第266話 龍煌国への入国準備
◆◇◆◇◆◇
ファロン龍煌国。
大陸に現存する数多の国家の中でも屈指の歴史の古さを誇り、大陸極東部一帯の殆どを国土としている大国だ。
国号に〈龍〉の字があるように、龍または竜を力や権威の象徴としており、支配者階層の多くが龍や竜系の人類種で占められている。
そのため、国内で活動する際にはこれらの種族であった方が色々と活動しやすいのは間違いない。
ファロン龍煌国の建国にも携わり、その国名からも国内での影響力の強さが窺えるSSランク冒険者〈天喰王〉リン
そういった理由から【
その際に、試しに称号〈黄金の魔女〉によって女性体の容姿が固定化された仕組みを参考に、俺の生態情報のうち種族情報のみを竜人族に変更してみたところ、容姿が俺が竜人族として生まれていた場合のモノに変化した。
側頭部から生えた銀色の三対の龍角に、切れ長の紫色の龍眼、エルフに似た長い耳、腰の辺りまで伸びた艶やかな黒髪といった風貌に自動的に変わったのだが、種族に関しては何故か竜人族ではなく上位種族の真竜人族になっていた。
俺が変化に使った種族因子は竜人族のモノーー屋敷で働いている竜人族のメイドから摂取したーーだったのにこうなったのは、なんとなく称号〈創造の勇者〉が原因な気がする。
今思い返すと、先日の戦争時に
元々が超人族なので深く考えなかったが、もしかすると使用した種族因子の位階に関わらず、この生態情報の一部を変更して変化する方式ーー〈IF生誕式〉とでも呼ぶかーーを使うと自動的に上位種族になってしまうのかもしれない。
まぁ、発揮できる身体能力の種族補正などは向上するので良しとしよう。
「服は【無限宝庫】にあった現地風のやつにするとして、偽名は何にするかな。名乗りやすいのがいいよな……オーディンをオージンと発音した上で現地風に変えて、ジン・オウとでも名乗るか」
姓はオウ。名はジン。
うん、多少はそれっぽくはなったかな。
仮の身分については、とある豪商の隠し子的な道楽息子とでも設定しておくか。
戦闘スタイルは、適当に双剣と格闘でいいや。
前世の異国風ファンタジーな剣豪・拳法家系の娯楽小説などに出てきそうな黒を基調とした布製防具である〈黒嵐虎の長衣〉。
先日手に入れた蒼と紅の双剣の複製品を使って暇潰しに製作した黒の短剣〈
そんな高価そうな長衣と双剣を装備しておけば金持ちらしさが滲み出せるだろう……たぶん。
「うわっ、ご主人様が違うイケメンになってる」
「違うイケメンとは謎ワード感が凄いな」
ノックもせずに入室してきたカレンの発言にツッコミつつ、彼女に続いて入ってきた二人にも視線を向ける。
「セレナ先輩とエリンも衣装選びは済んだみたいですね」
「はい」
「選び終わったけど、屋敷の衣装部屋にあんなに沢山の服があったことに驚いたわ」
上流階級の界隈や世間での流行りの服などは買い集めておくようにリーゼロッテや屋敷のメイド長に頼んでいるため、屋敷の衣装部屋には自然と大量の衣服が集まることになる。
現在の流行や流行の変化などをすぐに確認することができるため、公私ともに活用させてもらっている。
そんな衣装部屋にある服を使って、エリン、カレン、セレナの三人には自分達の変装用衣装を選んでもらっていた。
ファロン龍煌国には屋敷で暇をしているエリン達も連れていく。
三人以外の面々は、戦勝記念式典などの様々な行事や貴族主催のパーティーに、祖国の王女兼臨時大使として、または実家の貴族令嬢として参加しなければならないため大変忙しい。
俺もそれらの集まりに参加するが、リーゼロッテ達と違って俺には分身体という手段がある。
故に、せっかくの機会なので帝国の貴族令嬢や他国の王女といった面倒な身分がなく、必然的に暇をしている三人も連れて龍煌国に観光しに行くことしたのだ。
そのための変装だが、エリン達の他国での知名度は無いようなものなので、変装といっても髪の色を変えるくらいのことしかしていない。
種族もそのままなので、真竜人族になっている俺と、狼人族、狐人族、人族という少し目立つ組み合わせのグループになった。
彼女達の設定は、他国の豪商の箱入り娘な
この設定ならば多少変なところがあっても言い訳は立つだろう。
「今のリオンくんの顔って、元々の顔に似ているけど大丈夫なの?」
