第6話 遅刻のせんどー

「お前らどうすんねんこれ」


文文ふみふみ市役所が解決いたしましょう」


「よっ、キレてるよー」


 まさにその通りでわしの手入れしたばかりの爪は食い込ませても血が出ないので迫力はないが鬼のような形相はちゃんと天空あまそらの危険信号を点灯させた。 現在、黄色。


ボディービルダーの掛け声のキレてるをかけていることで赤信号


 それなのになぜこんなことになるのか


「お前らまじで……はあ」


「お濃っイェル? こつぇいれの????」


「ろれつエグッ、お前はええねん。 おい天空」


「あーたらしーいあさがきた、きっぼーをのっあっさーだっ」


「ごまかすの下手か」


 頭を抱えることなんてなんべんもあったけどこんな形で抱えるなんてことはもちろん産まれて初めてや、なんなんこいつらまじで


「もう、ええよ。 放課後なったし、いこか」


「「えーー!!」」


「こっちが言いたいんじゃボケェ!! あと天空だけでええねんお前誰や!」


「丸茶魂左衛門」


「!?」


「丸茶魂左衛門」


「は?」


「丸茶魂左衛門」


「??????」


丸茶魂左衛門まるたたごんざえもん すみれ


「どんな名前やねんアグレッシブすぎるじゃろ!! 人をバカにするんも大概にせえよまじで」


「いやこれが」


「本名なんだな」


「なんやねんおまえ……なんやねん……!!」


 申し訳なさそうに丸茶魂左衛門菫て書かれた筆箱渡されたけどなんで筆箱幼児なん? 普通ここはノートとか教科書でええやろそしてこの筆箱なんかキモッ ピンクでブヨブヨやしなんでわしこれが筆箱て分かるんじゃ! てかこんなにもキモい形態の容器にわざわざ名前を付けんでもお前しか持ってないやろ!


「はあはあ……」


「どしたのあの人」


「さあ」


「思わず動転して心の中で突っ込み入れてこっちで息切れしたわ!」


「こえー、先進国こえー」


「お前も同じ歯車じゃ!」


「帰っていい?」


「この状況で良く帰宅できると思ったなあ!? メインお前やねんこいつサブやねん分かれや!」


「関西マン怖ええ」


「中国出身じゃえ!」


「ニーハオ?」


「それは中国わしは地方の中国、わかりずらかったなすまん。 話戻してええか!?」


 なんでこんな体力使わないけんのじゃわしわ!


「いやー放課後用事あるんだよね」


「奇遇やん、わしもあったけど天空のせいで潰れたで」


「あーごめん」


「うん、じゃけん紙提出するためにこっちよか」


「うう、授業以外で白瓦に会いに行くのきつすぎる」


「わしもなんよそれ」


「わかった!」


 ようやく納得してくれて体力的にも精神的にも安心してきたでほんま


「家に取りに帰ろう」


「なんでそうなるん?」


「名案じゃん」


 明暗やん。


「ダイジョブダイジョブ、私の家ここから近い方だから」


「ほんまかいな」


「それで紙渡せばおけでしょ?」


「職員室で新しいプリント貰えばええやん」


「職員室で教師に会うのがだるい」


「どんだけ怠惰やねん」


「文はほぼ全ての教員に目つけられてるからなー」


「そなんか」


「担任以外、顔を合わせればすぐ説教だよ、頭悪い癖にルールとかには厳しいんだよねほんと、それに今日一つ下の学年が問題起こしたから職員会議してプリント貰えそうにないじゃん」


