第2章 外の世界、そして出会い
第11話
「クソがっ!まだ見つからないのかあのガキは!!」
「も、申し訳ございません、レノウス様」
レノウスは酒を飲みながら、あの村で逃がした少年がまだ見つからないことに苛立ちを隠せなかった。
「半年だぞ……?半年経ってるんだ!それなのになんで見つけられない!てめぇらは無能かッ!?ああ!?」
家臣に向かって中身が空になったグラスを投げつける。それは家臣ではなく壁にぶつかり、音を立てて砕け散った。
「万が一あのガキが生きてて、王国の実情をバラされたらまずいんだぞ……クソッ!」
「そ、早急に解決させます……!」
「もうこうなっちまったら、労働力として捕まえるのは無しだ、見つけ次第殺せ!いいなッ!?」
家臣は「は、はい!」と言って慌てて部屋を去っていった。
「ったく……役立たずが」
そう吐き捨てると、ソファにドカッと座り、再び酒を飲んだ。
「そうカッカするなって、レオノス。子供1人が王国に影響力を与えられるはずがねぇさ」
斧を持った大男が、そう言ってレオノスを落ち着かせる。
「万が一があるだろう?お前は楽観視すぎなんだよゴルゴス」
ゴルゴスはこの国の勇者の1人、斧の勇者であり、近距離戦では負け無しの怪力である。
「まぁ、万が一はあるかもな。けどよ、子供一人で何が出来る?しかも田舎の村だろ?大した魔法も使えねえさ」
「はっ……んな口きくんならお前がとっとと倒してこい」
レオノスは苛立ち、そう吐き捨てて部屋を去っていった。
「別にいいけどよ、お前たちの部下の手柄取っちゃうぜ?俺には最強の道具があるんだからな………おい、行くぞ」
ゴルゴスは首に鎖が付いたエルフの奴隷を引っ張る。
「ゴホッ...ヴ...ゲホッゴホッゴホッ...」
エルフの少女は急に引っ張られたせいで倒れ込み、思わず咳き込んでしまう。
「あん?お前、俺の前で汚ねえ息すんなよ、言っただろ?」
「す、すいません……」
「……罰だ」
そう言うと、思いっきり少女を殴り飛ばした。
「……っあ!……すいません、すいません、すいません……!」
少女はヨロヨロと立ち上がり必死に謝る。
「次はねえぞ、お前は貴重な道具なんだからな」
「はい……」
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「着きましたね」
「結構大きい街なんだな……」
俺たちはまず、1週間ほど掛けて、近くにある都市に来ていた。
「ここは王国軍が来ていないのか?」
周りを歩く人達は楽しそうで、皆活気に溢れている。子供たちも元気に走り回っている。
『王国とは真反対の方角にある影響で、ここまでたどり着けていないようだな』
「それに、このような都市を陥落させるのはかなりの消耗になります。大規模な軍もあるでしょうし、先に辺境の村を陥とすのが良いと考えたのでしょうね」
確かに、王国はそう考えそうだ。無難に抵抗の弱い箇所を陥としたのだろう。
そうやって話していると、遊んでいたであろう少年が俺にぶつかってしまった。
「おっと…大丈夫か?」
「ご、ごめんなさい……」
少年は俺の顔を恐る恐る見上げる。
「俺は大丈夫だぞ。ほら、行きな」
「う、うん。ありがとう」
そう言って少年は急ぎめに走り去ってしまった。
「あの子、明らかに怯えてたよな……」
「まぁ、いかにも怪しそうな格好してますしね、私達」
アーシャは苦笑いをする。まぁ、魔力隠蔽を付与してあるので、あまりこの服はコートは外せないのだが。しばらくの我慢か。
「とりあえず、宿を探そう」
俺がそう言うと、アーシャは
「それは私が手配してきますので、パベル様は観光でもしてきて、旅の疲れをとったらいいかがですか?」
「いいのか?」
「はい、先程からうずうずしてるようでしたので」
「そんな恥ずかしいこと気づかないでくれ…」
アーシャはそんな俺を見て微笑みを浮かべる。それから少々のお金を渡され「では、ごゆっくり」と言って宿を取りに行ってしまった。まぁ、今までは田舎に住んでたのでこういう都会に来ると、どうしてもワクワクしてしまうのだ。今はアーシャの言葉に甘えさせてもらおう。
「さて、どこに行けば良いか……。クロノスはどこか行きたいか?」
『どこでも構わん』
「その回答が1番困るんだが……。まぁ、適当にぶらつくか」
商店が沢山並んでいる通りを適当にぶらつくことにした。だが、歩いているうちに次々と興味のあるものが出てきた。
「そこのお兄さん、リンゴパイはいかが?」
「り、リンゴパイ?」
リンゴは知ってるけど、リンゴパイってなんだ。
「そう。パイ生地に蜂蜜で煮詰めたあまーいリンゴを包んでるんだよ」
見ると、美味しそうなリンゴパイとやらが陳列されている。漂ってくる匂いに思わず「一つ貰えますか?」といった。店主のお姉さんがは「はいよ、一つね」と言って包みに包んで渡してくれた。
「いただきます………お、美味しい!」
「そりゃ良かったよ」
お姉さんは嬉しそうに微笑んだ。
「アーシャさんにも買っていくか。……すいません、もう一つ貰えますか」
「気に入って貰えたようで何よりさ」
お金を払い、店を後にする。「また来なよ!」とお姉さんは手を振ってくれた。都市にはこんなに美味しいものがあったのか。
「村のみんなにも食べて欲しかったな……」
そんなことを思いながら、俺は自由な時間を思う存分満喫した。
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