第286話 闘錬戦鬼
◆◇◆◇◆◇
「ーー〈流星震脚〉ッ!」
「ーー〈魔天衝〉ッ!」
上空から流星の如き飛び蹴りを繰り出すベラムの〈流星震脚〉と、俺が放った天を裂く勢いで斬り上げた〈魔天衝〉が激突する。
ベラムの靴と黒竜剣モルスのアイテム等級こそほぼ同じだが、地上への攻撃と頭上への攻撃の違いから技自体の攻撃力はベラムの方に軍配が上がる。
技の練度においても、双方の技は共にベラムの技であるため、ベラムの方が優位だろう。
俺の方が勝っているのは、〈竜体装起〉による十割の竜体化で強化された身体性能ぐらいだが、これだけではまだ負けているため、今俺がモルス越しに放った〈魔天衝〉には、独自に非生物特効攻撃系スキル【白天撃】を追加している。
ベラムの技は闘気と星気が織り交ぜた特殊な氣を使っているため、この【白天撃】ならば非生物である氣を減衰させることが可能だ。
斬撃と共に放たれた白いオーラがベラムの蹴撃が纏う紅いオーラを削っていく。
これで互いの技の威力は同等……というのが先ほどまでの展開だったが、今回の技の応酬の結果は違っていた。
「ぐっ!?」
一瞬の拮抗の後にモルスが弾かれ、そのままベラムの蹴撃が俺に胸を穿つ。
蹴り飛ばされた身体が地面を転がる。
胸部へのダメージで息が出来なくなるが、咄嗟に無呼吸でも動けるように【酸素不要】を発動させた。
身体が一度地面に触れてすぐに地面に手を当てて跳ね起き、空中で体勢を立て直すと、両足で地面を削りながら無理矢理勢いを殺して停止する。
顔上げた先で迫っていた飛翔する拳撃の弾幕に対して、黒竜剣モルスだけでなく白竜剣ヴィータも使った、破壊特化の【黒天撃】による黒い斬撃の乱れ撃ちで迎撃した。
迫る拳撃の弾幕を斬り裂いた黒い斬撃の幾つかがベラムを襲ったが、虫でも払うような動きで簡単に打ち払われた。
[保有スキルの
[スキル【白天撃】がスキル【白陽撃】にランクアップしました]
[スキル【黒天撃】がスキル【黒陰撃】にランクアップしました]
ランクアップの通知に意識を向けつつ、今起きた一連の出来事について考察し、答えを出した。
「……随分と強化されたようですが、ユニークスキルですね?」
「よく分かったな。普段は滅多に使わぬが、このままの調子でやり合っておったら、お主に全ての技が奪われそうだからな。そろそろ決めに掛からせてもらった」
「そうでしたか。一気にパワーが跳ね上がったせいで捌き損ねましたよ……」
体感だが、身体強化率は俺が持っている
ベラムのユニークスキル【
【
器の、つまり肉体の性能が強化されたことで、唯一優勢だった身体性能も上回られてしまい、互いの攻撃力の均衡は崩れた。
十公聖であるベラムの格闘術を
まぁ、試合開始からこの十数分の間に結構な数の技と技術を会得できたから良しとするか。
「では、そちらも本気を出すようですし、私もギアを上げさせていただきましょう」
本気を出したベラムに対抗するには【万夫不当の大英雄】の【巨神穿つ闘覇の煌体】が最適だろうが、コレを使うと身体の表面に電子回路のような金色のラインが浮かび上がってしまう。
過去に他人の目がある場で使ったことがあるスキルであるため、
他にも【
となると、使うことが出来る身体強化系スキルは、これまでリオンの時に他人の前で使っていないスキルに限られる。
幸いにも、これまでの頑張りもあって普段使わない身体強化系スキルは幾つかあった。
まだベラムには切り札があることも踏まえると、こちらの手札は小出しにして心理的に優位に立つほうが良いだろうな。
取り敢えず、【
魔権系ユニークスキル以外のスキルはベラムが切り札を使ってから使うとしよう。
【
【
【
【
【
【
【
【
【
個々に発動させるのが手間だったが、どのスキルを発動しても外見上に変化はないため、これなら
外見と言えば……。
「……モルスは無理そうだな」
モルスに視線を向けると、その黒い剣身に僅かに亀裂が入っているのが見えた。
どうやら、先ほどベラムの〈流星震脚〉に弾かれた時に破損したようだ。
【
破損したモルスはこのまま御役御免ということで鞘に納めた。
代わりに〈正義天輪メルキセデク〉の【正義兵装】で具現化させた短剣を使用する。
これで両手の短剣が共に白色系になったことで、ますます全身が白くなった。