「うっわー、完全にそれやわ。 盲点だった」


 ほんま問題起こした一年ぶちまわしたくなってきたでほんま。


 おかげでプリントのないわしは捕縛確定で逆に待つ選択をすれば天空を捕縛する悪循環。


 ここの学校、会議中にどんな理由があっても入室したらキレてくるから面倒なんよ。 それなら時間つぶしになる名目の元、天空の家を往復するのもアリ、か


「……いくか」


「いぇーい」「うぇーい」


「ガッツポーズすんな、なんか腹立つ」


「それで場所は」


「あーうん、電車で秒」


「よっしゃ善チャンレッツラ」


「は?」


 確か、まるたうんたらもんやったか、なに言っとんのかほんまに分からんけん置いていきたい。


「善は急げだってさ」


「翻訳おらんといけんとか来日か?」


 まあそんなこんな靴箱いって靴履き替えて天空靴小っさとかしょーもないこと言いながら駅まで向かうわけじゃけど、まあ当然話に花を咲かせるはめになるわけで


「千堂て遅刻したことあんの? やっぱ部活はバスケ部?」


「それ仙道じゃがな」


「下の名前は」


「奏」


「じゃあきょうから`どうかな`て呼ぶな」


「普通に姓か名にせえや、マルタゴン」


「タが一つ足りない」


「マルタゴンタ」


「文いじめられるー!!」


「千堂その調子」


「慣れるんも酷やな」


 こいつの扱いに慣れるとまるでこれから先も長い付き合いみたいなんよ、それは困る。 はっきりいって体が持たん。 わしだってボケたい


「ねー菫て呼んで? ねえねえ」


「いややわ、あってまだ数刻じゃぞ」


「でも名字呼ぶのめんどいじゃん」


「じゃあ丸」


「いいじゃんそれ」


「文、本気で言ってるー!?」


 まあなんとなく容姿の良い残念な菫が名字ではなく皆等しく名前で呼ぶ理由はこのふざけた名字にあるんやろうな、あんま人の名前いいたくないけど同じクラスにもキラキラネームてだけでいじられとる子おったし、もしかしたら菫も防護策として名前を呼ぶようにしとる。 そう考えるとやはりあんまいじるんはいけんな


「なにしてんねん丸」


「三分待ってる」


「いまの間でコンビニ行ってそばにお湯入れて戻ってくる奴おる?」


「いねえよな!!」


「お前や!」


 まじでやばいやつかもしれんこいつ。


「てか見てよ、この犬ちょーサトイモて感じしない」


 なんなんやこいつ


「でも粘り気ぽさがないから芋に似せてんのもどうかと思うんだよねー」


 ほんまこいつ……


「てか神が人も犬も作ったんならこれもう芋じゃね」


「なんなんお前」


「え、やだ怖いよ千堂そんな異形をみるような目でみないで! あ、三分経った。 いただきまーす」


「世界は広いなあ」


「墜ちたな」


 やかましいわ


 □□■□□■□□■□


 そんで駅ついて電車乗って降りてもうすぐ着くっぽい。


「スマホで三十て打つ時3と10で変換するのすんごい嫌、面倒、奇っ怪、考えたやつわかめ食いすぎて逆に禿げてる」


「んいやなんでまだ蕎麦容器とんじゃお前!? 天空おまえもなんかツッコメや!」


「さんじゅう で変換すればいいじゃん」


「いやんtrt 文私のことよく分かってる、本と天才。 抱きしめたい!」


「もうええ、禿げろ。 お前もう禿げてまえ」


「ぶーぶーなんで千堂は」


「コンビニあるぞはよ捨ててこい」


「はあああああああああ!? マジで覚えてろよ千堂、バキバキのこう……ブロッコリー口の中でアレした奴見せるぞ!?」


「脅しがきしょいんじゃ早よ捨てや」


 猛獣の扱いのほうが楽やでほんま


「天空もよう疲れずにおれんな」


「逆だよ」


「逆?」


「ああ見えて菫は臆病だからみんなに嫌われるの分かってて隠してるもん、今の性格」


「嘘やろ……制御できとんのか」


「だから本気で人が嫌がってることはしないようにしてるし、しちゃっても距離を置いてもうやんないよ」


「まじか、結構本気やけどな、わし」


 ちょっと痒いというか照れくさい。 あんま思い出したくもないけどわしにも似たような、多勢に無勢の状況下に置かれて無理に嫌われたことがある。


 せやから怒りをあらわにすれば止めてくれるかもしれん、でもそれで今のあいつが少し、半歩でも後退するような態度を見てしまったらわしのなかでなにかものがあるんじゃなかろうか。


