第8話

「って言ったはいいものの、一体どうやって訓練をするんですか?」


クロノスは僕の体の中に入っていってしまった。魔法を覚えるには実際に見てみることが大事だと言うが、今の状況では、それができない。


『心配ない。私の優秀な部下に基本的に指導を任せる。……出てきていいぞ、アーシャ』


すると、音もなく1人の銀髪の少女が、僕の前に降り立った。


『彼女はアーシャ。我が最も信頼している自慢の配下だ。武具での戦闘能力は我よりも引けを取らない』


クロノスが信頼を置く人……。じゃあ、ものすごく強い人なんだ……。


「よろしくお願い致します、パベル様」


「は、はい。よろしくお願いします」


『さて、顔合わせも済んだところだ。行くぞ』


「えっ……どこに行くんですか?」


『我が配下も知る者は少ない、とある隠れ家だ』


「どうしてまたそんなところに」


『気配探知で王国兵を見つけた。それも大軍でな。どうやら本格的に我を潰しに来たらしい。………先程は派手にやりすぎたか』


先程って……もしかして僕が気絶している間に何かあったのだろうか。


「クロノス様、この気配……」


アーシャさんが周囲を警戒したような声を出す。


『ああ。剣の勇者だ。雑談してる暇は無さそうだな。……しかし、この体では魔法を使えん。頼んだぞ、アーシャ』


「分かりました。……転移アクティベート!」


ズズズ……


「わわっ!?」


地面に体が沈みこみ始めた。思っていたのと違ったため、少し動揺してしまう。転移って、一瞬で移動できるものだと思ってた。


『アーシャは我とは違い、光魔法は扱えないからな』


(な、なるほど)


クロノスは僕の思考を読み取ったのか、説明をしてくれた。果たしてこれは便利なのか不便なのか……。読み取られたくない思考まで読まれそうで少し怖い。


────────────────────


「くそ、逃げられたか」


剣の勇者、レノウスは誰もいない「時空」の魔王の屋敷の中で舌打ちをする。


「おおかた、転移魔法かなにかで逃げたのだろう」


だが、どこに逃げたのかが検討がつかない。一旦「不死」の魔王の所に戻ろうか考えるが、すぐに打ち消す。


「大した成果もなく戻ったら、絶対に殺される……。おい!なにかわかったか!」


引き連れてきた王国兵に問うたが返事はノー。


レノウスは髪をガシガシと掻きむしって再び舌打ちをした。


「徹底的に探せ!少しの痕跡も見逃すなよ!」


そう怒鳴り声を上げて、再び索敵魔法を発動させた。


────────────────────


特訓初日。


『魔法はとにかくイメージが1番だ。水なら何にでも順応する柔軟さ。炎なら燃え上がり勢いがある攻撃……とまぁ、人によってそれぞれだ』


「なるほど……」


けれど、僕は魔法と言われてもイメージがイマイチしにくい。先程見たものは転移系だったので分かりにくかったし。


『まずは基礎中の基礎。魔力を集めるというのをできるようになってもらう』


「魔力を……集める?」


『目を閉じて、感じてみろ。我がベルの中に入ったことで多少は分かるはずだ』


言われた通りに目を閉じると、確かに様々な色に輝く光の粒が空気中に漂っていた。


『まずは水からだ。まぁ、色は言わずもがな青色だ』


「集めるって……どうやるんですか」


『自分で考えろ。自力で理解しなければ魔法は使いこなせない』


そんな事言われても……、と思いつつ何とかしてやってみようとする。手でかき集めてみようとしてみたりしたが、ダメである。


「身体の中にある水魔法の魔力を使って、空気中の魔力を引き寄せる感じでやるんですよ」


アーシャさんは苦戦してる僕にそう助言してくれる。


「…………」


目を閉じ、自身の体の中をイメージする。水の魔力……水の魔力……。


確かに所々にそれらしきものがあるが……。


「なんだか量が少ない気が……」


『それでもできるようにしろ』


「なんて無茶な」


『弱音を吐けば殺すと言ったが?』


もはやここまで来るとスパルタを超えている。ただの脅迫じゃないか。アーシャさんに目線で助けを求めると”頑張ってください”という目で見つめ返される。


結局僕は諦めてため息をつくと、深呼吸をして集中する。


「ふぅぅぅ………。……っ!!」


水魔法の魔力をどうにかして指先にかき集める。


『ある程度集まったなら、それを自身の魔力と組み合わせて具現化し、放出するんだ』


ちょっと何を言ってるか分からなかったが、とにかく今集めたものを放出すればいいのだろう。


「ぐぅ……っ!」


プルプル……と力を込め、何とか水を出そうとする。すると。


指先に、ほんの僅かにだが水の塊が生成された。


「できた……!」


気を緩めた瞬間、それはすぐさま消え去ってしまった。けど、それよりも僕は、初めて魔法を使えた喜びの方が気持ちでは勝っていた。


『なんだそのノミみたいな魔法は』


「え、ええ……?」


だがそのすぐ後、クロノスは辛辣な言葉を僕に与えたのだった。










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