そんなどうでもいいことを考えつつ、双剣を構えた。
「準備は出来たみたいだな?」
「待っていただきありがとうございます」
「構わんさ。思う存分にやり合えるならなッ!」
強く地面を蹴って駆け出してくるベラムの背後では、試合の舞台の一部が盛大に破壊されていた。
これまでの戦闘でもボロボロになっていたが完全な破壊にまでは至っていなかったが、ユニークスキルにより超強化された脚力には耐えられなかったみたいだ。
同じように背後の地面を爆発させるようにして駆け出すと、目と鼻の先の距離にいるベラムへと双剣を振るう。
この試合で幾度となく聞いた、剣と拳の衝突とは思えない金属音を会場中に響かせながら舞台上を駆けていく。
大幅に引き上げられた身体能力を活かした脚力と歩法を以て駆け回りつつ、その移動速度以上の速さの斬撃を繰り出し続ける。
「フッ、クッ、ハッ! お主、もッ、やっと、
「そうですね。あとは、自分で発展させて熟達していきますよ。だから、早く切り札を切ったらどうです?」
これまでの戦闘は、基本的には正面からの技の打ち合いだった。
ベラムの技を盗むには、間近で見るだけでなく、ある程度は身を以て体験する必要があったからだ。
だが、その観察も止めたため、ここからは本気でベラムを倒すべく、その技を学習するのではなく凌駕するためだけに剣を振るう。
濃厚な氣を宿す拳の表面に【白天撃】改め【白陽撃】を纏わせた短剣の刃を滑らせていき、その一撃が宿す力を削り落としながら、俺の身体に当たらぬように受け流していく。
受け流した際の動きと勢いを殺さぬように四肢の動きを繋げ、そのまま直前の受け流しで生まれた僅かな隙を突いてベラムの闘気の鎧を斬り裂き、その肉体にダメージを与えていった。
〈柔剣〉と呼ばれる、所謂『柔よく剛を制す』を体現した剣術のみでベラムの猛攻に対処しているのは、ベラムのような剛の者との戦いでは有効だからというのもあるが、一番の目的は挑発だ。
相手よりも身体能力が劣るほどに柔剣の難易度は上がるが、
柔剣は同程度の強さの相手にも効果的であり、その相手が剛の者ならば尚更効果的だ。
昔取った杵柄だが、この技を多用しなければならないような相手に出逢えたことに感謝すべきだろう。
当たれば大ダメージ必至な緊張感を抱きながら、手足の如き一体感のままに双剣を振るい、攻撃を捌き、攻撃を与え、望むがままに剣を振るい続ける経験は、また一段と俺を成長させてくれるはずだ。
やはり、心技体の揃った強者との戦いは好いものだな。
[特殊条件〈剣武天啓〉〈剣神武闘〉などを達成しました]
[スキル【剣神化形】を取得しました]
質の高い剣技を振るう高揚感が影響したのか、【剣神武闘】が新たに取得した【剣神化形】というスキルへと
効果は読んで字の如くのようだが、今の俺の基礎レベルでは十全には発揮出来そうにない。
ベラムが切り札を切ったら【剣神武闘】を使うつもりだったが、前以上に外見に変化が起きそうだから今回は使えないな……。
「クッ、ハハハハハハハッ!! 成る程、成る程。確かに、今のままでは当てられそうにないなッ!」
現状を正しく把握したことを意味する発言の後、ベラムが足元の地面を強く踏み鳴らす。
爆弾が爆発したかのような舞台の破壊を目眩しにしてベラムが大きく飛び退いた。
互いの身体能力からすれば一秒足らずで詰められる距離だが、心理的には必要な距離なのだろう。
両手を左右の腰部で構えたベラムが、これまでにないレベルで身体の内側から闘気を立ち昇らせていた。
今攻めれば勝てるだろうが、噂に聞くベラムの切り札を目の当たりにしたいので静観する。
「ーー〈闘錬戦鬼〉」
「ッ!?」
ベラムの声が聞こえた瞬間に横へと避けたが、ギリギリで避けられずに左腕が吹き飛ばされた。
想定よりも速い一撃に軽く驚きつつ正面を見据える。
そこには紅い鬼のような意匠の全身甲冑に身を包み、荒々しい風を纏ったベラムの姿があった。
あの姿が、ベラム・フィスターの覚醒称号〈闘錬戦鬼〉の力というわけか。
覚醒称号であるためか【万物を見通す眼】でも読み難かったが、読み取れた範囲の情報によれば効果は『闘気関連の強化補正と、予め蓄積した闘気の物質化』というモノらしい。
物質化した闘気の鎧による強化率は通常時の闘気の強化率よりも高いようで、副次的に闘気を用いた技も超強化されているみたいだ。