 繊細な飴細工のようにその美しさは管理されなければ誰も目に付けないような愚作に墜ちる。


 冷たい態度は簡単な暴力で砕けるように

 血で沸いた怒りはあいつの存在を証明できないほどのストレスを与え、二度と原形を取り戻すことはない。


 それなら今の状態を頑張ってキープするんが最善なんかもしれん、知らんけど。


「お待たせ〜」


「待って怖い怖い怖い」


「え、なにが」


「なんで蕎麦もってんねん!」


 しかもフタの隙間から絶妙に湯気が立っとる。


「新発売だったみたい」


「知らんがな」


 そんな拾ってくださいて捨てられた猫の調子みたいに応えられても


「食べきれないかも、文手伝って」


「私アレルギー」


「なんなら、マジで……」


 結局というか当たり前というか、丸──マルタゴンは長いから略──は一人で後半

 気分悪くしながらも平らげ取った。 人間離れした変人でも胃袋はお止め仕様らしかった。


「今日は海老蔵」


「石像の話ね」


 まあ酷い言い方やけど辿り着いた建物はまあ結構建築年数は経過してて、二階建てのパート一番奥に綺麗な植物とナフコとかでうっとる無数の小人が設置されとって赤いサンタみたいな帽子とオーバーオールを持ち上げて鍵を拝借。 不用心にもそれを靴箱の真上にほったらかして玄関の鍵すら閉めんから怖なって閉めた。


 そして季節感ゼロのコタツに吸い込まれ各々だらける。 なんやこいつら


「意外やな、一人暮らしやったんか天空」


「違うよ」


「は?」


 ここに家族で住んどるんか、いや……最低じゃわし、そんな、他人の家庭にたいして、反省せんと


「千堂もさあ、怒んないからおいでー」


 気にしてないのがおちゃらけた天空のそれを物語っとった。 

 普段からこんなじゃけどこいつは本気で怒ったりせんのやろうか


「冷蔵庫にお茶あるー? せんべいと一緒に持ってきてサモタイ」


「なんでわしがおかんみたいなことせんといけんのじゃしばくぞ」


 よっしゃ手本見せたろか? 腕まくって準備ええぞ、こらぁ


「なんて言ったのいまの 今の聞き取れた? 菫」


「DL65事件を忘れるな?」


「怖いわ! ええけんはよプリント渡せや」


「「あ」」


 猫みたいに伸ばしきった体をほぼ同時に90度にして首をこちらに向け二人は驚きを隠せなんような顔で


「「ここ私たちの家じゃないわ」」


「怖いわ!」


 余裕でトラウマ更新したぞ


「まって怖い怖い怖い、誰の家やねんここ!? おまえら他人の家で何くつろいでんねん!! 怖っ!!」


 駐車された自転車をさも自分の物みたいに持って帰るような……持っとかんい敵になら雨の日にコンビニで他人の傘平然と使って帰り出す常習犯みたいな動きやったぞおまえらのくつろぐまでの工程どうなっとんねん。


「どうすんの文、取りに帰るの」


「もう無理、全てを諦めよう」


「諦めんな」


 そこで、遂にというかタイミング考えてほしかったけど、インターホンが鳴って、声と叩く音が混ざって飛んだ。


「ああ、やばい家主とちゃうんかおまえら言い訳あるなら考えとけよ」


「ちょっとまっ──


「はい、すんませんこれには特に事情ないんです」


 そこには


「誰、ですか」


 同じ制服の女子がおった。





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