第285話 ベラム
◆◇◆◇◆◇
『ーー此度の〈
司会者の煽りを受けて試合会場の一般観客席から大歓声が沸き起こった。
選手入場口からそれらの声を聞きつつ、首から下がるネックレス型
両手に〈正義手甲メルキセデク〉を、両足に〈正義足甲メルキセデク〉がそれぞれ具現化されたのを確認すると、軽く手足を動かして調子を確かめた。
準決勝の相手の戦闘スタイルを考慮すると、最初から手足に高位防具を装着しておくべきだと判断した。
そのため、元々装備していた足装備の〈氷狼の冷脚〉は外している。
司会者のアナウンスに従って開かれた入場口から試合が行われる舞台へと上がる。
【
対する準決勝の相手、次期SSランク候補〈十公聖〉の一人であるベラム・フィスターは、全体的に紅かった。
褐色の肌に白髪のベラムが纏う防具は、俺のビャクライと同じく布製の
等級は伝説級下位で、武闘家とかが着てそうな衣装の色は上下共に紅く、所々に金色の刺繍が入っている。
両手首の腕環や足装備の黒靴も含めて全てが叙事級か遺物級の魔導具であり、自らの格と力に見合った装備で揃えているようだ。
ふと、前世のバトル物のマンガなどで稀にいた、肉体が強いなどの理由から上質な装備を整えずにジャージや木の棒などの何の力もない装備で戦う主人公達を思い出した。
前の異世界の時も含めて、現実では命懸けの戦いの場でそんなふざけた装備を身に付けている者はいなかった。
仮にいたとしても現実と非現実の区別が付いていない、異なる世界出身である
その異界人も戦いを甘くみた結果として早々に死んでいるか、大怪我をしたことで反省し、ちゃんと装備を揃えたりしているはずだ。
まぁ実際には、運がメチャクチャ良くて痛い思いをせずに装備は二の次みたいな能天気な奴がこの世界にはいるみたいだが……。
そんな俺の様子を意外に思ったのか、対戦相手のベラムが話し掛けてきた。
「ほお。これまでの試合と違って、最初から武器を抜くのか?」
「ベラム殿が相手では油断は出来ませんからね。試合開始前から構えさせていただきますよ」
「それは俺としても嬉しい限りだ。お主が相手ならば、すぐに試合が終わることはなさそうだ……簡単に終わってくれるなよ?」
「そちらも十公聖の一人なのですから、私をガッカリさせないでくださいね?」
「くくくっ、言うではないか」
ベラムもここまでの全ての試合を短時間で終わらせてきた。
今大会に出場している全選手の中で一番高い基礎レベルということは、極端に言えば身体
実際のところは俺のほうが上みたいだが、油断できるほどの差が数値上であるわけではない。
一瞬、同じ格闘スタイルに限定して戦おうかとも思ったが、次期SSランク候補と言われている者と本気で戦える貴重な機会なので、この場で明かしても惜しくない力の範疇で全力で戦うことにした。
まぁ、勝敗に関わらず武闘大会は準決勝で終わらせるつもりだったので、最後の試合ぐらいは楽しみたかったというのが一番の理由なのだが。
俺とベラムが会話をしている間にも、司会者による俺達二人についての紹介やこれまでの試合の解説などが行われていた。
試合を盛り上げるための観客向けの話も終わり、漸く試合開始の合図が下された。
『それでは準決勝、第一試合開始してください!』
「クァッ!!」
ベラムの鋭い気合いの声とともに莫大な量の紅い闘気が立ち昇る。
自らの戦意高揚と俺への威圧も込められた声を受け流すと、此方も闘気を発した。
元々発せられる黄金色の闘気だと、その闘気の固有色から
以前までは、変装時に使っている【
そんな白銀色の闘気を身体から静かに立ち昇らせ、構えていた双剣を目の前の空間へと振るった。
直後、金属同士が激しく衝突したかのような轟音が舞台上に鳴り響く。
一瞬で距離を詰めてきたベラムが振り抜いた拳と俺が振るった〈
即座に左手に握る〈
下から掬い上げるようにして斬り掛かるが、ベラムはモルスの黒刃と接触している右の拳を開いて黒刃を鷲掴みにし、強引にモルスごと俺の身体を横へ動かした。
「チッ」
思わず舌打ちを漏らしつつ、左へと動かされると同時に俺の右脇腹へと迫る、意趣返しの如きベラムの左拳の一撃に対処する。
【穿風闘脚】を発動させた右足でベラムの左拳を蹴り上げる。
更に、蹴撃とともに放った強烈な突風でベラムの身体を吹き飛ばし、地上へと右足を鋭く引き戻した際の軌跡に沿って風刃も放ってベラムを追撃した。