「天喰王は視覚などの各種感覚機能が優れているようですからね。どれだけ変装したとしても直接相対したらすぐにバレると思いますよ」
「だから本気で隠す気はないってこと?」
「そういうことですね。口約束とはいえ、期限までに会いにいけば正体云々などを国に黙っていてくれる約束なので、天喰王への身バレについては取り敢えず気にしなくていいんで」
仮に守られなかった場合でも、約束を守らない相手だというのが分かるから今後の対応する際の判断材料にも活かせるしな。
「それに、元の顔に似ているとはいっても血の繋がりを感じる程度ですから、幾らでも言い訳はできます。変装といったら元の姿とは完全に異なる姿をするという先入観もあるでしょうから、天喰王以外はリオン本人だとは気付かずに、自然とリオンとの血の繋がりを疑うと思いますよ」
「……ホント、色々考えてるわね」
感心しているような呆れているようなセレナからの視線を肌で感じる。
この世界に転生して以降、多大なる欲望を行動の軸にしつつ、その時その時の自分の力で解決できる範囲を見極めてから行動してきた。
自己弁護な理論武装も用いて大胆かつ慎重に動いてきたので、この程度の事態への対処などは我ながら手慣れたものだ。
「婚約者と侍女姉妹。その三人の恋人達と同時にデートをする若旦那って感じよね」
「はて、三人?」
「恋人二人と妹侍女が一人よね」
「カレン、現実をみなさい」
「恋人二人……と恋人予定一人っ!」
尚も苦し紛れな主張をする非恋人なカレンを後目に、普段よりも長く伸びている髪の毛を四本引き抜く。
引き抜いた四本の髪の毛を素材に権能【錬星神域】〈虚神の錬星工房〉を小規模発動させる。
引き抜いた髪の毛に銀色の魔力粒子が纏わり付くと、一瞬で髪の毛は黒い金属質の細いブレスレットに変化した。
「三人ともコレを身に着けておいてくれ。コレを装着しておけば万が一迷子になってもお互いの位置が分かるはずだ。他にも互いの姿が普段通りの姿に見えるなどの機能があるから確認しておいてくれ」
異国の地なので安全対策として【錬星神域】で特殊な
まだ【錬星神域】は試行錯誤をしている最中だが、こういった具合にアイテムを作れることは確認済みだ。
「あ、凄い。ご主人様の姿が元の姿に見える。そして外すと……また竜人族に戻った」
「凄いだろ? ちなみに今の俺の種族は竜人族じゃなくて真竜人族だから一応覚えておくように……そういえば、三人とも新しいユニークスキルには慣れたか?」
錬魔戦争の終わり頃にマルギットに眠っていたユニークスキルを覚醒させた際に、そのユニークスキルが俺の影響を受けたモノに変化した。
そのことを聞いたマルギットと同様にユニークスキルを持っていないエリンも覚醒を望んだので、戦後に彼女に眠っているユニークスキルも目覚めさせた。
そして更に、それらの話を聞いた既にユニークスキルを持っているカレンとセレナからもユニークスキルへの干渉を望まれたため、つい数日前に実行した次第だ。
その結果、マルギット以前にユニークスキルが変化しているシルヴィアの【
マルギットは【
内包スキルは【煌輝なる戦い】【祝聖戦姫】【愛増無双】【天鳴戦槍】。
エリンには【
内包スキルは【勇猛なる福音】【祝聖戦姫】【切り開く者】【勇輝戦麗】。
カレンのユニークスキルは【
内包スキルは【魔の戦杖】【祝聖戦姫】【魔力の天泉】【魔導掌握】。
セレナのユニークスキルも【
内包スキルは【運命の導き手】【祝聖戦姫】【黄金天運】【未来智覚】。
ヴィルヘルムのユニークスキルを覚醒させた時とは異なり、今回は覚醒させたユニークスキル自体を俺も獲得することができた。
おそらく【
【魔賢戦神】による影響で彼女達のユニークスキルが変質したことで俺との繋がりが強くなり、【強欲神皇】の
ユニークスキルの固有特性の効果は名称と実際に起こった事象で予想するしかないので断定はできないが、状況的にも大きくは外れていないはずだ。
錬魔戦争後に
まぁ、時系列的にはウリム連合王国の影の英雄から【
そう考えると、ファロン龍煌国でも新たにユニークスキルを獲得する可能性を否定することはできないな。
数時間前にスキルを融合させたばかりだが、何か良い案はないだろうか?
