第289話 真の決勝戦 後編
薙ぎ払うようにして振るった巨大な黒い刃をエンジュと五体の金霊狐人が回避する。
そうしてバラけた金霊狐人達のうちの三体に向かって、星冠形態の六大精霊達が二体一組で攻撃を仕掛けていく。
直前に指示した通りに六大精霊達が三体の金霊狐人を引き離していくのを見つつ、俺はエンジュに直接斬り掛かった。
金色に輝く刀身と濃紫色に輝く刀身が打ち合っては引き戻し、再度相手を斬りさかんと互いの刃が縦横無尽に振るわれていく。
「剣も扱えるんですね」
「剣聖である、貴殿ほどではないがなッ!」
「キング級手前なのによく食らいついていると思いますよ?」
手首の動きのみでエディステラの切っ先をエンジュの刀の峰に沿わせ、即座に腕の動きも加えて蛇が巻き付くようにして引っ掛ける。
引っ掛けた刀ごとエンジュの両手を強制的に跳ね上げさせて、無防備な胴体を晒させる。
「ッ!?」
「終わ、おっと」
終わり、と言おうと思ったら、左右から残る二体の金霊狐人がその凶手を振り下ろしてきたので、攻撃を中断して回避する。
その二手が通過した後の大気の変化から、空間が削り取られたことが分かった。
情報通りならば、これがリンファのユニークスキルである【
リンファに聞いたところ、星気が枯渇した霊地を回復するには、呼び水として自らの魔力だけでなく魂のエネルギーとも言える〈霊気〉も使う必要があるらしい。
その霊気を霊地経由で奪われたため、目の前の金霊狐人達は魂に結びついているユニークスキルの力を一部だけとはいえ扱えるわけだ。
逆説的には魂とユニークスキルは繋がっているとも言えるわけで……。
立て続けに振るわれる空間を抉る爪手の攻撃を避けつつ金霊狐人を逆に斬り裂いたが、すぐさま術者であるエンジュから魔力と星気が供給され元通りに身体が回復した。
核らしき金符を斬っても、その核ごと復元されるとは厄介だな。
二体の金霊狐人と攻防を繰り広げながら、地上のマルベムとアトラスによる怪獣大決戦に視線を向けた。
より正確には式神化したマルベムに視線を向けて、【
失ったはずのユニークスキルの力を今も行使するマルベムの調査は数秒ほどで終わった。
「……ま、様子見でいいか」
得られた情報に少し悩んだが、直感的にも〈強欲〉的にもそのままにしておく方が良さそうだ。
それらの欲望に根ざした【第六感】に従い、こっちはこっちで手を打つとしよう。
「『
マジックスキル【
引き裂かれた俺の偽の身体は、黒い不気味な触手と化して二体の金霊狐人達へと絡み付き、その全身を拘束する。
動きを止めた金霊狐人達の背後の空間から滲み出るようにして姿を現すと、金霊狐人達の頭部を鷲掴みにした。
「奪い解けーー【
【強奪権限】の
金霊狐人の身体は魔力と星気による身体〈化仙体〉であり、これは霊体のようなエネルギー体に近い脆い構造であるので、【強奪権限】にとっては非常に奪いやすい相手だ。
[解奪した力が蓄積されています]
[スキル化、又はアイテム化が可能です]
[どちらかを選択しますか?]
[スキル化が選択されました]
[蓄積された力が結晶化します]
[スキル【星喰ノ牙】を獲得しました]
[スキル【狐空転装】を獲得しました]
リンファと対面した時にユニークスキル名は見えても内包スキル名は見えなかったのだが、今回でその内の二つは明らかになった。
後は【
[対象を融合します]
[【星喰ノ牙】+【
[特殊条件〈神滅因子〉〈神◼️◼️〉などを達成しました]
[ジョブスキル【
何となくそんな気はしたが、やはり
まぁ、神域権能級ユニークスキルである【天駆ける星喰いの獣神】の内包スキルも素材に使っているのだから不思議ではない。
「ーー〈
先ほどから動きが見えなかったエンジュが仙技を発動させた。
複数の属性仙法を組み合わせて発動させた仙技らしく、俺を囲むように四方八方に凄まじい光を放つ拳大の発光体が多数出現した。
一つ一つが非常に高いエネルギーを内包しており、それらが一斉に大爆発する。
魔法にも『
此方は神域級とまではいかないようだが、その一歩手前ぐらいの性能のようだから発動までに時間がかかっていたのだろう。
「……流石に間に合わなかったか」
発動したままの〈貪欲なる解奪手〉で〈天地壊帝〉とやらの大爆発に対抗してみたが、直撃するまでに全ての爆発エネルギーを奪うことは出来なかった。
元より〈貪欲なる解奪手〉で黒く変質した両手を除くと、肌が露出していた顔が酷い火傷を負っていた。
一部は骨や筋肉まで露わになっており、両目も失明している。
他にも【吸星仙術】で使用されている星気を、【炎熱吸収】と【雷光吸収】で熱と光を吸収し切れなかったとは、中々に強力な仙技のようだ。
[解奪した力が蓄積されています]
[スキル化、又はアイテム化が可能です]
[どちらかを選択しますか?]
