第 3 話 せめて外見だけでも...

今日の引越し依頼は、一人暮らしを始めるという大学生の女性。田舎から上京してきたようで、なかなかの荷物の量だった。


俺も、田舎で育った。だから、上京したい気持ちとか、その時の不安とか、今でも思い出す。確か高校生のときだったかな、一人暮らしを考えたのは。あの時は、特になんにも考えず、ただひたすら勉強して、東京の大学に受かった。今もなんにも変わってない。ひたすら仕事して、なんにも考えてない。なんにも。


...なにか、大事なことを忘れているような...。




家に帰って急いでカレンダーを見た。やばい。明後日は同窓会だった。慎吾と会場探しをして、ハガキを作ってみんなに送って、受付の準備までして。それなのに、自分も参加するんだとすっかり忘れていた。服装とかどうしよう。髪も切らなきゃだよな。明日明後日仕事がないにしても、明日だけで間に合うのか?


時計を見ると、もう既に0時を回っていた。同窓会までの準備に時間をかけられるのは、長くて41時間。きっと、服がダサくても、髪がボサボサでも、誰もなんにも気にしないだろう。でも、なぜだろう。人間はみんな、こういう時自分を綺麗にして、よく見せようとする。俺だけ汚いと、おかしいよな。よし、明日服を買いに行こう。そして髪もさっぱり切って、ついでに靴も新調しようか。あぁ、そうなると早く寝ないとな。とりあえず、シャワーだけでも浴びておこう。




あさ11時。俺はマリーヌちゃんとショッピングモールにいた。服を買いに行くと張り切ったものの、今どきの服など知るわけもなかった。そしたら、それならとマリーヌちゃんがついてきてくれたのだ。ちなみに、今の俺の服装はと言うと、ジーパンに白Tに、ボロボロのスニーカー。マリーヌちゃんは、ふわふわのスカートに、ふわふわのシャツ。さらに高いヒールの靴と、2人で並んで歩いても、残念なことにカップルには見えないだろう。


「あっ、これなんかどうですかぁ〜?けんすけさん、スタイル良いしぃ、似合うと思いますよぉ?」

「うーん、ごめん、よくわかんないや。」

「えぇ〜!!もぉう、少しくらいは考えてくださいよぉ〜!!」


久しぶりに女の子と買い物に来ると、やっぱり楽しいものだ。


結局、マリーヌちゃんが全身コーディネートしてくれた。髪も、美容師の方のおすすめにしてもらった。家に着いた頃には、あたりはすっかり暗くなり、リビングには甘い香りが漂っていた。


「おかえりなさい...って!どうしちゃったんですかぁ!!けんすけさん!!すっかりイケメンになっちゃったじゃないですかぁ〜♡」

「あっ、あ...あありがとう。」


こうして俺は、人の手によってイケメン(?)に生まれ変わった。


そして、同窓会当日を迎えた。




朝6時。こんなにも早く起きたのはいつぶりだろうか。なぜだか、自然に目が覚めてしまった俺は、久しぶりにジョギングへと出発した。朝の空気は気持ちがいい。なんて清々しい朝なんだろう。このままいくと、同窓会もなんだかんだ楽しめそうだな。


軽く走り終え、家に戻るとまだ7時。少し早いが、朝ごはんとするか。いつも朝ごはんは、コンビニのパンやおにぎり、時間が無いと缶コーヒーで済ませてしまう。でも今日は、トーストにバター、目玉焼きにベーコン。なんともオシャレな朝ごはん。て言うか、こんな食材がこのキッチンにあったなんて、今まで知らなかった。きっと、管理人の人やマリーヌちゃんが補充しているのだろう。


何となくテレビをつけるが、朝の番組はつまらない。スマホをいじりながら、ゆっくりしていると、いつの間にか8時をとっくに過ぎていた。

早起きして気づいたが、ここの住人はまったくといっていいほど、共同スペースに来ない。いや、見たことないだけで来ているのかもしれないが、俺の知ってるかぎり、お菓子作りをするマリーヌちゃんや、共同スペースの掃除をしてくれている管理人の本橋さんぐらいで、あとの人とは、自己紹介の時以来、ほとんど会っていない。


なんで誰も来ないのだろうか。まぁ、このシェアハウスは別に人と関わらなくてもいいのだが、それにしても交流が無さすぎる。


もしかして、みんなそれを目当てに来たのか、このシェアハウスに。誰とも関わらずに、安く住めるというメリットに引かれてみんな来たのか。


どうでもいい考え事をしていたら、マリーヌち

ゃんがリビングに顔を見せた。

「おはようございますぅ!今日は随分早いんですねぇ〜!!あっ、同窓会だからですかぁ〜?」

「いや、同窓会は5時に会場に行けばいいから、まだまだ時間はあるよ。なんだか目が覚めちゃって。」

「あ〜あ!もしかして、緊張してるんですかぁ〜?大丈夫ですよぉ!だってイケメンに大変身したんですからぁ!!」

「うん、ありがとう。...ちゃんと、みんな俺の事覚えてるかなぁ。俺、以外とかげ薄かったから。」

「もぉう!だから言ってるじゃないですかぁ!!けんすけさんはイケメンですよぉ!!イケメンが、目立たないわけないじゃないですかぁ!それに、けんすけさんが思ってるよりも、同級生のみなさんは印象に残ってるんじゃないでしょうかぁ、けんすけさんのこと!!!!」

「そうかなぁ...」

「そうですよ!!過去は過去、今は今!!」

「そうだな。楽しめるといいな!!」

「きっと楽しいですよぉ!!!!」


やっぱり、かわいい女の子と話しているときが、一番楽しい。




家を出る時間まで、結局いつも通りごろごろしていた。適当にテレビを見て、ご飯を食べて、時々マリーヌちゃんが話しかけてくれて。そうしているうちに、いつの間にか4時を過ぎていた。昨日、選んでもらった服を着て、髪もワックスをつけてかっこよく決めて、おまけに綺麗な革靴を玄関に並べた。これでよしと。


「おぉ〜!!やっぱり、とってもお似合いですぅ!!かっこいいですよぉ〜!!!!」

「あ、ありがとう。ちょっと、さっきから褒めすぎじゃないか?」

「そんなことないですよぉ〜!!ほんとにかっこいいですぅ〜!!きっと、同級生のみなさん、驚くんじゃないですかぁ?」

「そうだといいんだけど。あっ、そろそろ行かなきゃ。服、それに靴、選んでくれてありがとな!!」

「いえいえ!!任せてくださいよぉ!!じゃあ、行ってらっしゃ〜い♡」

「行ってきます!!!!」


俺は、元気に玄関の扉を開けた。



いよいよ、運命の同窓会が始まるのだ。




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