第2話 変えたい自分
⚪︎立石 健輔
・27歳 男性 短髪
・引越し業者
・ポジティブ 明るい
春の空気は暖かくて気持ちがいい。だが、俺は嫌い。暑いなら暑い、寒いなら寒いってはっきりして欲しい。それに、引越しの作業には、季節は関係なく、蒸し暑いものだ。
仕事が終わると、コンビニに寄って弁当買って、1人で家に帰って1人でご飯を食べる。悲しいことに、彼女はいない。せっかくの休日も、家で筋トレして寝るだけだ。まぁでもいい。その分筋肉が着いて、どんどんいい体になっている。毎日健康!!それが一番!!
でも、今日からは違う。家に帰ると、もうあかりが付いていて、玄関には、女もんの靴にスニーカー、サンダルなど、綺麗に並べられている。
俺は、シェアハウスに引っ越した。別に一人暮らしに不満があった訳ではない。ただ、俺は、
俺自身を変えたかった。それに、生活もだらしなかった。結局、このシェアハウスじゃ一人暮らしと何も変わらなそうだが、確実に、俺は変われる。
今日は少し早く帰った。まだ空が明るい。と、キッチンでは、誰かが料理をしている。
「あっ、おかえりで〜すぅ!」
「だだいま。」
たしか、七瀬ってやつだっけ。下の名前は、マリーヌだったかな。いかにもアイドルって見た目の部屋着だなぁ。てか、それ夕飯じゃないよな。
「...クッキー?」
「そうですぅ〜!!よく分かりましたねぇ」
「いやぁ、まぁな。って、もう夕方だぞ。ご飯はどうするんだよ。」
「あぁ〜、夜ご飯ですかぁ?今日、あんまりお腹すいてなくてぇ〜、食べなくてもいいかなって!それにぃ、甘いもの好きでしょぉ〜、わたし!!」
「あぁ〜、知らないけど...でも、ご飯はちゃんと食べた方がいいぞ。」
「は〜い!けんすけさん、優しいぃ〜!!」
会話は少し面倒だけど、今までの暮らしになかったちょっとした癒しにはなるな、生活の中にアイドルが居ると。
俺は、クッキーのいい香りの漂うリビングを抜け、自分の部屋へと帰る。
102号室。隣には、あの管理人が住んでいる。別に大騒ぎすることもないが、気になって今までよりも大人しめに暮らしているのは事実だ。今日も、音量小さめのテレビをつけて、ビール片手にコンビニ弁当をかきこむ。
このシェアハウス来て、1週間。生活が一変した訳ではない。自炊を始めたとか、部屋の掃除をするようになったとか、特にいい変化もなく、なんの代わり映えのない生活を送り続けている。だけど、今までよりなんだかほっとしている自分がいる。周りにたくさんの大人が住んでいて安心するって意味あるのかもしれない。でも、今まで職場以外での出会いがなかった中で、こうしていろんな人と関われている自分の変化を直接感じていることにも、原因があるのかもしれない。
俺は、このシェアハウスに変化を求めてきた。その変化が何なのか、よく分からないが、自分を変えに来た。しっかりその効果を発揮してくれたらいいのたが。
夕飯を済ませ、毎日の日課である筋トレを終えると、すっかり外は暗くなり、翌日を迎えていた。早く寝ないと。明日の現場は長引きそうだ。こうして、今日も一日が過ぎでいく。
今日は仕事が休み。だからといって、することはない。共同スペースであるリビングのソファでのんびりしていると、あるメールが届いていた。
『おーい!!健輔!!久しぶり😁』
それは、高校の同級生、慎吾からだった。
『急なメール、ごめん🙏今度、高校の同窓会やることなったんだけど、俺、幹事任されちゃってさぁ。そんなの俺一人じゃ無理だろ?だから、健輔にも手伝って欲しいなっと思って!!
頼む‼️俺たち、親友だろ!!手伝ってくれるだけでいいから🙏🙏🙏』
今どき、絵文字の入ったメール。いかにも彼らしい。同窓会かぁ。高校時代の思い出なんか、アメフト部での記憶しか残ってないな。久しぶりにメールが来たと思ったら、幹事の手伝いのメールかよ。
めんどくさいって、正直思う。別に慎吾は親友だったし、きっとみんなはこういう時、平気で断れるんだろう。でもなぁ、断ったら、慎吾1人で大変だろうなぁ。かと言って、手伝うって言っても、俺にだって仕事がある。それに、いつ空いてるかも分からない不定期な仕事なのに。てか、誰だよ。慎吾に幹事頼んだやつは。最後は、関係ない人にまで、愚痴をこぼしてしまった。とりあえず、返信は保留にしとこう。
翌日、メールに返信した。結局、俺は断らなかった。いや、断れなかった。こんな俺だから、断ったところで同窓会には行くだろう。てなったら、じゃあなんであの時断ったんだよ、ってなるのを恐れた。別に、同窓会にも行きたい訳では無いのだが。
キッチンでケーキを焼いていた七瀬ちゃんに、同窓会の話をした。そしたら彼女は、
「えぇ〜!!いいなぁ〜!!!!同窓会、楽しそうですねぇ!!私も同窓会したいですぅ!!」
「いや、七瀬ちゃんにとっては、高校なんてほんの4年前だろ。」
「4年って、女の子にとってはとっても大きな時間なんですよぉ!ほら、メイクとか、服装とか!!それにぃ、当時の話するの、盛り上がるじゃないですかぁ!!!!」
うーん、たしかにそうなんだが。
「もしかして、本当は行きたくないんですかぁ?」
「いや、そういうわけじゃないけど。なんというか、そこまで、クラスの思い出とかないんだよなぁ。」
大人しかった訳ではない。むしろその逆。かといって、目立っていた訳でもない。昔から、なんの特徴もなかった。だからこそ、特にこれといった思い出がないのだ。
「そんなこと言っといて、きっと、みんなと会ったら思い出しますよぉ〜!!あっ、ケーキ、焼けたんで、1切れどーぞ♡」
「おっ!!、ありがとう。」
俺は、皿に盛られたケーキを一口食べた。
そして、部屋に戻ってからカレンダーに、〈5月2日 同窓会 18時30分〉とメモをした。
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