第265話 錬魔戦争で得た物
◆◇◆◇◆◇
『ーーそうそう。良い感じよ。ワタシには及ばないけど上手いじゃない。その魔力波長で変換するのが最適だからちゃんと覚えておくのよ』
『おー、炎の性質変化もスムーズだな。帰属者であるご主人の影響もあるのかね?』
異界にある固有領域〈強欲の神座〉のとある空間に移動してすぐに、
声がした方に視線を向けると、そこでは一体の金属鎧を取り囲むように六大精霊達が集まっていた。
金属鎧の正体は神器〈
どうやら、俺が六大精霊達に頼んでいたアトラスへの教育を行なってくれていたようだ。
『あ、マスターだ』
アトラスの頭の上で寝ていた
「ピピッ!」
「ピィッ!」
俺の両肩に留まってついてきた〈
入手して以降、殆ど此処に置いているアトラスと接する機会は少ないので、おそらく使い魔同士の交流でもしに行ったのだろう。
アトラスが属性操作の練習中であることなど気にも掛けず話しかけているあたりから、アモラとルーラの自由っぷりが窺える。
まぁ、ゴーレムであるアトラスが怒ったりすることはないし、有する演算力などの
会話といっても、アトラスに発声機能はないので思考発信形式ーー思念での会話になるため、パッと見はアモラとルーラが肩の上で囀っているだけにしか見えないのだが。
「まぁ、楽しそうだな」
ほぼ一方的に二羽が話しかけているだけではあるが、これもアトラスの学習になるだろう。
アトラス達の横を通り過ぎて丘を上がっていく。
そこには樹高三メートルほどの木が聳え立っていた。
その根元付近では省エネ形態の
声がしたので木の上を見上げると、そこでも
「ご苦労様」
『来たわね、マスター。作業は順調よ。ワタシの分は終わった。ルキスとノームもすぐに終わるわ。本当よ?』
一番近くにいたシルフに声を掛けたら任せていた作業の進捗状況について報告してくれた。
彼女達の手元には、固有領域〈強欲の神座〉の環境設定などを操作する際に使用される半透明の操作盤が具現化している。
先ほどから手や手に該当する部位を動かしていたのは、この操作盤を操作して作業を行なっていたからだ。
シルフが手元の操作盤を見せてくれたので確認する。
「確かにもう終わりそうだな。助かるよ」
『そうでしょう? マスターの用事は終わったの?』
「ああ。アラダとウリムについては大体終わったから、残りは分身体だけで十分だ」
神刀エディステラ産の
全てが終わったら諸々の報酬として、ウリムの地に秘匿されている旧ウリム帝国時代の隠し宝物庫から数点アイテムが貰えることになっている。
ウリム連合王国の者達も存在を知らない宝物庫らしく、特殊な空間内にあるギミック式の宝物庫とのこと。
俺も探す気があれば見つけられるだろうし【発掘自在】を使えば開けられるだろうが、所有者が明らかなので手は出さないでおいた。
『終わったよー』
『マスター、ちょうど良かった。今の豊穣値をあのアイテムで確認してくれ』
「了解」
フワフワと空中に浮かびながらやってきたルキスとノームも作業が終わったようなので、【無限宝庫】から荘厳なデザインの角が生えた黄金の冠を取り出す。
この黄金角冠は、先日の錬魔戦争時にウリム連合王国の援軍を〈黄金の魔女〉として殲滅した際に手に入れたアイテムだ。
〈黄金の魔女〉の
名称は〈
等級は伝説級最上位であり、限りなく神器に近い
ノームに言われて発動する基本能力【豊穣権限】は、〈豊穣〉に関する力を行使する権限能力であるため、この力を使えば対象物や対象領域の豊穣値ーーよく育つかどうかの数値みたいなものーーを正確に計測することができる。
「……うん。先日よりも三割上がっているな。各種環境設定も循環できているし、あとは放っておけば勝手に育ちそうだ。よくやってくれた。ありがとう」
