第295話 ロンムスの地下にて



 ◆◇◆◇◆◇



[発動条件が満たされました]

[ユニークスキル【神魔権蒐星操典レメゲトン】の固有特性ユニークアビリティ〈魔権蒐集〉が発動します]

[対象の魔権を転写コピーします]

[ユニークスキル【時間と洞察の魔権ヴァサーゴ】を獲得しました]

[対象の魔権はユニークスキル【神魔権蒐星操典】の【魔権顕現之書ゲーティア】へと保管されます]



 取り敢えず、今コピーする魔権系ユニークスキルはこのぐらいでいいだろう。

 この一時間で、分身体を大陸中に転移させて回収してきた魔権は、【時間と洞察の魔権】【病威と工芸の魔権マルバス】【脱力と心意の魔権シトリー】【死操と死奪の魔権ブネ】【金壊と武勇の魔権ベリト】【勇猛と実直の魔権マルコシアス】【海洋と幻船の統魔権ウェパル】【水威と発掘の魔権クロケル】【砂威と財智の魔権グレモリー】【音楽と樹禍の魔権アムドゥスキアス】【正義と奪還の統魔権アンドロマリウス】の計十一個。

 他にも所在を把握している魔権所有者はいるが、所有者の現在地が近付き難い場所だったりして面倒だったので、彼らに関しては追々回収することにした。



[ユニークスキル【神魔権蒐星操典】の内包スキル【魔権顕現之書】へ保管されている魔権の数が一定数に達しました]

[内包スキル【魔権顕現之書】にスキル【魔権複写マニュスクリプト】が追加されます]



 ふむ。【魔権顕現之書】に何か機能が増えたな。

 どうやら、魔権系ユニークスキル限定のレンタル機能と考えていいようで、保管している魔権系ユニークスキルを他人に貸し出すことができるようだ。

 〈解放〉ではなく〈追加〉という通知からして、レンタルスキルの存在の影響を受けたことで後天的に能力が拡張されたのだろう。

 影響を受けてはいるが、一つの魔権に付き一人までしか貸し出せない点は、俺が作ったレンタルスキルとは異なっている。

 他にも、ユニークスキル【強欲神皇マモン】の内包スキル【拝金蒐戯マモニズム】が根幹であるレンタルスキル管理システム〈黄金権理マモン〉は、スキルをレンタルするのに財貨という対価が間接的に必要だが、【魔権複写】にはそのような制限はないといった違いがあるようだ。

 あとは、貸し出している間は相手のキャパシティを消費する点もレンタルスキルとは異なる点だな。


 このような相違点がある一方で、レンタルスキルと同様に貸し出した相手がスキルを使っても熟練度レベルが上がるため、自分で使わなくても魔権を育てることが可能だ。

 仮に魔権を貸した相手が死んだとしても写本マニュスクリプトの名の通り、原本オリジナルの魔権は変わらず俺の中にあるので失われることもない。

 俺にデメリットは殆どないし、クランの戦力強化も兼ねて幾つかは団員に貸し出して熟練度を上げさせるのも良さそうだ。

 本物のユニークスキルなので、きっと多用してくれることだろう。

 労せず自分と配下の強化ができるとは……まさに素晴らしい力だな。



[特殊条件〈尽きぬ欲望〉〈力の支配者〉などが達成されました]

[スキル【力の渇望】を取得しました]



 なんか新たな成長系スキルも手に入ったし、今日はいつもより運が良い気がする。

 もしかすると、まだ何か手に入るかもしれないな。



「さて、小休憩はそろそろいいだろう。再開しても?」


「ええ。はじめてちょうだい。セルバンもカーチャも構わないわね?」


「はっ。問題ございません」


「はい。いつでも大丈夫です!」



 離れたところで少し休んでいたアナスタシアに声を掛けてから鍛練を再開する。

 彼女から少し距離を置いたところでは、アナスタシアに仕える戦人ヴァトラー族である老執事のセルバンと、天人ハイラム族である専属侍女のエカテリーナも戦闘態勢をとっており、この二人も主君である超人スペリオル族のアナスタシアと共に鍛練を行なっていた。

