第7話
『………覚悟は、とっくに決まっていたようだな』
「はい」
僕は静かに頷く。
『言っておくが、フルヴィオを駆除するためには、まずは手駒を破壊できなければ話にならない。最初に狙うは、王国奪還だ』
ようするに、まずはフルヴィオの前に、勇者を敵に回すということか。
「上等だ。やってやりますよ」
僕の意思は揺るがない、ということを目で伝える。何せ、いくら操られていたとはいえ、勇者は僕の大切な人を殺した。絶対に許すわけにはいかない。
『では、早速儀式の準備に移ろう』
ズズズ……
クロノスがパチン、と指を鳴らすと大広間の床に突如魔法陣が現れる。
『言っておくが、もし我が憑依した場合相当な負荷がかかる。しばらくは苦痛だろうが、仇を打つというのならそのくらい乗り越えて見せろ』
ゴクリ、と生唾を飲み込む。
『我が名は魔王クロノス。下界の魔王にして、時空を操る魔王なり。汝、我と契約を結び、力を手に入れることを誓うか』
詠唱が始まった時、魔法陣が青紫色に淡く発光した。魔法に関しては未熟者な僕でも、膨大な魔力が集まってきているのを感じる。
「誓います……。っ!?ぅあああっ!!!」
その言葉を発した瞬間、激痛が全身を襲った。思わず倒れ込んでしまう。ドバッ、と汗が吹き出す。
痛い。痛い。
体内をこじ開けるように、禍々しい魔力が駆け巡る。
脳内へ無理やり膨大な魔法の知識が流れ込んでくる。クロノスの記憶も。
『お……は勇者なん……い……殺人快……狂だ』
『村のみ……を………俺の大切な…………れた痛みは…苦し…は………こんなもの………い』
脳が焼き切れそうだ。
苦しい。
悲しい。
憎い。
絶対に、勇者を、ユルサナイ。
「っ……ああああああああぁぁぁ!!!」
────────────────────
「はあっ…!はあっ……!はぁっ………!」
痛みが収まったと思ったら、今度は猛烈な倦怠感が体を襲った。その場に仰向けになって酸素を求めるために呼吸が早くなる。
『どうやら、乗り越えたようだな』
「……っ!?」
先程より、強く、鮮明にクロノスの声が脳内に響き渡る。見ると、さっきまでクロノスがいた場所にはもう誰もいない。
本当に僕の体に……憑依したのか。それに、僕の考えてることが分かるのか。
『そうだ。少々居心地は良くないが、憑依は完了した』
確かに、先刻までの自分とは絶対的に違うのを感じる。魔力の流れを鮮明に感じるし、体内に大量の魔力があることも感じた。自分の体じゃないみたいだ。
「何か、体の中に強力なものを感じます」
『私は魔王の中でも唯一の全属性使いだからな。それだけ魔力も莫大なのだろう』
全属性使えるって……すごいな。
というか、そんなのに耐えられた僕自身にも驚きを隠せない。
『ただひとつ言えることは、お前は知識としてそれを身につけただけで、決して使いこなせるようになった訳では無いということだ。という訳で、今日から死ぬ気で鍛えてもらう』
「し、死ぬ気でって……」
『比喩ではない。少しでもお前が弱気になろうものなら、すぐに殺す。魔王と契約を結ぶとは、そういうことだ』
「…分かりました」
こうしてこの日から、地獄の鍛錬が始まった。
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