3-a

「夏ですね~」

「うん……」

 私と光はだらけ切っていた。住宅街に突如現れる謎のベンチに腰掛けて、近くの自販機で買った缶ジュースをあおっている。幸いなことに日陰だった。遠くのアスファルトは蒸発しそうなくらいに白く輝いている。ベンチの足下では木漏れ日が揺れていた。

「これは溶けてしまいますよ……」

 光は薄手のワンピース一枚で、すっかり夏の装いだった。

「うん……」

 夏はまだ本番ではなかったが、この暑くなってきたなというあたりが一番暑く感じるのではないかと思う。休日だからと会ってみたはいいが、このままでは外に出てきただけ損をしているような気がしてならない。

 缶ジュースをおでこに当てる。もうぬるくなっている。

「……暑い」

「あのー、この前行ったとこ行きますか」

「どこ」

「あれですあのスイカの」

「あー、あのでかい、プール……」

 確かに涼しそうではある、が。

「つかれるよー」

「いいじゃないですか、雨坂さん、その、スタイルいいんですし」

 そう言われて、何となく自分の足や胸を目を向けてみる。

「いや別に……身長も高い方というわけじゃないし」

「細いじゃないですかー」

 何となく光の方も見てみる。細さで言えばそんなに変わるとは思えない。

「背、昔は私の方が高かったんですよね」

「あーそうだね」

 私は結構適当に相づちを打つ。

「というか私がすごい小さかったんだよ」

「私、なんか昔から全然伸びてなくないですか」

 光はベンチから立ち上がって気をつけの姿勢をとる。

「あー多分、本当に全然伸びてない」

「雨坂さんも立ってみて下さい」

 言われたので素直に立つ。向かい合って立つと、当然私が光を見下ろすような形になる。背伸びをしたところでこの形は変わらないだろう。

「なんか置いてけぼりって感じです」

「……かもね」

 本当にそうだ。光の背は昔から全然変わっていない。

 立ちっぱなしでいる理由もないので、私も光もまたベンチに座る。ショートパンツを穿いているせいで、ベンチの木材で太ももがちくちくして少し痛い。

「かわいくていいと思うけどね」

「え?」

「いや、背。小さくて」

 あ、という間抜けな声が横から聞こえる。

「ありがとうございます……」

 缶ジュースに口をつけると、既に空になっていた。光が両手で抱える缶にはまだわずかに水滴が残っており、まだ飲み干していないようだった。

「最近さ」

 光がこちらを向く。

「昔の話をあんまりしてない気がするね」

「したいですか?」

「いやよくわかんない」

 空になった缶をゴミ箱に投げ入れようかと思って、絶対に入らないだろうと思い、大人しく直接捨てに行く。枝葉の庇護から離れたことで日光をその身に浴びる。暑い。顔を上げてみると、ずっと日陰にいたせいか太陽が一層眩しく感じられた。

「そっちは?」

「あー私は……」

 光も立ち上がって缶を捨てる。いつの間にか飲み干していたようだ。

「今日は何か遊びたいな~って感じです」

「そっかー……」

「雨坂さんはそっちの方が良かったですか?」

 そっち、か。

「……プール行こっか」

「そうですね。行きましょう」

 そう言って歩き出した光のあとを私は追う。


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