 鍛練を行なっている場所はロンダルヴィア帝国の帝都ロンムスにある第七皇女アナスタシアの屋敷の地下。

 秘密裏に作った地下空間で行なっている鍛練とは、一言で言うならレベル上げだ。



「それじゃあ、始めるぞー」



 【最上位魔鎧兵顕現】で数種類のリビングアーマー達を生成すると、三人それぞれの基礎レベルに適した個体を突撃させる。

 アナスタシア以外で生成魔物を倒してレベル上げをしている二人は、派閥内では俺を除けば最も戦闘力が高い。

 いや、派閥に与する勢力も増えたので、正確に言えばアナスタシアの側近達の中では最も強い二人と言うべきか。


 レベル上げを積極的に行うようになったキッカケは、数ヶ月前に起こったアナスタシアの暗殺未遂事件だ。

 他の帝位候補者からの依頼を受けた暗殺組織〈毒の群れ〉の幹部候補〈十二刺〉の一人が襲ってきた際に、セルバンとカーチャは十二刺の部下の暗殺者達に足止めされて動けないでいた。

 俺は俺を足止めした暗殺者達を瞬殺してから、その十二刺がアナスタシアの元に到達する前に対処した。

 この翌朝には、アナスタシアから彼女の身の回りを固める者達のレベル上げを提案された。

 レベル上げのためにダンジョンや魔物の生息地に遠出するのは時間的に勿体無いため、今のようなスキルで生成した魔物でレベル上げをする方法をとることにした。

 アナスタシアと彼女の身近な者達は、ランスロットがリオンであることと、その能力について口外することを【熾天契約】で禁じているからこそできる方法だ。


 取り敢えずの目標は、アナスタシアは彼女のユニークスキルがランクアップするまでレベル上げを続け、セルバンはSランク冒険者に相当するレベル八十になるまで、エカテリーナはアナスタシアのランクアップが終わるまで続けると決まった。

 鍛練の性質上、レベル上げには俺が同席する必要があるため、俺がいない間の護衛が必要だ。

 よって、アナスタシアに最も近いこの二人が仕上がらない限りは、他の者達のレベル上げは後回しになる。



「セルバンは今回も放置で問題ないか」



 レベル七十台後半であるセルバンはその身体能力を活かした強力な拳打と蹴撃を繰り出し、リビングアーマーの群れを次々と粉砕している。

 高レベルに相応しい練度の格闘術は非常に安定しており、彼に関しては今回もサポートの必要はなさそうだ。



「エカテリーナも随分と安定してきたな」



 アナスタシアの側仕えの中ではセルバンの次に強いエカテリーナだが、そのレベルは五十台後半と低く、三人の中では最も戦闘技能が低い。

 それでも度重なるレベル上げ鍛練をこなしてきただけあって、始めの頃と比べれば随分と戦闘力が上がっていた。

 ロンダルヴィア帝国の国営工房が製作した軍用魔銃を素体にして、エカテリーナ用に俺が作ってやった拳銃型魔銃〈戦う貴婦人アデルグント〉と、同様の背景を持つ短剣型魔剣〈猟牙ヤークトファング〉を彼女は使っている。

 リビングアーマーの金属製の鎧すらも斬り裂き貫く短剣と魔銃を巧みに使い分けて戦う姿から、エカテリーナの成長ぶりが窺える。

 まだ目が離せるほどではないが、そこまでサポートする必要はないだろう。



「アナスタシアも安定している。流石は同族なだけあって成長力が高い」



 アナスタシアが纏う蒼い魔宝石が目立つ白地のサーコート〈天蒼晶の断罪衣〉は、レベル上げ鍛練を行うことが決まった際に彼女にプレゼントした魔導具マジックアイテムだ。

 そのサーコートの能力【天蒼晶陣】である空中に浮かぶ蒼い結晶体は、使用者の力量次第で剣にも盾にもなる。

 扱いの難しい【天蒼晶陣】の思考操作にもすぐに慣れており、手に持つ魔剣を振るうと同時に宙を舞う四つの天蒼結晶もリビングアーマー達を斬り裂いていた。

 弓を扱うリビングアーマー種が放ってきた矢も持ち前の感知スキルで把握しており、視線を向けることなく天蒼結晶で防いでいる。


 アナスタシアの戦闘力は彼女のユニークスキル【都市と戦の守護者アテナ】の力によるところも大きいが、その力を完全に掌握しているのは偏に彼女の戦闘センスが高いからだろう。

