第1話 はじめまして、ご近所さん

 俺の作ったこのチラシ。シェアハウスの住人を集めるために作った。こんな世の中で、今どき紙かよって思ったが、管理人の言うことは絶対。せめて俺がつくる、俺らしいシェアハウスにってことで、内容は全部俺が考えた。まずは見出し。俺はもう、想像できてた。このシェアハウスでの理想の生活を。

 『〜家族ではなく、ご近所さん〜

    しあわせシェアハウス住人募集‼︎』



「さぁ、自己紹介をはじめる前に、まずこのシェアハウスについて説明しておく。」

そう言って、俺はその場で立ち上がった。


「まず、ここはシェアハウスだ。ここにいる全員で、この3階建ての家に住む。ただ、あくまで同じ家ってだけ。まぁ、ちょっとしたアパートぐらいに思ってくれ。そこのチラシにも書いたが、ここでは互い、ただのご近所さんにすぎない。だから、無理に自分のことを話さなくていい。嘘をついてもいい。誰ともか関わらなくていいってことだ。」


「ちょっと待ってくださいよぉ、それじゃあシェアハウスの意味ないんじゃないですかぁ?」

見た目もだが、しゃべり方まで、ぶりっ子な奴だ。


「いや、意味はある。例えば...そうだな。一人暮らしよりも、お金がかからない。家賃も安いし、共同のスペースは、タダで使える。キッチンも、ほら、調味料とか、自分で買わなくて済むだろ。それに、そうだなぁ...家具も、買わなくて済む。」


ふと、ここにいる全員の顔を見渡すと、みんなぽかんとしている。そういうことじゃねぇよって顔。


「...まぁまぁ、住んで見ればわかるよ、このシェアハウスの良さに」

「そうだよぉ〜、まだ何も始まってないよぉ〜」


おいおい、さっきまでの不満げな顔はどこいった、とイライラしそうだが、俺は話を続けた。


「よし、じゃあ、早速自己紹介始めようか。」



いい大人が、ひとつのテーブルに並んで座っている。これだけでもなかなかの光景だが、さらにここから地獄とも言える自己紹介が始まるのだ。


「自己紹介だが、さっきも言った通り、このシェアハウスは普通のシェアハウスじゃない。今から、名前、年齢、職業は必ず言ってもらう。年齢と職業は、あとから家賃の話でいろいろ聞くの面倒だからちゃんと言って欲しい。でも、名前に関しては、言いたくないやつは別にあだ名でも、偽名でも、もちろん本名でも、自由にしていい。関わりたくないなら、そうはっきり言ってもいい。ここは、そういう場だ。とりあえず、始めようか」


ふと見渡すと、みんな俺の方を見ている。お前が言い出したんだろって言いたげな顔。


「あぁ〜、まず、俺からか、」

「俺の名前は、本橋 遼太郎。ちなみに本名だ。で、俺は管理人ではなく、責任者だ。違いは正直分からないが、このシェアハウスのことは、俺に聞け。で、年齢は41。この中では、年上の方かな。まぁ、よろしく頼む。」


大人たちの忖度もあって、まばらな拍手が聞こえた。


「よし、じゃあそこから時計回りで。」


俺はいかにも好青年なやつを選び、指を指した。


「はい、俺は、立石 健輔。27歳。引っ越し屋さんで働いてます!なんで、体力と力仕事に自信ありです!困ったことがあれば、なんでも言ってください!よろしくお願いします!!」


想像通りの好青年で、思わず俺はしっかり拍手をしていた。


「いいね〜!その調子で、どんどんお願いします。」


て言ったものの、そこからはその調子ではいかなかった。


「笹木。32歳。塾講師。以上です」

メガネ。真面目。以上。


「森 彰。年齢は、51で、公園を時々掃除して、子供たちの見守りやってます。ねぇ、これでいい?」

ちょっと...怖い。


「篠宮 晴斗です。会社員の35歳。単身赴任中です。よろしくお願いします。」

うん、普通。


はぁ、やっと男性パート終了か。時計を見ると、まだ15分しか経っていない。


「では、次。女性の皆さん、お願いします。」


「は〜い♡七瀬 マリーヌで〜す!アイドルやってま〜す!まだピチピチの22歳!今度ライブやるので、みなさん見に来てくださいねぇ〜♡♡」


なかなかの個性的な子だ。アイドルか、たしかに可愛い。マリーヌって芸名なのか。ちょっとだけ、ワクワクしたのは俺だけではなく、男性陣の数人は、なぜかにやりと笑顔だ。いけないいけない、次だ次。

と、浮かれているのもつかの間、結局また盛り上がることはなかった。


「双葉 莉央です。カフェ店員で、25歳です。よろしくお願いします。」

ちょっと、可愛いかも...


「初めまして、佐久間です。あ、下の名前は、彩です。20になったばかりの大学生です。よろしくおねがいします。」

おっとりしてて、いい子だなぁ。


「廣岡です。美容師です。25歳です。よろしくです。」

ショートカットで超ボーイッシュ。


そして、今まで一言も喋っていなかったこの子の番になった。


「寛崎...青衣。...18歳......何もしてない。」


まさかの未成年で、少しざわめきが起こった。彼女はほんとに無口で、それから一言も喋らなかった。


「みなさん、ありがとうございました。」


俺はそう言って立ち上がり、みんなの前に立った。


「今日から、シェアハウスの始まり。最初にも言ったが、今集まったのを最後に、みんなと今後一切関わらなくてもいい。仲良くしてもらうのももちろんいい。みんなはそれぞれ、ご近所さん。それだけは忘れないでくれ。じゃ、それぞれの部屋に戻ってよし!!」


よし、完璧に締めの言葉を言えた。と、思ったら、もう既にみんな早々と部屋に戻って行った。俺も戻るか。


俺は、101号室へと戻った。

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