『上手くいって良かったよ』
『ご主人様。新しい実が生ってたよ』
ルキスが目の前の木に生っていた果実を持ってきてくれた。
その果実はまさに黄金色の林檎としか言えない見た目をしている。
この黄金林檎が生っている木は、〈錬剣の魔王〉との〈星戦〉に勝利したことで得た〈魔王の宝鍵〉にて選択した報酬の一つである、消費型伝説級
大気や水、土、周囲の魔力などによって育つ速さや実る〈星果〉も変化するという特徴があるのだが、この俺の余剰魔力に満ち溢れた空間と用意した最高の環境によって僅か数日で星果が実るまでに成長した。
ルキスが宙に浮ばせながら持ってきた複数個の星果の一つを手に取ると、後方からアモラとルーラが飛んできた。
「……食べたいのか?」
「「ピッ!」」
異口同音の返事をする二羽の欲を叶えるべく、星果樹と同じ消費型伝説級アーティファクトである〈
啄木鳥が木を穿つが如くイズンを啄む二羽を後目に俺も残る一つを皮ごと丸齧りする。
イズンは林檎の見た目通りの味をしているが、どことなくオレンジのような味もする不思議な果物だ。
天上の果実と言っても過言ではない味をしているが、イズンなどの星果はただの果実ではない。
このイズンを食べると、凡ゆる属性耐性の永続強化、病や呪いに対する抵抗力の永続強化、生命力と魔力の永続強化を齎してくれる。
また、摂取して一日の間はそれらが一時的に更に強化される。
霊薬のような人の手では再現の不可能な力を持つ果物……それが星果だ。
その星果を実らせる果樹は、本来であれば一部の神造迷宮の奥地にしか生えておらず、採れた星果にも種がないため、迷宮の外の環境的にも育てるのはほぼ不可能らしい。
そんな星果樹の種が選択制の勝利報酬に並び、自由自在に環境を弄れる異界の固有領域と六大精霊達などが揃っているならば、この報酬を選ぶのは当然のことだろう。
「あとは放っておけば勝手に実が生るが、採取役はどうするかな」
『下位の精霊達に任せてくれればいい。中級以上なら知性的にも綺麗に採取してくれるだろう』
「そうか? じゃあ、人選?やどの属性を選ぶかはノーム達に任せるよ」
『うむ。任せてくれ』
ルキスから残りのイズンを受け取り【無限宝庫】に収納すると、満足気なアモラとルーラを連れて星果樹の元を後にした。
星果樹のある果樹園空間の次に向かったのは、同じ強欲の神座内にある秘密研究所〈
そこでは先の星果樹の種と同様の経緯から選択した報酬アイテムの解析を行なっていた。
「ふむ。これだけの情報があれば十分か」
自動解析機材に繋がれているのは、鍔に嵌め込まれた蒼い聖石が輝く金色の飾りが施された白銀色の長剣〈
概念系の武器型伝説級アーティファクトであり、〈錬剣の魔王〉が生成していた〈
今後の魔王戦に役立ちそうなので念入りに解析し情報を吸い出していた。
それも既に終わったので、この剣の能力をスキルとして取り込むことにした。
そのまま剣として使うよりもスキルとして使う方が便利だからだ。
何気に伝説級のアイテムから能力を剥奪するのは初めてだが、やることに変わりはない。
そうだ。ついでに大量に回収した銀剣の魔王剣と対神器の白剣からも能力を剥奪しておくとしよう。
[アイテム〈魔王殺しの勇者剣〉から能力が剥奪されます]
[スキル【勇者ノ剣】を獲得しました]
[スキル【魔王ノ天敵】を獲得しました]
[スキル【能力封印】を獲得しました]
[スキル【勇者ノ聖痕】を獲得しました]
[アイテム〈勇者殺しの魔王剣〉から能力が剥奪されます]
[スキル【魔王ノ剣】を獲得しました]
[スキル【勇者ノ天敵】を獲得しました]
