第2話 エンジン
激情は波のようにはやってこなかった。
休み時間の使い方なんてものはいつだってなんの利益を産むわけでもなく、前段階に過ぎないからいつだって準備だけはしてきた。
あーほんま、後ろのやつらうっさいなあとか
もっと周りのこと配慮して声のトーン下げるとか
それこそうちは昨日が厄年を全力で発揮させた日だったからストレスというものが引き継がれている。 ちょっと寝てご飯食べて寝起きに触るスマホを制限したら脳への負担は押さえ込まれた。
しかしそれは脳全体へと浸透する不快感を一点に押さえ込むことで中枢を反復横跳びするように怒りは生き続けた。
前頭葉が痛い。 でも締め切りを守れないかもしれない頃のストレスに比べれば可愛いものやった。
しかし押さえ込み、施錠した怒りは案外誰にでも開けることはできて
「っあ」
「「「あ」」」
後ろでふざけたグループの人間が一斉に声を重ねる。
遅れて神経を伝う信号が脳から命令を受けたころには鍵は開けられていた。
「あー」
なんとなく想像は付く。 両手を上に上げてふざけた踊りをしていた同級生はわしの机に後方注意で衝突し、バランスを崩して予習中のうちのシャー芯は折れペットボトルは転がり眼鏡は踏みつけられ折れた。
オーバーキル。 怒りを解錠するどころか逆なでしてきた。 いやに撫で回されたうぶ毛の気持ち悪さが焼き付く。
外部からやってきた厄介毎は銃弾のように脳を貫き血と言いようのない感情を浸透させる。
熱くなりすぎると人は死ぬように行き過ぎた怒りは機能を本能的に制止させ妙に冷静な判断を促す。 しかし、わしの本能は冷却機能をどこかで破棄したらしい。
水面を跳ねる石が波紋のように一カ所二カ所と刺激して、最後にはもう全てが一時的にもう……どうでも良くなった。
「いや、お前も! 普段かけてるくせに、机に、普通、ケースとかにいれるだ、ろ?」
「普通、謝辞が最初にくるんじゃないんか」
「……は?」
なんでわしの周りには言葉を話すのに会話のできない人間ばかりなんだろう。 生きていくならキャッチボールは必要なのだ、運動音痴とかグローブを持ち合わせないとかそんなこと、急に言われても場所と状況を作ったのはお前で
「弁償せえよ」
「いや待て……待て! そんな金ない」
「はあ? 知らんがな、親に金だして貰えや」
「いや無理無理無理! そんなことしたらおれの家母子家庭なんだよ、な?」
「はあ? んなもん」
「許してあげなよ」
「おい誰や今言うたの」
石が生み出した波紋とは違うまるで厄介のように、空から降ってきた言葉が今日の瞬間最高記録をたたき出しようやく、もっと早くあれば運命は変わっていたかもしれない反射神経を発動させ音の出所を見渡すが使えない視力ではなんの解決もしてはくれなかった。
「でてこいやコラ、ぶち殺すぞ」
可能な限り目を見開いてみるけど、どれも石ころのようでわかり合えるような兆しはみあたらず。
「そうだよ」
「千堂さんの不注意でもあるでしょ」
「ほーん、直接壊したんがあいつなのに全部わしが悪いんか」
椅子にもたれかかって頭に手をやっても理解には至らなかった。
「じゃあ、お前らぶち殺してもお前らが悪いな」
そこからは産まれて初めて怒りのままに体は動いた。
人間と植物は意思疎通ができないし人と昆虫は分かり合えない。
もしそれが
でも、水切りするのに選別して投げ飛ばしても許されるのだ。
分かり合えないなら、それが石ころなら尚更だ。
それでもこんな経験が次の自分に生かせるなんて思える
自分がどこまでもしかたがなかった。
このあとの展開にどんな後悔が待っていようと
その創傷を癒すまでは
この熱は終わらない。
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