第5話 幸子、哀れみ。 幸子、憐れむ。

「天気はいいな-」


 てにをは も入れ替えてしまえば即座に化学変化のようなものを脳に報せる。


 もし冒頭の私が「天気がいい」なんて言えばそれはただの晴れ模様にすぎないが


 `が`を`は`に帰るだけでちょっとおしゃれな短歌みたいだ。


「ねー文暇じゃない? アスレチック・幸子しない」


「私は忙しいですよ-」


 一年生が問題を起こしちゃったので今日の授業は自習になった。


 ピンポイントだったのがそのクラス、担任が歴史の佐藤だった。

 佐藤は呼ばれて飛び出て去ってった。


 どうせ今日するはずだった内容を予測してノートに書いているけど周りは結構おしゃべりだ。


 これが偏差値ガチじゃない学校というものか


 スマホもいじっちゃってるしものさしにペンをこすりつけて衝突させる遊びや鉛筆を転がしながらライフポイントを削り合う男子はやはり成長の兆しがない。


 あと菫も


「さあ、マイッチング幸子ちゅわんアマゾンの奥深くでなんかウイルスに感染、日本列島の強奪に挑む右から右からさんがにち伊藤だ右足から繰り出されるレッグラリアートは近所のデジカメオタクの尾てい骨を粉砕することで折り紙付きだーさあどうする日本?」


「はあ」


 消しゴムと消しゴムの仁義・大義なき闘争は私の机という子規模な世界で繰り広げられる。 


 ポケットの中の戦争。 これを聞いて懐かしいと思った中年はそっ閉じを推奨する。


 なぜなら日常ものだからだ。 突然モビルスーツのパイロットになんてならないし女の子が女の子とお話するだけで一日が終わるます。


 神の手はむき出しで主演とゲストを操作してさながら紙芝居だ。


 削ったばかりの鉛筆を保護するキャップを外す。


「バーン バーン バーン!! 最後がクソなミストのように車内に押し込まれた人質の伊藤ファミリー全ッ滅ッッ!! 銃にはかなわなかったかー、そうくればもうお前に勝てる奴なんてで誰も」


「ていっ」


 よく刺さる。


「あああああああああああああぁぁぁぁあああ幸子がああああ!!!!!!」


「ガトツ・ゼロシキ」


「それは零式じゃないよ文!」


「貫かれた幸子は新品で角のあるやな奴だった……消しゴムだけに」


 私はハッピーエンドで終わるんだろ? それ系女子だからバッドエンドはクソだと思ってる。


 なので幸子には消えて貰った。


 生みの親兼、神は長い髪に顔を隠す形で机の下へと沈んでいった。


「markⅡ搭乗」


 でかい激落ちくんが浮上した。 


 確かに見た目は似てるけど


「甘いぜ文、さっきの幸子とは容姿こそそれだがガンダムとリ・ガズィ、スポンジボブのイカルドかっこタコくらい違うぜ」


「かっこはよまなくてもいいんだよ、普通()だよ、それによくわからん」


「えーダメ出しされた」


「Zガンダムとリ・ガズィでしょ」


「……」


「後半とか説明になってないし、大換え品なのを伝えたいなら『海綿なのにスポンジなボブ』とか」


「はいドーン!!」


 無慈悲にもリザレクション・幸子は神のシャーペンクソ握り──三本まとめて握ってぶっさすえげつない行為──によってやられた。 死因は貫通死。


「もういいやこいつ、新品二個あるから相撲しようぜ」


「幸子お前って奴は……」


 産まれる女を間違えたな、仕方なく机にしまっておいた手頃な紙を畳んで折ってテープで留めるとスタジアムは完成、ペンで適当に豚の鼻を描いたら相撲部屋の完成だ。


「よっしゃ、そっちの消しゴム好きにしていいよー」


 こいつ勉学の道具なんだとおもってんだ。


 まあ授業中に消しゴムはんこ作って真顔で泣き始める奴だし仕方ないか、貰った消しゴムには顔でも描いておこう。


「できたー?」


「できたよ-」


「じゃあ私からの入場ね、ハイドンッ!」


 ウニが現れた。


「はーちょっとまってなにこr


 こいつアホな顔してやがるっっ


 無数のシャー芯により重傷を負った消しゴムは触れる者みな傷つけるそのみすぼらしい姿で試合会場に君臨した。


 時代が時代なら消しゴム相撲界の弁慶だ。


「この無双侍沢村むそうさむらいさわむらにかなう者などいないっどこからでもかかってこい」


 余裕過ぎてふざけた足の直立ですしざんまいしてくるのが絶妙に菫しかしなさそうでうざい、でもよく見ると便座カバーだこれ菫め、完全に勝ちを確信していやがるぞー


「じゃあ私の出すね」


「ヘイ、カモンッ!! 復帰阻止の鬼といわれたB技修正サワムラーの本気を」


無限幸子むげんさちこ百式ひゃくしき


「なんだそれー!?」


 二本の割り箸に貫かれることにより自らを犠牲にすることで前方と後方の木製の箸は敵に触れることなく撃墜を得意とする菫のうんたらかんたら川上(確かこんな名前だった。 そしてこれが正しい()使い方だばーかばーか)に触れずして場外へ吹き飛ばす。 そう、こちらも本体が触れずして撃墜を得意としているのだ。


