1-b

 公園には誰もいなかった。

 雪を被った遊具は本来の機能を停止していた。背の低い芝を覆う雪原はすっかり泥混じりになって、近所の子どもたちに飽きられてしまったらしい。公園の中心には、何の動物を象ったのかよくわからない大きなオブジェがあった。お腹には穴が空いていて、人が入れるようになっている。

 その穴の中に私と光はいた。

「あけのちゃん怒られた?」

 何のことを言っているのかはすぐにわかった。先日の家出と山登りの件に決まっている。

「怒られたよ……光もでしょ」

 もちろん大きな雷が落ちた。その結果私は一週間の外出禁止令を下され、こうして久しぶりに光に会っているというわけだった。

「……いや、こっちはそうでもなかったよ」

「えーずるい。光も私とおんなじことしたのに」

 あはは、と光は雪を吹き飛ばすように笑う。

 相変わらず雪は降り続いていた。私は穴の外に手を伸ばして、手のひらに落ちてくる雪の感触を確かめる。山に登ったときよりは降っていないようだった。

「せまいねーここ」

 光は穴の中でなんとか伸びをしながら言う。

「うん」

「それに冷たい」

「ね」

 光の言う通りだった。大きいとは言っても、こぢんまりとした公園のオブジェだ。小学校高学年にもなる私たち二人が入るにはもうかなり小さい。お尻と背中は痛くて冷たいし、中は湿っている。ずっと金属くさいし、塗装が剥げたところのざらざらした感触も好きじゃない。はっきり言って居心地は良くなかった。

「もうぼろぼろだね」

 光はそう私に言う。

「うん」

 それから、しばらく私も光も喋らなかった。私は穴の外に見える自動販売機をぼんやりと見つめていた。この雪の中よく働くものだと思う。

 ふと、光の方に視線を向ける。光は体育座りした足の間に腕をだらんと下ろして、金属の壁面に頭を預けて目を閉じていた。何だか静けさに耳を傾けているみたいだった。私はそれをずっと見ていた。色素が薄くてふわふわの長い髪が綺麗だった。

「ねえ光」

 ん、と光が目を瞑ったまま答える。

「私たち、さ……」

 私は何だか泣きそうになりながら光を見つめる。光の前髪が差し込む日光に照らされてきらきら輝いている。心臓がすごく痛くて、私はそれに耐えかねてしまう。

「……明日もさ、遊ぼうよ」

「もちろん」

 そう言って、光は器用に穴から出て雪の上に着地した。微笑みながら手をこちらに差し出してくる。

 私は光の手を取って穴の外に出た。雪はいつの間にか止んでいて、日光が私の頬を焼いた。

「明日はさ、何しようか」

 その言葉に何と答えたかは、覚えていない。


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