四月十日

『マスクブス』


それは、信号待ちの刹那の時間であった。

日本の顔面偏差値は近年向上しているように思う。

理由はただ一つ、マスクの着用率が上がったのだ。


俗世間はこの現象により生まれた美男美女を「マスク美人」と呼んでいる。

ここだ。私はここに少しばかり違和感を感じた。


「マスクブス」ともいえるのではないか?


外すまではその人が美人かブスかという判断ができない。

この構造はシュレディンガーの猫という思考実験と似ている。

観測するまでは、対象はブスでもあり美人でもあるのだ。


しかし、「マスクブス」は少し言葉やニュアンスが強すぎるためみんな使わないのだろう。


信号が変わると私は自転車をこいで横断歩道を渡った。

空が青く、雲は絵の一部のようであった。


マスクがコンクリートの上に落ちているのを発見した。

このマスクの持ち主は果たしてどちらだったのだろうか。

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