第6話


『……ようやく死んだか』


あれからしばらくは王国兵達は焔に包まれようと、うごめいていた。しかし、さすがに再生能力が尽きたのだろうか。一気にバタバタと死んでいった。


王国兵の動きからして、が絡んでいることは間違いなかった。


『「不死」の魔王、フルヴィオ 。まさか王国を手駒にするとは』


全く、あいつも面倒なことをする。勇者が魔王の手駒になったら、人類が対抗できる手段はなくなってしまうのを知っているからこその行動なのだろうが。


『まぁ、こちらもとっくの昔に策は練っている。問題はなかろう』


さて、早速始めるとするか。「時空」を超えた復讐の始まりだ。


────────────────────


「ん、んん………?」


どうやら気絶してしまっていたみたいだ。

僕はゆっくり体を起こすと、周囲の環境の変化に気づく。


「ここ、どこだ?」


僕は薄暗い、円形の大広間にいた。

気を失う前の出来事をゆっくりと思い出してみる。

確か狼の魔物に襲われて、そしたら、何故か狼の魔物が死んでいた。その後、謎の人が現れたのまでは覚えている。

……そこからの記憶が無い。ということは、あの人が助けてくれたのだろうか?


『目が覚めたか』


「……!」


聞き覚えのある声が脳内に響き渡る。

顔を前に向けると、そこには玉座に座る先程の謎の人がいた。


「あなたが、僕を助けたんですか?」


『ああ』


「あの……ありがとうございます」


『………』


「えっと……いくつか、聞きたいことがあります」


『なんだ』


「あなたは、何者なんですか?そして、ここはどこですか」


『………随分と、冷静なのだな』


「…いえ、心臓はバクバクですよ。さっきまで死にかけてたんですから」


そう言いながら、先程のことを思い出してしまい、ギッと手を自身の手を強く握りしめる。


『まぁ、良い。我は、「時空」の魔王クロノス。そしてここは、私の住処だ』


魔王クロノスとやらは俺の目をじっと見つめながら話す。


「魔王……?」


魔王という言葉を聞いても、不思議と恐怖は感じなかった。


『我の名を聞いたのだ、お前も名乗れ』


「パベルです。ベル、で構いません」


クロノスは少し沈黙する。なんだろう、と思ったが、何事も無かったのように言葉を進めた。


『ベル。お前は、あるいはこの世の人間でもいい。魔王の存在は、知っているか』


「いえ、おとぎ話で聞いたことがあるくらいです」


『なら、まずは我ら魔王について話そう。魔王というのは、この世をうろつく魔物達の頂点に君臨する。魔法の種類のように、魔王にも種類がある。

「煉獄」の魔王、ボルケラ。

「豪水」の魔王、ウィレム。

「暴風」の魔王、ノトス。

「光明」の魔王、ヘミアスト。

「不死」の魔王、フルヴィオ。

そして、「時空」の魔王、クロノス。

それぞれの魔王がそれぞれの支配域を獲得し、魔物を操っている』


「じゃあ、あなたはここ一帯を支配してるのですか?」


『いや、違う』


「……?」


『我は魔王の中でもイレギュラーな存在だ。故に、支配域は無い』


「どうしてですか?」


『単純に、最近生まれた存在だからだ』


「はぁ……」


つまり、魔王になったばかりということなのか…?


「それで、魔王の存在は分かりました。で

も、どうしてそんなことを僕に?」


『単刀直入に言おう。もう1人のイレギュラー

を排除するためだ』


「もう1人の、イレギュラー……?」


僕の問いに、クロノスは静かに頷く。


『「不死」の魔王、フルヴィオだ。

やつは魔王の中で立場が高い反面、危険だ。本来魔王というのは、この地上世界とは違う世界である下界にいなければならない。だが、人類の人数を調整するため、権力のある魔王の数体が現実世界に赴き魔物を操るのが掟になっている』


そんなことが決められていたのか。魔王と聞くと邪悪なイメージが湧きやすいが、案外そういうわけでも無さそうだ。


『……だが、奴は。フルヴィオは、禁忌とされる人間そのもののの操作を行い始めたのだ』


クロノスは、うっすらと光る緑の目を細める。


『早い話、地上に赴いている魔王らで叩き潰せばいいのだが、そう上手くはいかない。はっきり言って、魔王同士が地上世界で本気で争えばこの世が滅びかねないのでな。なら、方法は1つ』


ゴクリ、と生唾を飲み込む。



『人間に魔王を憑依させ、魔王の力を貸しつつ、戦わせるのだ』


「…………つまり、僕はその器になれと?」


『そういうことだ』


「……拒否権は?」


『ない』


即答。


「随分と横暴なんですね」


僕は思わず苦笑いをする。


「なんでそんなことを僕に?」


『お互いに利害が一致しているからだ』


「どういうことですか?」


一体なんのメリットが僕にあるというのか?


『フルヴィオは王国を中心として、禁忌を行っている。そのため、本来魔王を討伐するための勇者らは狂い、王国を実質支配した。

そして、勇者らは奴隷を各地から集め、働かせている。男は労働奴隷、女は性奴隷、子供は奴隷もしくは人身売買、とまぁ、人間たちにとっては非人道的な行為がなされている。今回のお前の村の件もそれに関係しているのだろう?』


その言葉を聞いた時、心の奥からふつふつと何かが湧き上がってくるのを感じた。


『もしお前が器になり、力を手に入れたとしたら、死んだものたちの仇を取れる。そして、我ら魔王の目的であるフルヴィオの排除も出来る。どうだ?』


確かに、そうだ。魔王の事情は正直に言ってあまり興味がない。なぜ、魔王がこんな話を僕に持ちかけてきたか、まだ納得はできない。だが、村のみんなの仇を取れるというのなら、話は別だ。


「………僕は、村の人達に沢山救われた。けど、その恩は返せてない」


僕は村のみんなのことを思い浮かべながら、言葉を紡ぐ。


「いつか、恩を返したかった。でも、それは、叶わなかった」


ここで、落ち込んじゃいられない。


僕は、前を向かないといけない。


「せめて、みんなが安らかに眠れるように。僕は、僕は……!」


だから、覚悟を決めろ。歩みだせ。



「村のみんなの仇を……取る!!」


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