[スキル化が選択されました]
[蓄積された力が結晶化します]
[スキル【炎星天仙法】を獲得しました]
[スキル【地星天仙法】を獲得しました]
奪ったエネルギーの量が量だからかスキルを二つ得ることができた。
仙法スキルが得られるとは思わなかったが、俺としては好都合だ。
新たな融合が可能になったので、再び【混源融合】を発動させる。
[スキルを融合します]
[【双極星天仙法】+【氷冷仙法】+【疾風仙法】+【炎星天仙法】+【地星天仙法】=【根源星霊仙戯】]
融合によって得られたスキルは、仙法スキルの
「まぁ、見逃すわけがないよな」
一番防御の薄い頭部以外の部位は、各種
だが、頭部はアモラとルーラとの精霊同化で強化してはいても、一目見て大ダメージだと分かるほどの状態になっている。
自己治癒力のみで頭部を再生させていたが、そんな隙をエンジュが見逃すわけがないのは当然だろう。
視力を失っているため気配のみで判断したところ、どうやら擬似神器化した刀でリンファの【星喰ノ牙】の力を混ぜた斬撃を飛ばしたみたいだ。
擬似神器の刀とはいえ、神域権能級ユニークスキルの力を内包しているならば、〈星坐す虚空の神衣〉の防御も抜ける可能性が高い。
まぁ、単純に【星喰ノ牙】が強力なのでこのまま受けるのは無しだな。
【
手で受け止めるまでに奪い尽くせないとは、想像以上に強力な斬撃だ。
「それでもスキル化もアイテム化にも足りないか……」
〈貪欲なる解奪手〉を発動させていると大量の魔力を消費し続けるが、最強の矛にして盾でもあるため、本当ならこの戦いの間ぐらいは維持し続けておいたほうがいいだろう。
アモラとルーラのおかげで魔力生成力も強化されており、片手だけならば消費分が生成分をギリギリ上回っている程度で済むが、負担になることには変わりないので発動を解除した。
「それに、せっかくの機会だ。他の力も使ってやらないとな」
両手で〈貪欲なる解奪手〉を使った際に収納した神刀エディステラを再び取り出すと、エディステラを触媒にして手に入れたばかりの【神喰と終末の獣神】の内包スキル【
濃紫色の刀身が黒金色のオーラを纏ったのを確認すると、空間を埋め尽くす勢いで連続で放たれてきた金色の斬撃の雨に向かってエディステラを横薙ぎに振るう。
黒金色の斬撃は全ての金色の斬撃を両断するだけでなく、斬撃はそのまま伸びていき、エンジュにまで刃を届かせた。
一瞬で結界術や符術による障壁が大量に構築されるが、薄氷を割る勢いで障壁が斬られていく。
最後にはエンジュの背後に生える二つの金尾が盾となって受け止められた。
衝撃によって後退したエンジュの金尾には、深々と斬撃痕が刻まれていたが、数秒後には斬撃痕は跡形もなく消えていた。
「頑丈な尻尾ですね」
「そちらも、ふざけた性能の斬撃だな……」
「初めて使ったのですが、自分でもちょっと驚く性能でしたよ……さて、情報も集まったので、そろそろ動きますかーー〈
体内にある全ての星気を使用して発動した仙技によって、目の前に三体の白騎士が生成される。
[保有スキルの
[ジョブスキル【
〈白騎夜煌〉は闇系仙技〈
白騎士には夜、正確には闇が濃ければ濃いほど性能が上がるという特性がある。
そのため、【
「用が済むまでコレらと遊んでいてください」
三体の白騎士達がエンジュへと攻撃を仕掛けていく。
白騎士一体の性能は、平均的なSランク冒険者を上回るほどに高いが、エンジュが繰り出す擬似神刀による【星喰ノ牙】の斬撃に耐えられるほどではない。
故に、一撃で白い全身鎧の身体が斬り裂かれるが、次の瞬間には白い闇が集まって元通りの姿になった。
〈超獣偽我〉を基にした仙技であるため、その不死身の性質も引き継いでいる。
性能も高いため油断すれば今のエンジュでも大ダメージを負うため時間稼ぎには最適だ。
エンジュは取り込んだリンファの力を十全には掌握出来ていないようなので、白騎士達だけでも大丈夫だろう。
「まずは……アレがいいか」
星冠形態のサラマンダーとシルフの二体と戦っている金霊狐人に狙いを定めると、【
「奪い盗れーー【強奪権限】」
新たに〈
体内にある核である金符に触れると、その術者権限にハッキングを仕掛ける。
度重なる攻防で
「サラマンダー、シルフ。他の個体への攻撃に参加しろ。他の二体も隙を見て奪っていく」
「オウッ!」
「りょーかい」
奪ったばかりの金符を操作して金霊狐人を解除すると、金符を【無限宝庫】に収納する。