まぁ、それでもギリギリ視認できたので対処は可能だろう。
技名は聞こえなかったが、おそらく飛ぶ拳撃である〈覇哮拳〉であろう一撃によって左腕が失われたのは二重の意味で痛い。
左手に握っていた白竜剣ヴィータも全壊しており、背後の結界の近くに左腕とともにヴィータの残骸が転がっているのが見えた。
現在、背後に展開されている多重結界は元々張られていたモノではなく、リンファによって追加で張られた結界だ。
国お抱えの結界使いや魔法使い達が張っていた結界は、覚醒称号の力の発動とともに放ったベラムの〈覇哮拳〉によって崩壊していた。
リンファが即座に結界を張っていなかったら、俺の背後の観客席にいる者達は死んでいただろう。
こういった事故を防ぐために本選の試合ではリンファが観戦しているのだと思われる。
「長くは続けられないな」
リンファの体調は今も万全ではないため、さっさと決めるとしよう。
ちょうど良く材料は転がっている。
【星の天秤】を発動させると、原型を留めた状態で転がっている左腕と流れ出る血を対価に捧げ、自らの身体能力を更に強化した。
既存の強化と重複することなく身体能力が強化されたが、まだ遠い。
ベラムとの身体能力差を埋めるべく、先ほどは使わなかった別系統のユニークスキルの内包スキルも発動させた。
【
【
【
【
これで何とかなるだろう。
駄目押しに融合も行なっておく。
[スキルを融合します]
[【白陽撃】+【黒陰撃】+【死蝕魔刃】+【命喰魔刃】=【陰陽撃】]
残る右手に握る短剣型の正義天剣メルキセデクの剣身に【陰陽撃】の濃厚な黒と白が入り混じったオーラを纏わせた。
準備は完了した。後は斬るのみ。
「……」
「……」
お互いにこれ以上言葉を重ねることなく駆け出した。
一時的に超越者の領域へと足を踏み込んだ身体能力は、瞬く間に彼我の距離を無にする。
俺とベラムが激突する瞬間、紅の拳撃と黒白の斬撃が振るわれた。
攻撃を振り切った体勢のまま、お互いの身体の動きが止まる。
直後、俺の右肩が破裂し、右腕が千切れ落ちそうになった。
「……」
「……クハハッ、まだまだ、鍛え方が足らぬ、か」
ベラムが正面に突き出した拳が斜めに裂け、その裂け目は胴体にも生まれ、次の瞬間には袈裟懸けの軌跡に沿って彼の身体が両断された。
拳撃ごと両断したつもりだったが、完全には斬れなかったらしく、無力化出来なかった分の闘気が右肩に被弾したようだ。
思ったよりもギリギリだったが中々に楽しめたな。
『し、試合終了ッ! 白熱激闘の試合を制したのはジン・オウ選手ですッ!! おめでとうございます!!』
会場中から沸き起こる大歓声に応えようと思ったが、両腕が使えないので無理だった。
仕方なくそのままの状態で歓声を聞きながら、紅い鬼甲冑が消滅した蘇生中のベラムから彼が持つスキルをコピーした。
[ユニークスキル【
[対象人物を認識しています]
[ユニークスキル【取得と探求の統魔権】が対象スキルに干渉しています]
[対象人物は
[スキル【風神猿武】を取得しました]
[保有スキルの熟練度が規定値に達しました]
[ジョブスキル【
お、これは……コピーした【風神猿武】の能力の一部の効果で熟練度が増えて【格闘王】がランクアップしたのか。
この試合では主に双剣を使っていたが、意外とこっちの方の熟練度も上がっていたみたいだな。
さて、準決勝戦を無事に終わらせたわけだが、後は大会委員に決勝戦を棄権することを伝えるだけか。
試合終了後は蘇生だけでなく大怪我もちゃんと治るとはいえ、流石に疲れたな……。
狙ったわけではないが、良い具合武器も全壊したし両腕を失うほどのダメージを負った。
怪我は治っても気力は回復しないし、装備も元通りにはならない。
これなら棄権してもおかしくないはずだ。
試合の舞台の修復に時間がかかるし、話を通す時間も十分ある。
次の準決勝戦第二試合の選手の片方は龍煌国の第一皇子だし、第二試合が実質的な決勝戦扱いになれば、第一皇子は勝っても負けても優勝か準優勝だ。
龍煌国としても悪い話ではないので話は通るだろう。
三位でも黒龍剣の選定話が来た場合は……疲れたから帰ると言って逃げればいいか。
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