四月九日
『UFO』
生きていればめんどくさいこともある。
どうしようもなく無気力になることも、無力になることもある。
河川敷に寝転がると、日光とそよ風と草の香りが心地よくて、気が付くと夜のとばりが落ちていた。
今日はそういう日だ。仕方ない。
連れ去られた時間は今頃どこかで幸せに暮らしているといいな。
鈴虫の声が聞こえた気がしたが、気のせいだったかもしれない。
夏の幻影を見た日だった。
「おはようございます」
声のする方を見ると、びちょが夜釣りを嗜んでいた。
月光に照らされ体の一部が光っていた。
「四時限目、寝過ごしてしまった」
「後悔しているのなら、次は大丈夫でしょう」
びちょは体を震わせながら笑った。
竿を振り上げると、小さな川魚がかかっていた。
その魚もまた月光に照らされて、きらきらと星のように光っていた。
生きているのはめんどくさい。
しかし
死んでしまうのはもったいない。
なんとなくそんな言葉が泉のように、脳みそのどこかからこんこんと湧き出していた。
「今日はもう終電がいってしまいましたから、私がスクターで家まで送りますよ」
びちょは川にもう一度ルアーを垂らすと、それをじっと見つめていた。
「わるいね」
私はもういちど横になった。
満天の星空に空想上のUFOを浮かべてみた。
UFOは光が溢れる町の方へ飛んでいくと、全てを飲み干して光を消してしまった後、音もなく飛び立っていった。
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