 市街戦や都市防衛戦などといった、都市やその守護に関連した行為に様々な補正を齎す内包スキル【都市守護権ポリウコス】は、レベル上げ鍛練では効果を発揮していない。

 内包スキルで効果を発揮しているのは戦闘補正系である【女神の戦舞】だけだが、能力に振り回されることなく能力と技が一体となっているのが感じられる。

 後二つの内包スキルも発動させるには、今よりも難易度を上げる必要がある。



「これまでみたいに鎧の上位種を生み出してもいいが……偶には変化をつけないとな」



 【無限宝庫】から最近手に入れたばかりの〈竜骨兵の黒指環〉を取り出す。

 隠された宝物庫の番人だったボーンドラゴンの一体から、神刀の【財ヲ顕ス強欲ノ刃】の効果で顕在化ドロップしたアイテムだ。

 まだ複製も能力剥奪もしていないので、後でやっておかないとな。

 指環に魔力を注いで【竜骨兵顕現】の能力を発動させ、〈竜頭の骸骨騎士ドラゴン・ボーンナイト〉と〈竜頭の骸骨騎馬ドラゴン・ボーンホース〉の組み合わせを三セット生み出すと、その三騎にアナスタシアを襲わせた。


 周りのリビングアーマー達よりも素早く駆ける竜骨騎馬の馬上から、竜骨騎士が竜骨製の騎士槍ナイトランスを繰り出してくる。

 三騎で連携して繰り出されてきた突撃攻撃チャージアタックの三連撃に対して、天蒼結晶も使って紙一重で凌いでいくアナスタシア。

 だが、今の一撃で四つの天蒼結晶が半分に減った。

 迂回して再突撃を仕掛けてくる三騎の竜骨騎士達の攻撃を防ぐには、更なる手札を切る必要があるだろう。



「【反撃ノ聖盾アイギス】」



 スキル名を発するとともに具現化した白銀の盾へと、先頭の一騎の騎士槍の先端が衝突する。

 次の瞬間、白銀の盾に放たれた衝撃が反射し、攻撃を放った竜骨騎士へと襲い掛かった。

 強烈な衝撃を食らって吹き飛ばされた先頭の一騎に衝突したことで、後続の二騎の突撃も中断する。

 動きの止まった三騎を前にして、アナスタシアは先ほどと同音にして異なる名を呟く。



「纏えーー【女神ノ聖鎧アイギス】」



 具現化していた白銀の盾が消え去ると、代わりに同色の鎧が一瞬でアナスタシアの身体に装着された。

 【反撃ノ聖盾】は非常に珍しい能力自体が変化するタイプの内包スキルであり、反撃能力を持つ盾【反撃ノ聖盾】と強化能力を持つ鎧【女神ノ聖鎧】の二つの形態を持っている。

 更に、続けて発動された最後の内包スキル【聖梟ノ瞳グラウコピス】により、アナスタシアの双眸が鋭い輝きを放つ。

 戦闘における視覚・感知機能と思考速度が強化されたことで、【女神ノ聖鎧】により超強化された身体能力を十全に操れるようになった。

 竜骨騎士達との間合いを詰めたアナスタシアが魔剣を振るう度に竜骨騎士達の頑丈な身体が破壊されていく。

 竜骨騎士達が体勢を整えた頃には、竜骨騎馬は全て倒されており、残る竜骨騎士達にも少なくないダメージが見受けられる。

 竜骨騎士達の方が僅かにレベルが上なのもあって、今の攻防で倒し切るまではいかなかったようだ。



「まぁ、良い経験にはなったみたいだな」



 周りにはリビングアーマー達もいるが、それでも一分もあれば竜骨騎士達は倒せるだろう。

 竜骨騎馬はもういらないだろうから、竜骨騎士を十体ほど追加してユニークスキルを酷使させるとしよう。

 ユニークスキルに限らず、スキルをランクアップさせるには質の良い使い方をするのが一番だ。



「そういえば、もう丸一日経っていたな。今日もチャレンジするか」



 アナスタシア達に追加の生成魔物を向かわせると、最近の日課であるスキルのコピーを今日も試みた。



[ユニークスキル【取得と探求の統魔権ヴァラク】の【取得要求】を発動します]