「大体慣れたわ……って、どうかしたの?」
「んー、いえ、セレナ先輩達のユニークスキルに干渉した際に俺も同じユニークスキルを獲得したことは以前言いましたよね」
「うん。言ってたわね」
「詳細は省きますが、昨日も不意に新たなユニークスキルを獲得したんですよ。そのせいで、数点のアイテムから能力を剥奪しただけでキャパシティに余裕が無くなる事態に陥ったので、これから向かう龍煌国でも同じことが起こらないとは言えません」
「普通は起こらないと思うんだけど……」
「早朝にスキルを融合させてキャパシティを空けたばかりですが、今後のためにもっと余裕を持たせるべきかと思い直しましてね。新たな融合案に頭を悩ませていたんです」
「ご主人様がスキルに貪欲な件について」
カレンの言う通り貪欲かもしれないが、貪欲、いや、〈強欲〉こそが俺のアイデンティティなのだから仕方がないのだ。
「アイテムから剥奪したばかりの能力を融合素材に使っては如何でしょうか?」
「それもそうだな……」
エリンに言われた対象スキルを融合素材として考えてみた。
更に、手に入れたばかりの【
すると、これまでは見えなかった新たな融合案が脳裏に大量に浮かび上がってきた。
どうやら【万物を見通す眼】の名に偽りはないらしい。
さっそく【混源融合】を発動させた。
[【侵蝕する竜焔の聖痕】+【勇者ノ聖痕】+【魔王ノ呪詛】=【神蝕む超越種の星痕】]
[【隠神権能】+【隠密の心得】+【鎧装歩法】+【重装快走】+【看破妨害】=【
[【勇者ノ剣】+【魔王ノ剣】+【魔剣支配】+【禁じられた戦い】=【現神ノ剣】]
[【魔王ノ天敵】+【勇者ノ天敵】=【超越種ノ天敵】]
[【戦闘続行】+【強制駆動】=【戦闘始動】]
[【
[【地災獣王の覇剛撃】+【
またヤバそうなスキルが……ま、いつものことか。
これだけキャパシティを空けておけば大丈夫だろう。
「よし。解決した」
「へ?」
「こら。はしたないわよ」
「でもエリンお姉様。ご主人様が解決したって……」
「ええ。流石はご主人様よね」
この場合はカレンの反応の方が一般的なんだろうな。
「自己解決したなら良かったけど、新たなユニークスキルを獲得するような荒事が起こる可能性があるの?」
「おそらくは、といったレベルですけどね。観光先の龍煌国では祭りをやってる最中ですから」
「祭り?」
「ええ。国内外から数多の人が集まっているようですからね。祭りの内容も含めて詳細は現地で説明しますよ」
ただでさえ祭りというだけでも治安が悪くなるのに、今回は祭りの内容が内容だからな。
場合によってはユニークスキルなどの新規スキルも手に入るだろう。
国内外から人が集まるなら普段は見慣れない顔がいてもおかしくないので、リーファに接触するにも大変都合が良い。
そして祭りだからデートにもちょうど良いという、今の龍煌国への来訪はまさに良いこと尽くしのタイミングなのだ。
最終的にどうなるかは未定だが、せっかくの祭りの機会なので普通に楽しむとしよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます