第262話 賢神杖ガンバンテイン
◆◇◆◇◆◇
「ーーこれほどのダメージは久しぶりだな」
「◼️◼️◼️ー◼️◼️ッ!?」
「騒ぐな。剣が震えて頭の中に響くんだよ」
頭の中を掻き混ぜられる不快感と激痛を気合いで我慢して、目の前で驚愕している〈錬剣の魔王〉本体の右腕を右手で掴むと、そのまま握り潰さんばかりに締め上げていく。
人間に近いサイズになった魔王本体だが、その耐久力は魔王偽体よりも上のようで、現在発動している強化スキルだけでは金属製の魔王の右腕を僅かに歪ませることしかできなかった。
「【
【
更なる強化スキルの発動により膨大な力が全身に宿った瞬間、掴んでいた魔王の右腕を今度こそ握り潰した。
「◼️、◼️◼️◼️ッ?」
「さてね」
右腕を握り潰したことで銀剣の柄から魔王の手が離れたのを確認すると、その右腕を捻り上げながら身体を半回転させて魔王へと背中を向ける。
流れるような動きで懐に入り込むとともに、背中の貪喰竜翼を【殲刃剣翼】で剣山化させてから【金剛靠撃】と【地災獣王の覇剛撃】を魔王の胴体へと叩き込んだ。
会心の一撃により、凄まじい爆発音と破壊音を響かせて魔王が地上へと吹き飛ばされていく。
錬装剣由来らしき〈能力封印〉の能力は厄介ではあったが、俺は特殊系ジョブスキル【
あとは〈能力封印〉の力に抵抗できるかどうかだが、そこは【天運招く黄金竜蛇】や【
素の抵抗力の高さも合わせれば抵抗成功率はほぼ百パーセントだろう。
頭部に受けた即死級の攻撃についても【万夫不当の大英雄】の
何故スキルが使えるのか、と魔王は驚いている様子だったが教えてやる義理はないので適当に流したが、真面目に答えるならこんなところだろうか。
頭部を貫通している銀剣を引き抜いて何となく銀剣の剣身に左眼を向けると、そこには俺の右眼と脳髄の肉片が付着していた。
「……せっかくだから有効活用するか」
銀剣の〈勇者殺し〉や〈再生阻害〉などの能力によって失われた右眼と脳髄の一部が再生されないが、【復元自在】を使えば元通りになる。
だが、その前にこの怨みと痛みを返しておくとしよう。
「【
俺の身体を黒紫色のオーラが一瞬覆うと、すぐに発散される。
その発散されたオーラと同種のオーラが、地上に堕ちた魔王本体や残る魔王偽体達、そして生成体であるリビングアーマー達や魔王迷宮の一部である鋼色の大地に纏わり付いた瞬間、魔王達が頭部などを押さえながら金属音のような悲鳴をあげた。
右眼を失い、急所である頭部を貫かれるのに相応しい痛みとダメージが魔王達を襲っている隙に次の行動に移る。
右眼と脳髄のダメージを回復させたら【復讐神の祝呪】の効果が弱まるので、肉体を復元させるのは後回しだ。
「『
【無限宝庫】から再度取り出した〈
すると、貸し出している【意思伝達】を使ってリーゼロッテから通信がきた。
『リオン、大丈夫なのですか?』
「大丈夫大丈夫。ここから先の手札は覗き見している連中に見せるわけにはいかないから隠しただけだ」
リーゼロッテと話しながら目の前の空間に必要な素材を揃えていく。
それと同時に【並列思考】でマルギットとシルヴィア、シャルロットにも連絡を取って問題ないことを伝える。
ついでに同じ場所にいるヴィルヘルム達にも無事だと伝えてもらうことにした。
『勝てるのですよね?』
「全ての手札を使い切るどころか、更に増やす余裕がある程度には勝てるさ」
『……頭を貫かれたのを見た時は生きた心地はしませんでした』
「アレには驚いたよな。まぁ、今も風穴が空いてるんだけど。さて、準備が終わったから通信を切るぞ」
『はい。吉報を待っています』
「ああ。安心して待っていてくれ」
リーゼロッテとの通信を切ると、目の前に浮かぶ全ての素材を使用して【混源融合】を発動させた。
[対象を融合します]
[〈
黒い卵型の殻を破って現出した黒い長杖型の神杖を掴み取った。
表面に金色の蔦のように
「ガンバンテインか。名前的に【
賢神杖ガンバンテインを掲げると基本能力【魔導権源】を発動させた。
凡ゆる魔法関連事象に干渉できる力を使い、ユニークスキル【
[神器〈魔源災戦の賢神杖〉の【魔導権源】が発動されました]
[ユニークスキル【神魔権蒐星操典】のマジックスキル【◼️◼️◼️◼️】に干渉します]
