第2話
「じゃあ、行ってきます」
弓を肩にかけて、短剣の入った皮の鞘を腰に巻く。そして、玄関を出ようとした時、家からパタパタと足音が聞こえた。
「ベル、今日は私も一緒に行っていい?山菜を摘みに行こうと思ってたから」
「わかった。一緒に行こう」
「やった、準備してくるね!」
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森に入ってしばらく経った。だが、僕は何か違和感を感じていた。それはロゼも同じようで、不思議そうな表情をする。
「動物たちの気配が全くしない、ね……」
「うん……」
僕は辺りを見回す。いつもは鳥のさえずりが聞こえてくる筈だが、それさえもない。
「昨日まではそんなこと無かったのに、急にどうしてだろう?」
今の森は鬱蒼としていて、不気味な感じがする。なんだか、怖い。
「今日はとりあえず山菜だけ取って帰ろう」
ロゼがそう言いながら、僕の服の袖をキュッと握る。どうやら怖がっているらしい。できれば僕もやることをやって早くここを去りたいところだが……。
「いや……それは無理みたいだ」
僕は地面の根元に生えていた山菜を見る。
「え?」
山菜は枯れ果て、ボロボロになっていた。
それどころか、一帯の草花も枯れ果てており、酷い有様だった。
「どうしてこんなことに…」
「と、とにかく一旦村に戻ろう。お父さんにも早く伝えなきゃ!」
「ああ」
二人は村に戻るため走り出した。妙な胸騒ぎがする。急がないと、何かが手遅れになる。その気持ちが、僕を急かした。
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「ラリオットさん!」
「ベル、どうしたんだ。…何かあったのか?」
ラリオットさんは僕の険しい表情から、何事かといった様子だ。
「森が、おかしいんです」
「おかしい……?」
「昨日まで元気だった動物は1匹もいなくて、植物もほとんど枯れ果ててるんです」
僕は森で見てきたことを細かく説明した。すると、ラリオットさんは「森もやられたか」と言った。
「うちの村も、作物がみんなやられた。原因はわかっていないが……何らかの関係はありそうだな」
「そうですね……」
「ねえ、お父さん!牛と鶏も……!」
そこへ、ロゼが慌てて家に駆け込んできた。
急いで家畜小屋に行くと、そこには酷い光景があった。
「し、死んでます。これ、全部死んでます!」
家畜が全て死んでいた。それも、腐敗が進み、異様な匂いを放っていた。
「どうして……。流行病?」
「いや、だとしてもこんなに腐敗が進んでいるのはおかしい。このくらいのレベルだと、半月は越してるはずだ」
「じゃあ、何があったんですか……?」
「分からない。このことは王国の方に知らせておこう。何かしら調査団が送り込まれてくるはずだ」
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翌日。王国軍の紋章が付いた馬車と、護衛の兵士20人ほどが村にやって来た。
「私は、この件で王国から派遣されました、「剣」の勇者レノウスと申します。村長はいらっしゃいますか」
豪華な装飾が施された馬車から、顔立ちの整った青年が出てくる。
「わしが村長でございます、レノウス様」
村長が前に出てきて、片膝を付く。
「この度、国王からお言葉を預かっている。心して聞くがいい」
「はっ……」
「アレーヌ王国第29代国王、ヨリス・アレーヌより。我が王国は、原因不明の疫病と思わしきものの調査のため、各地の村に調査隊を派遣した。厳粛な調査を行う必要があるため、住人には王国への一時避難を命ずる。避難の間、労働も希望者は行うことができる。もちろん、報酬は払うものとする。王国にいる間の安全を、ここに保証しよう」
村人たちがザワつく。「ありがたい」と賛成する人、「急にそんなことを言われても」と否定的な人。
「やったね、ベル!王国に行けるんだって!」
ロゼは、賛成派だった。一時的にでも王国に行けるということに、喜んでいるようだ。
「………」
「どうしたの、ベル。嬉しくないの?」
「………おかしい」
「え?」
「王国からここまでは少なくとも1週間はかかる距離だよ。昨日の昼頃わかったことなのに、どうしてこんな早く到着できるのさ?」
「それは確かにそうだけど……でも、ほら。優しそうな人だよ?」
「でも………」
王国が、最初から疫病のことを把握していたとしたら?
王国が仕掛けたことだとしたら?
じゃあ一体なんのために?
頭の中を思考がぐるぐる駆け巡る。どうしてこんなことが思いついたのかはわからない。けれど、本能がそう感じたのだ。
「ベルの言うこと、間違ってはいないだろうな」
「ラリオットさん」
「おおかた、この村の労働力を国に回したいんだろうさ。ついこの間ここを通った旅人から聞いたんだが、王国は今や不正が出るわ出るわで王国での労働者が離れていってるらしい」
その言葉を聞いた村人たちは、一気に不安の空気に染まった。
「確かに……俺も風の噂でそんなことを聞いたことがある」
「そうだな、そうとしか考えられない。しかも、なんでこんな田舎の村の調査隊にわざわざ勇者を送り込んでくるか、不思議だったんだ」
「勇者の力で俺たちを無理やり従わせる気なんだろう!」
「そうだそうだ!」
村人たちはどんどん反対派になっていった。あちこちから「反対!反対!」「俺らの村の問題は俺らで解決する!」といったような声で溢れている。
「…………」
レノウスは穏やかな笑みから一変、急にゴミを見るような表情になった。僕は思わず後ずさりする。
「これだから、一般人は……残念だよ。本当に、残念だ………」
腰からスゥッと剣を抜くと、目の前にいた男性の首を跳ねた。
「っ!?」
ボトン、ゴロゴロ……
地面に男性の首が転がる。村人たちは何が起こったかわからず、その場に硬直している。
「あなた方は真の目的に気づいてしまった!よって、生かすわけにはいきません……この場で………………………皆殺しです♪」
レノウスはそう言って、ニコッと不気味な笑みを浮かべた。
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