「ハッハッハッ! 良いぞッ! そうでなくてはなッ!!」
ベラムが紅い闘気を纏わせた手で振り払うようにして風刃を砕くと、地面に二筋の着地の跡を付けながら停止する。
呵呵大笑な様子のベラムに向けて、【黒天撃】の黒いオーラを纏わせた双剣を交差させるようにして振り抜き、破壊特化の黒いオーラのクロス状の斬撃を飛ばす。
昨日取得したジョブスキル【
その強化補正により斬撃型の【黒天撃】は強化されているわけだが、それは闘気をマスターしているベラムも同じだ。
「ーー〈覇哮拳〉ッ!」
技名らしき言葉を発しながらベラムが正拳突きを繰り出すと、その拳から紅い闘気で形成された巨大な拳撃が一直線に放たれてきた。
独特な闘気の流れより放たれた大気を震わせる紅い拳撃が、クロス状の【黒天撃】の斬撃を打ち砕く。
【黒天撃】を破壊しても衰えずに突き進んでくる紅い拳撃を横へ跳んで回避する。
だが、回避した先へと距離を詰めて回り込んできていたベラムより、至近距離から更なる攻撃が放たれてきた。
「ーー〈災侵仙拳〉ッ!」
闘気だけでなく星気をも混ぜ合わせてから圧縮した氣を宿した轟拳が直撃する。
咄嗟に拳撃に宿る氣を減衰すべく無生物特化の【白天撃】を両腕に纏わせると、真竜人族の秘血特性〈竜体装起〉で両腕を竜の腕に変化させた。
双剣を盾にしては砕かれると直感的に判断し、竜鱗が生えた腕と防具である正義手甲メルキセデクを盾代わりにしてベラムの拳撃を受け止める。
純粋な拳打だけでも白銀の闘気は勿論、ビャクライの【磁雷装甲】とモルスの【付死纒鱗】が貫かれ、防具である手甲のメルキセデクが潰され、その下の腕に生えた竜鱗もクッキーのように砕け散った。
だが、この拳撃の本命はその後だった。
打撃箇所から俺の体内へと入り込んできたベラムの氣が、腕から肩、胴体、内臓へと浸透し、体内の魔力経路や血管などを破壊していく。
体内の凡ゆる部位を破壊し、蹂躙していくダメージに思わず吐血するが、この程度はどうとでもなる。
それにーー覚えたぞ。
「ゴフッ、捕まえた」
「むっ、まだ動かせーー」
「ーー〈災侵仙拳〉ッ」
「ーーッ、グゥッ!?」
手首のスナップだけで双剣を上空に放り投げると、拳撃を放ってきたベラムの右腕を【生体操作】で無理矢理動かした左手で捕縛する。
残る右手で身を以て体験して覚えた技をベラムへと喰らわせた。
反射的に左腕でガードされたが、それでもダメージは与えられたようで、俺の拳撃で後退したベラムの口の端からは僅かに血が流れていた。
ボロボロの手を使って技を放ったせいで、期待していたほどのダメージは与えられなかったようだ。
「……まさかとは思うが、今覚えたのか?」
「ええ、文字通り身を以て
口元から流れ出る血や地面へと吐血した血へと【煌血の大君主】の【
続けて、同じく【煌血の大君主】の内包スキルたる【
聖なる光の祝福により強化された血剣をベラムへと放つ。
意思を持つかのように舞台上を飛び回りながらベラムへ殺到する血剣を観ながら、今のうちに【煌血聖皇】の力で体内のダメージを回復させる。
更に回復を促進するために、白竜剣ヴィータの第二能力【生命蒐喰】で接触時に僅かに奪ったベラムの生命力を使って第三能力【製命転輪】を発動させる。
奪った生命力を自己治癒力の一時的な超強化へと転用したことにより、落下してきた双剣を掴み取った時には怪我の治療は完了していた。
「ふぅ。時間稼ぎにはなったようですね」
致死ダメージを受けた体内の治療が終わった直後のタイミングで、ベラムを攻撃していた血剣が全て破壊された。
ベラム自身も血剣を迎撃しながらも何らかの手段で体内ダメージを回復させたようで、先ほどまでは感じられた気配の揺らぎがなくなっていた。
「……お主は生半可な攻撃では死にそうにないな」
「それはどうでしょうね」
獰猛な笑みを浮かべるベラムに応えるように不敵な笑みを浮かべつつ、破壊された正義手甲メルキセデクの具現化を一度解除してから再び具現化させた。
新品のメルキセデクが装着されたのを確認してから、【煌血魔皇】で体内の血を操り身体強化を行う。
【煌血聖皇】の聖なる力でも身体強化を行うと、同じように闘気以外の手段も使って身体強化を行なっているベラムへと、今度は俺の方から斬り掛かっていった。
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