もっと力を奪いたいところだが、金符に封じ込められた力があればリンファが早期に回復することができる。
後々の交渉で更に優位に立つためには恩を売っておいた方がいい。
タイミングを図って次の金霊狐人の背後にも転移するが、今度の個体は此方の動きに気付いたらしく、ギリギリで貫手を避けられた。
貫手の閉じた手をすぐさま開き、その指先の一つ一つから【
突き出した手から一瞬で放った蜘蛛の糸を避けられなかった金霊狐人の体内へと、深淵糸と繋がる手を突き入れた。
先ほどと同様に〈強欲なる盗奪手〉で術者権限を奪い、金霊狐人を解除した金符を収納し、最後の一体へと向かっていく。
最後の一体も問題なく回収し終えると、六大精霊達と一緒にエンジュの元へと移動する。
地上に目を向けると、アトラスが生み出した多数の巨大魔剣によって、氷の大地にマルベムが磔にされているのが見えた。
そのマルベムを冷めた目で見下ろしてからエンジュと向かい合う。
「勝負は決まりましたね」
「……そのようだな」
白騎士達に囲まれているエンジュに怪我をした様子はない。
まだ戦う余力はあるようだが、互いの地力の差を埋めていたマルベムや金霊狐人は無力化されている。
一方で、俺には星冠形態の六大精霊達がいる上に、エンジュから奪った三体の金霊狐人を使うことも可能だ。
流石にこの歴然とした戦力差を覆すことは不可能だろう。
「投降してください。リンファ様もそれをお望みですよ……おそらく煌帝陛下も」
「……私は」
エンジュが二の句を告げようとした瞬間、彼が纏っていた〈
二つのアイテムが爆発的に強い魔力を発すると、念話らしき力による第三者の声が脳内に響き渡る。
『ーー気ハ済ンダカ? 次ハ俺ノ番ダ。オマエノ力ハ俺ガ有効活用シテヤロウ』
どことなく悪意が感じられる声がそう告げると、〈魔龍王の毒幕衣〉が変化してエンジュの身体を包み込み出した。
覆い隠した部分から身体と融合しているようで、エンジュが苦悶の表情を浮かべている。
「ぐっ、これはまさか……ッ!?」
エンジュは懐から取り出した符に魔力と星気を使って何かを素早く書き込むと、自らの頭部へと同化させた。
刻まれた内容的に封印系かな?
符を頭部に入れた直後にエンジュは〈魔龍王の毒幕衣〉に完全に呑み込まれ、黒い球体と化した。
数秒の間にエンジュを取り込んだ〈魔龍王の毒幕衣〉が目の前から転移する。
転移先は地上にある黒龍剣の真上。
そのまま降下して黒龍剣をも呑み込みながら、マルベムの頭部の中へと沈んでいった。
「ギャハハハハハハッ!!」
閉じていた双眸を開いたマルベムが、耳障りな嗤い声を上げる。
全身から毒気を放出して、自らを地面に縫い留めている巨大魔剣を腐蝕させて無力化すると、その巨体を起き上がらせた。
[スキル【万象の手】を獲得しました]
[スキル【融通無碍】を獲得しました]
[スキル【天仙気覚】を獲得しました]
[スキル【天威結界術】を獲得しました]
[スキル【仙術の心得】を獲得しました]
[スキル【練気術の心得】を獲得しました]
[スキル【封印の心得】を獲得しました]
[スキル【背水精進】を獲得しました]
[スキル【
[スキル【
[スキル【
[スキル【雷嵐の支配者】を獲得しました]
[スキル【霊地の管理者】を獲得しました]
[ジョブスキル【
[ジョブスキル【
[ジョブスキル【
[ジョブスキル【
[ジョブスキル【
[ジョブスキル【
[ジョブスキル【
[ジョブスキル【
[ジョブスキル【
[マジックスキル【樹界魔法】を獲得しました]
この通知が届いたということは、エンジュは死んでしまったようだ。
龍煌国との交渉材料が一つ減ってしまったな。
彼には色々聞きたいことがあったのだが……まぁ、魂を回収すればどうにでもなるか。
「……やはり〈星戦〉の告知は無し、か」
〈悪毒の魔王〉マルベムが復活したが、正確には完全な復活ではなく、その魔王の残滓とでも言うようなモノだ。
万が一にも〈星戦〉が起こる可能性に懸けて復活を見逃したが、〈魔王〉の称号自体は復活しなかったので〈星戦〉の告知もなかった。
星戦報酬が欲しかったのだが……そのうち他の魔王でも襲うか。
それはそれとして、真の決勝戦は制したし、後は乱入者の処理を済ませればいいだけだ。
さて、眼下の喧しいトカゲをどう料理してやろうかな……。
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