[マジックスキル【◼️◼️◼️◼️】への干渉に成功しました]
[神器〈魔源災戦の賢神杖〉の使用時に限定してマジックスキル【◼️◼️◼️◼️】を行使可能です]
[マジックスキル【
ふむ。やはり予想通り
さて、どれを使うか……コレにするか。
「ーー『
使用可能になった魔法の中から大規模破壊系神域級召喚星魔法『七連星墜覇葬』を行使した。
総魔力量の四割を消費して発動された神域級の魔法により上空に一筋の線が入る。
両開きの扉のように開かれた
程なくして、星が光り輝く虚空から七つの隕石が姿を現す。
一つだけでも大きな都市を壊滅させられる質量の隕石が、青空と宇宙を隔てる不可視の境界線である壁を越えて此方側へと召喚されようとしている。
〈錬剣の魔王〉に質量攻撃が有効なのは既に実証済みだ。
これだけの質量攻撃の前では魔王と言えど耐えられまい。
戦場の外への転移については『
唯一の懸念事項は亜空間に退避することぐらいだが、それは今対策すればいいだけだ。
「『
現在いる世界からの生物の移動を禁じる戦略級魔法を行使し終えたタイミングで、七つの隕石の内の先頭の一つが境界線を越え、残る六つの隕石も続けて境界線を越えてきた。
「◼️◼️◼️◼️ーーーッ!!」
地上の方から〈錬剣の魔王〉本体の雄叫びが聞こえてきた。
残る左眼を向けた先では、頭部の一部が破損し青い単眼の光を曇らせた魔王本体が、周りの鋼色の大地を超巨大な魔剣へと造り変えて隕石に向けて射出しているところだった。
「まるで打ち上げロケットだな」
魔法事象に対する特効を持つ〈滅魔〉の力や、純粋な破壊能力を付加された超巨大魔剣が次々と打ち上がっていく。
残る魔王偽体やリビングアーマー達すらも超巨大魔剣の材料へと錬成していた。
先頭の隕石に超巨大魔剣が次々と突き刺さる度に隕石に亀裂が入っていき、間もなく先頭の隕石が破壊された。
【大賢者の星霊核】の超演算能力で七つの隕石全てを破壊するのに必要な超巨大魔剣の数と、必要な材料の量を計算した結果、隕石が一つ残るという微妙な答えが出た。
おそらく、一つだけでは期待した通りのダメージを与えることは出来ないだろう。
仕方ないので更にもう一つ神杖の能力を使用することにした。
「
賢神杖ガンバンテインの第二能力を発動させ、杖先の紫色の宝珠が黒い輝きを放ち、その黒い光が物質化して凡ゆるモノを滅ぼすことができる漆黒色の災刃を形成する。
まさに死神の鎌のようなカタチになったガンバンテインを、隕石に向かって飛翔している最中の超巨大魔剣の一つへと振るう。
超巨大魔剣まで距離がある上に災刃も届いていないが、【死ノ災厄神刃】はその効力を発揮した。
【死ノ災厄神刃】には純粋な攻撃能力以外にも、直撃させずとも対象に向かって振るうだけで相手と一定範囲内にいる同種を纏めて殺す能力がある。
長く存在するモノに対しては効果が薄い上に失敗する可能性が高くなるが、生成されたばかりで存在強度の脆い超巨大魔剣が相手ならば問題ない。
それを証明するように超巨大魔剣が世界から刈り取られ、同種である周りの他の超巨大魔剣も含めて全てが黒い粒子となって消滅した。
「◼️◼️◼️、◼️◼️ーーーッ!!」
「喧しい。圧し潰れろ」
憤る魔王本体の咆哮に対して中指を立てて返す。
次の瞬間、魔王本体を中心に六つの隕石が戦場へと連続して落下する。
これまでの戦闘の比ではない強さの音と衝撃波が結界内を蹂躙するように広がっていく。
迫るそれらを【氷毒死泉】の〈死〉のオーラを全身に纏うことで回避した。
「……まだ死なないとは。呆れるほどに頑丈だな」
『時界断空隔壁』の結界内を満たす粉塵で視界は最悪だが、【黄金運命】による道標と【
纏った〈死〉のオーラで宙を舞う粉塵や瓦礫を消滅させながら戦場を高速で飛行する。
途中、粉塵を斬り裂いて大量の銀剣が放たれてきたが、それらを全て回避しながら前進し続けた。
やがて、粉塵が晴れている空間に出た。
そこには、身体が半壊した魔王本体が魔王偽体の残骸などを使って銀剣を生み出している姿があった。
地中から飛び出して奇襲を仕掛けてきた最上位のリビングアーマー達を右手のガンバンテインの災刃で斬り捨てると、身体に纏う〈死〉のオーラを左手のエディステラの刀身にも纏わせた。
「◼️◼️◼️ーー」
「終わりだ」
魔王本体の静止の言葉の途中でエディステラを連続で振るう。