 さらに、後方のバカみたいに長い箸が場外へ落ちぬよう幸子を支え前方の箸が蹴散らす。 自身を犠牲にした幸子はもはや向かうところ敵なしだ。


 なんなら後方の箸はステージぶっ刺さってるからめったなことでは抜けない。


「ききき汚いぞ文ー!!」


「汚くないよ、シャー芯で原型をとどめてない菫のほうがグロいよ」


「そうじゃないよ幸子はもともとわたしのだよ!」


「実はサイボーグなんだよね、これ」


「えー!!」


「幸子は死んだ、もういない」


「でも私の子の胸に今も生き続けてるんだよっ」


「悔しくば勝て」


「チックショーこの短期間でこんなとんでもねえ琴思いつきやがってさすが文だぜ……ぜってー負けねー」


「これで勝ったら明日は赤飯だな」


 幸子と沢村、遂に雌雄を決す


 ──ファイッッッ」


 かけ声と共に火蓋が散る。 激しく振動する二本の指はステージを汚え花火でもなすったように壊滅させる。 一方で私はもう、ぶっ刺さってるからトントンしたところで意味がないのでとりあえず形だけと右手だけでかるく叩いてる。 向こうが必死なのでやけに画になる。


 そもそも学級プリントごときが私たちの争いに着いてこられる訳がなかったのだ。


 沢村は長すぎたら設置時にバキバキに折れるためか事前にバキバキに短く折られたシャー芯を採用しており刺すとき尖ってないと刺すの大変だろうにわざわざ鋭利な方が外に向くようになっている。 そのためかも動くたびに下の紙がビリビリに破れる。


 沢村、お前船下りろ。


「んんんんぐおおおぉぉぉ!!!!!!」


 しかし船長にその気はないらしい。


 なんかもうたたくの諦めてステージをデコピンし始めたもん。

 しょうがないよね、そうでもしないと動かないもんね


「「あ」」


 沢村は地面を裂き、埋まった。


「倒れてないからセーフ」


「こいつに着地の概念あるの?」


 私には『コ……』て聞こえる。 もう楽にしてあげなよ


 しかしそこで沢村は終わらなかった。


 なんと紙製の地上とは違い地下は木製、デコピンでステージ毎動かすコアとなり地上をズタズタにする。


 結果的に私のぶっ刺してた割り箸は意味を失った。


「っべ」


「ヘイどうした文チャーン!?」


 もはや死ぬ方法のない《負けない》沢村は無敵、拾われた幸子を窮地に追いやった。


「デコピンずるくない?」


「はーいピンチになってから言うのなしー!! いやなら文も使うんだね、使えたらの話だけどんっふー!!」


「てい」


「なっ……輪ゴムだトゥ!?」


 割り箸を強引に掴みレバーのように上昇させた後に消しゴムと上手く発射、シャー芯に絡まったのでそのまま輪ゴムを引っ張ると当然だが沢村も着いてくる。


「なしでしょ!?」


「デコピンセーフじゃん」


 ステージをぐちゃぐちゃに引き裂き沢村は理の外へ向かう──


「させるかああああ!!」


 ──それを受け止めたのが災いだった。


 沢村はマスターの手に食い込んだのだ。


「ハマラカンッッッ」


 反射的に飛ばされた沢村は宙を舞い、あろうことか幸子の頭上にぶっ刺さった。


「……私の勝ちだね!」


「えー場外リングアウト負けで菫でしょ」


「ちがいまーす、ノーカンでーす」


「なにしてんお前ら」


「あっハリセンボン」


「誰がシュレックじゃ」


 別のクラスなのになんでいるんだろう息が上がる。

 しかしよく考えてみれば今回の問題を考慮すれば授業終了のチャイムを聞き逃すほどに白熱していたのかも知らない。


 ウチのクラスは六時限目が終わっても水曜日だけはホームルームをしないので生徒は大半、帰っていた。


「なにしにきたんだよーぶーぶー」


「何って、用紙」


「「……あ」」


「なんやねん」


 会場はめちゃくちゃだ。


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