[対象人物を認識しています]

[ユニークスキル【取得と探求の統魔権】が対象スキルに干渉しています]

[対象人物は抵抗レジストに失敗しました]

[スキル【反撃ノ聖盾】を取得しました]



 お、やっと成功したか。

 龍煌国の武闘大会以来の成功だが、蘇生中の者からスキルをコピーするのとは違い、生者からコピーするのは想像以上に成功率が低い。

 まぁ、ヴァラクの元持ち主エンジュの記憶情報を持つエジュダハ曰く、ひと月に一度成功すれば運が良い方らしいので、これでも早い方なんだろうけど。

 この分身体ランスロットなら常にアナスタシアの傍にいるし、次もアナスタシアからコピーさせてもらうとしよう。

 明日からは【女神の戦舞】のコピーでも目指そうかな?

 そんなことを考えつつ、三人の鍛練を監督しながら【財ヲ顕ス強欲ノ刃】産のアイテムの複製と能力の剥奪を行なっていく。

 分身体とメルセデスが探索している隠された宝物庫のアイテムについては、全ての宝物庫の探索を終えてから纏めて行う予定だ。

 他には、装備を更新して使わなくなった旧伝説レジェンド級装備からも能力を剥奪しておくとするか。

 その後は当然、スキルの融合を行う。

 何か良いのができるといいんだが。



[アイテム〈大地の真竜衣〉から能力が剥奪されます]

[スキル【真竜心体】を獲得しました]

[スキル【竜力強身】を獲得しました]


[アイテム〈真竜心宝珠の腕環トゥルー・ドラゴンハート・ブレスレット〉から能力が剥奪されます]

[スキル【真なる竜の災手】を獲得しました]

[スキル【竜装超強化】を獲得しました]

[スキル【竜核炉心】を獲得しました]

[スキル【鉱喰真竜の祝福】を獲得しました]


[アイテム〈赤蛇の宝杖〉から能力が剥奪されます]

[スキル【赤蛇の眼晶】を獲得しました]

[スキル【赤禍の魔宝】を獲得しました]


[アイテム〈毒魅悪魔の妙薬〉から能力が剥奪されます]

[スキル【毒魅の美容】を獲得しました]

[スキル【美魅遅老】を獲得しました]


[アイテム〈天蒼晶の断罪衣〉から能力が剥奪されます]

[スキル【天蒼晶陣】を獲得しました]

[スキル【断罪の刃】を獲得しました]

[スキル【慈悲の衣】を獲得しました]


[アイテム〈紅麗絶刀ルージェリア〉から能力が剥奪されます]

[スキル【紅華魔刃】を獲得しました]

[スキル【紅閃絶技】を獲得しました]

[スキル【紅速脚力】を獲得しました]

[スキル【紅蝕呪華】を獲得しました]


[アイテム〈深淵の竜骨剣〉から能力が剥奪されます]

[スキル【千鞭万骨】を獲得しました]

[スキル【深淵の牙】を獲得しました]


[アイテム〈竜骨兵の黒指環〉から能力が剥奪されます]

[スキル【竜骨兵顕現】を獲得しました]

[スキル【黒竜鎧骨】を獲得しました]


[アイテム〈竜骨兵の紅指環〉から能力が剥奪されます]

[スキル【紅竜鎧骨】を獲得しました]



[保有スキルの熟練度レベルが規定値に達しました]

[スキル【竜骨兵顕現】がスキル【上位竜骨兵顕現】にランクアップしました]



[スキルを融合します]

[【天蒼晶陣】+【紅華魔刃】+【紅蝕呪華】+【深淵の牙】+【付死纒鱗】=【黒天紫晶陣】]

[【真竜心体】+【竜力強身】+【真なる竜の災手】+【竜装超強化】+【竜核炉心】+【鉱喰真竜の祝福】+【赤蛇の眼晶】+【赤禍の魔宝】+【毒魅の美容】+【黒竜鎧骨】+【紅竜鎧骨】+【戦闘始動】+【超越細胞エクシード】+【勇聖竜血】=【竜血聖躰ノ超越勇者ジークフリート】]







 

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