[スキル【魔王ノ呪詛】を獲得しました]
[アイテム〈対神の禁忌剣〉から能力が剥奪されます]
[スキル【対神ノ剣】を獲得しました]
[スキル【禁じられた戦い】を獲得しました]
ふむ。思ったよりもキャパシティを消費したな。
少しキャパシティに余裕が欲しいので、同じく解析の終わった星戦の勝利報酬である消費型伝説級アーティファクト〈仙霊神丹:蒼木〉を解析機材から取り外した。
その金色の細かい粒が散りばめられた蒼い丹薬を飲み込むと、生命力と魔力の質と量が一気に跳ね上がり、霊格が強化されたことでキャパシティが増大したのを感じる。
それでも気分的にもう少しキャパシティに余裕が欲しかったので、幾つかのスキルと複製アイテムを融合することにした。
[対象を融合します]
[【戦覚通天】+【慧眼】+【先見の明】+【星叡鑑識】+【目利き】=【
[【不動鎧錬】+【適応鎧錬】+【神錬鎧殻】+【祝福の土壌】+【災厄の土壌】+〈天換転工の作業槌〉=【
[【
今すぐ思い付く融合案はこんなところかな。
「ピッピッ!」
「ん? どうした、アモラ」
「ピッ!」
アモラが金色の翼で指し示す先には、星戦後に回収した〈錬剣の魔王〉が生み出した多種多様な魔剣の山があった。
他の魔剣との差異を調べるために此処に置いていた物で、あそこに雑に積んであるのは調べ終わった魔剣達だ。
「……アレが食べたいって?」
「「ピィッ!」」
「ルーラもか。んー、まぁ、解析も済んでるし食べてもいいぞ」
「「ピィーッ!!」」
許可を出した瞬間、アモラとルーラが魔剣の山へと飛び上がっていった。
あれ一山でいくらするんだろうなぁ、と思いつつ、アモラとルーラを置いて現世に戻るわけにはいかないので、二羽の食事が終わるまで手近にある資料を読みながら待つことにした。
まだ謁見の時間まで余裕があるし、のんびりしても構わないだろう。
この後に行われるのは、先日の戦勝記念式典で発表された皇子皇女の双子の生誕に対して、帝国貴族などが公的に祝辞を述べるための謁見だ。
名誉貴族とはいえ公爵位だし、帝国の〈賢者〉であり〈勇者〉でもある俺も公的な場で祝う必要があった。
戦争中のヴィルヘルムの護衛や参戦の報酬などを受け取りに行った際に、既に祝いの言葉を贈っているのだが、地位に応じた本分は守る必要があるのは理解できるため、面倒ではあるが参加することに否はない。
問題なのは、全貴族家、並びに交流のある他国からの挨拶がそれぞれ一言二言あるため、全ての謁見が終わるのがいつになるかが分からないことだ。
自分の番が終わったらさっさと帰っていいほど地位は低くないので、終わるまで待機している必要がある。
これで贈り物の説明まであったら日を跨ぐのは間違いないだろう……。
赤子という理由から参加するのは初めの方だけである両殿下が羨ましいものだ。
まぁ、待機している間は主な意識を分身体に向けて活動できる俺はマシなほうか。
いい加減ファロン龍煌国での活動を始めないと、夏が終わるまでに〈天喰王〉リンファ・ロン・フーファンに見つけてもらえないだろうからちょうどいい。
夏の時季が終わるまでに彼女に会わなければ、影の中に潜める眷属ゴーレムの存在と俺の活動している大体の場所を国にバラすと脅されており、そのタイムリミットは既に一ヶ月を切っている。
直接彼女の住まいに乗り込めばすぐに解決できる問題だが、何か癪なので向こうに見つけさせるつもりだ。
色んな意味で肉食系と噂のSSランクな超越者で、エロ狐美女な風貌の国の守護神との初邂逅は穏便に済むとイイナー。
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