスに言い返す。


『はっ……どうだか。我はかつての勇者相手に圧勝だったぞ』


「そこは普通勇者が魔王を倒すんだろっ!?何しれっと圧勝しちゃってんだよ!?」


クロノスの小馬鹿にしたような口調に、思わず大きな声を出してしまう。


「2人とも、こんな時にまで張り合わないでください。今は緊急事態なんですから」


通常運行の2人をアーシャが呆れながら止めに入る。


『……まぁ、明日の早朝にここを出るか。こちらもそろそろ対フルヴィオのを進めるとしよう。ベル、アーシャ。共に装備を整えておけ。ここにある武具庫を使ってくれていい』


そう言うと、体がズズッと沈みこみ始める。



もうちょっとましな移動方法は無いのか、と思いながらも、俺たちは地下にある武具庫に移動した。


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周りを見渡すと、本当に様々な武具があった。


「こんな所があったんだな」


「かつてクロノス様が王国軍を討伐した際、手に入れた武器のほとんどがここに入ってます」


すごい武器の量だ。装備も沢山あるし、これならかなりいい装備を揃えられそうだが……。


「まぁ、ガッチガチの鎧付けるよりかは動きやすさ重視の方がいいよな……。それにこの髪だと目立ちそうだし」


灰色のフードが付いているマントを手に取ってみて、試しにつけてみる。見た目に反して保温性が高いようだ。


「よく似合ってますよ」


アーシャはそう言うとこちらに歩み寄ってくる。


「一応「魔力隠蔽」と、「身体能力向上」、「魔法威力増強」を付与しておきましょうか。万が一王国民にクロノス様とパベル様の存在が知られれば、情報があっという間に広がってしまいます」


『万が一フルヴィオが我らの存在に気づいたのなら、全力で潰しに来るだろうな。奴の計画に我らは障害となりうるのだからな』


「魔王の全力……考えるだけでも怖いな」


勇者を投入してくるのは間違いない。だが、勇者ひとりがどのくらい強いのかがはっきりしない今は、無理に手出しはしない方がいい。


「まぁ、クロノス様の力を受け継いだパベル様もかなり強いですから心配はないと思いますよ」


「そうは言っても、アーシャさんに勝ててないからな。まだまだ強くなる必要があるよ」


俺は首を横に振る。


「じゃあ、これからの旅で強くなってくださいね」


そう言って、アーシャは少し嬉しそうに微笑んだ。



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「それじゃあ、準備はいいか?」


「はい」


『構わん』


確認をとると、俺は目を閉じて、脳内に光のイメージを構築する。


転移アクティベート!」


その瞬間、体が闇に包まれた。


ゆっくりと目を開くと、周りには森が広がっていた。戻ってきたんだ、あの森に。出来れば目立ちたくないので、夜明け前に出発することにした。そのため、辺りはまだ薄暗く、視界が悪い。それに肌寒くも感じる。


『まずは、隣町か』


「そうしたいが、まずは行きたいところがある。……いいか?」


あの村のみんなの埋葬が済んでないんだ。せめてそのくらいはしてあげないといけない。


「わかりました、行きましょう」


村に向かう道中、沢山の死体が目に入った。ほとんどが腐敗が進んでいて、一部は白骨化しているものまであった。だが、鎧を身につけていたため王国軍の死体だと分かり、それらは無視して進んでいった。

村に近づくにつれ、あの頃の記憶が鮮明に蘇ってくる。狩りの練習に明け暮れた日々。ロゼと一緒に遊んだ日々。………ロゼはどうなっただろう。ちゃんと拾って貰えただろうか。多分、現実的に厳しいのは分かっている。けど、それでも僅かな可能性を、今でも信じている。


「っ……」


村に入ると、たくさんの死体が転がっていた。村も荒れ果てている。あの後、村のみんなはおそらく皆殺しにされたのだろう。考えるだけでも胸が締め付けられる。


「もう、誰が誰だか分からないな……」


多分、この中にラリオットさんもいるのだろう。全員腐敗が進んでいて、顔が分からない。せめて男女の区別がつくくらいだ。


「これは、随分と……」


『…………』


アーシャも痛ましそうに村を見回す。クロノスも何も言葉を発さない。


「みんな、苦しかっただろうな……。今、成仏させてやるから」


俺はその場にしゃがみこみ、遺体を一つ一つ丁寧に埋葬していった。アーシャも無言で埋葬し始めた。


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全員の埋葬が終わった時には、日はすっかり昇りきり昼頃になっていた。最後に、手を合わせ、無事天界へ魂が行くするように祈った。


「ありがとう、もう大丈夫だ」


俺は微笑んでそう言った。


「…………じゃあ、行きましょうか」


「……ああ」


村の出口まで来て、ゆっくりと振り返る。

そこには笑うみんなは、もういないけれど。


「じゃあ、行ってきます」


そう別れを告げると、


--行ってらっしゃい!--


みんなが笑みを浮かべながら、そう答えてくれたような、そんな気がした。





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~投稿者より~


ついに1章「悪夢編」が終わりました。これからは2章「外世界編」の始まりです。★評価とフォロー、感想をいただけると執筆スピードが上がると思います!w


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