魔王本体の身体に幾つもの黒い斬撃痕が刻まれる。
身体を硬直させた魔王本体が、体内から強烈な光と魔力を発した後にバラバラに爆散した。
[スキル【適応鎧錬】を獲得しました]
[スキル【最上位魔剣顕現】を獲得しました]
[スキル【最上位魔鎧兵顕現】を獲得しました]
[スキル【変革の造り手】を獲得しました]
[スキル【祝福の土壌】を獲得しました]
[スキル【災厄の土壌】を獲得しました]
[スキル【創造の金槌】を獲得しました]
[スキル【創造の金床】を獲得しました]
[スキル【錬成の王】を獲得しました]
[スキル【
[スキル【権能因子:錬剣】を獲得しました]
[ユニークスキル【
[〈強欲/創造の勇者〉と〈錬剣の魔王〉による〈星戦〉が終了しました]
[勝者は〈強欲/創造の勇者〉です]
[勝利した〈強欲/創造の勇者〉には〈星域干渉権限〉が与えられます]
[勝利した〈強欲/創造の勇者〉には追加でアイテム〈魔王の
[アイテム〈魔王の宝鍵:錬剣〉を使って勝利報酬を選択してください]
[アイテム〈魔王の宝鍵:錬剣〉は〈強欲/創造の勇者〉に帰属します]
[アイテム〈魔王の宝鍵:錬剣〉は指定回数の勝利報酬を選択後に消滅します]
先ほど魔王本体から発せられた光と魔力が目の前に集まると、煌びやかな飾りが施された金色の鍵へと物質化した。
その鍵を手に取った瞬間、不思議と鍵の使い方が理解できた。
「ふむ。時間制限は無いようだし、コレについては後回しだな。今はコッチだ」
宝鍵を【無限宝庫】に収納すると、脳裏に浮かんだ〈星戦〉関連とは全く別の通知に意識を向けた。
[一定条件が達成されました]
[最上位権能による干渉が確認されました]
[ユニークスキル【
[対価を支払うことで新たな力を獲得可能です]
[【戦禍と祝福の巨人王】【血製秘薬】【万骨成形】【金属補正】【錬成の心得】【変革の造り手】【創造の金槌】【創造の金床】【錬成の王】【蠱毒の君主】【権能因子:錬剣】と大量の魔力を対価として支払い、権能【錬星神域】〈虚神の錬星工房〉を得ることができます]
[新たな力を獲得しますか?]
まさか〈権能〉まで【拝金蒐戯】で手に入るとはな。
まぁ、ユニークスキルが手に入るなら上位互換のような力である〈権能〉が手に入るのも当然なのかもしれない。
流石は我が〈強欲〉と称賛すべきか。
答えは当然イエスだ。
[同意が確認されました]
[対価を支払い新たな力を獲得します]
[権能【錬星神域】〈虚神の錬星工房〉を獲得しました]
[権能【錬星神域】〈虚神の錬星工房〉は神域の主に帰属します]
【魔力貯蔵】でストックしていた総魔力量十回分が自動的に消費された。
スキルと合わせてデカい出費だが、それだけの価値がある〈権能〉だ。
冠する力が〈錬剣〉ではなく〈錬星〉なのと、【錬星神域】の内容からして、通知にあった干渉してきた最上位権能というのは十中八九【
記憶が確かなら【造物主】が干渉してきたのは初めてのはずだ。
そんな【造物主】の【復元自在】を発動させて、失われた右眼と脳髄を元通りに復元した。
「さて。思ったよりも倒すのに時間が掛かったが、まぁ、手札を制限して戦うならこんなものか」
今回の〈錬剣の魔王〉との戦いによって、人目を気にしたやり方でも魔王を倒せると分かったのは重畳だな。
封印される前の情報や他の魔王の情報からの推測だが、復活後の〈錬剣の魔王〉の力は魔王の中でも上位だと思われる。
〈勇者〉を殺すなどの条件を経て〈大魔王〉に至った大魔王達には劣るが、あの汎用性の高い能力と対応力は普通の魔王の中でも随一の厄介さなのは間違いない。
逆に言えば、他の殆どの魔王達は〈錬剣の魔王〉より倒しやすいはずだ。
「……戦利品を考えると他の魔王を狩るのもアリだな」
〈錬剣〉のように封印されている二体を除けば、現存しているのはロンダルヴィア帝国南部の大森林にいる〈太母〉を含めて四体。
この四体と封印されている二体の情報について、もう少し詳しく調べてみないとな。
【
これから暫くは忙しくなりそうだと思いつつ、関係各所へ魔王に勝利したことを報告するために【意思伝達】を発動させるのだった。
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