第258話 八錬英雄第一席
◆◇◆◇◆◇
「ーー改めて観ると凄い軍勢だな」
ハンノス王国王都まで三日の距離にある広大な平原にて、皇帝軍は王国軍と邂逅し戦闘が行われていた。
王国軍とは言っても、その陣容は従来の王国兵達だけではなく、錬装剣より生み出された各種リビングアーマー系の魔物達によって構成された魔物の軍勢も加わっている。
この各種リビングアーマーだけでも皇帝軍に匹敵する数がおり、王国が雇った傭兵団と従来の王国軍を合わせると、その数は皇帝軍の倍以上の数があるだろう。
最初は九つあった錬装剣も残るは三つ。
九つに分割されて封印されていた〈錬剣の魔王〉の力も、今では三つに分けられて封印されているため、錬装剣一振りで扱える魔王の力は単純に考えても開戦前の約三倍にまで膨れ上がっている。
その分、錬装剣を扱う者の負担は増しているが、残る使い手は錬装剣抜きでも英雄級と言われている八錬英雄の第二席と第一席のみ。
開戦時は王太子だった第二席は、新ハンノス王として国王の証である特別な錬装剣と元々使っていた錬装剣の双剣使いーー元々双剣使いらしいーーになっている。
通常ならば二つの錬装剣による負担は凄まじいモノになるだろうが、どうやら国王専用の錬装剣には各錬装剣に封印された魔王の力の配分率を操作できる機能が付いているらしい。
急上昇した魔王の力に精神をやられた前ハンノス王とは違い、英雄級の力がある第二席は精神がやられる前にその機能を使用し、自らが扱えるラインまで上手く魔王の力を配分していた。
正確には、第一席の錬装剣に正常に割り振れる限界まで魔王の力を配分した残りなのだが、それでも半分近い量の魔王の力を扱えるあたりは流石は第二席と言うべきか。
そんな新ハンノス王である第二席と、八錬英雄筆頭である第一席もこの戦場に出てきていた。
ハンノス王国の王都はそこまで籠城戦向きの造りになっていないのも理由だが、時間を掛け過ぎて各地の攻略に向かった残りの帝国軍が、王都へと再結集する前に勝負を決めに来たのだと思われる。
必然的にこの戦場が此度の戦争の最終決戦の舞台ということになるはずだ。
「ま、何はともあれ魔王の力を頼ってくれて何よりだ。これで思う存分……とはいかないが勇者として力を振るえる」
それだけ王国に余裕がないことの証だと言えるが、そのおかげでこの戦場では俺も力を振るうことができる。
「【
上空から眼下の戦場を見据えながら【神煌天星の極光剣槍】を発動させる。
周囲に極光を鍛えて創造されたかのような剣槍ーー矛先の部分が剣身のようになっている長槍ーーが次々と顕現していく。
両軍の兵士達に見せ付けるように、花弁が開くように俺を中心に円状にブリューナクが展開する。
見方によっては光背のように見える状態で、その光背そのものである【
「ーー行け」
短い号令に従い、周囲から全てのブリューナクの姿が消える。
空中に幾つもの光のラインが疾った次の瞬間、地上のリビングアーマー達の身体に大穴が空いた。
目視で捉えるのが困難なレベルで空中を駆けるブリューナク達は、その一撃で終わることなくリビングアーマーの軍勢という名の海の中を縦横無尽に泳いでいく。
秒間で百にも迫る数のリビングアーマーをランク問わず討ち滅ぼしていく様は、中々に痛快だ。
このままならば、十分も経った頃には各種リビングアーマーによる軍は文字通り全滅していることだろう。
「やはり動くか」
【
この新たに増えた光点の全てがリビングアーマー種であり、新ハンノス王である第二席が生み出した増援の魔物達だ。
その中には、以前にも戦ったことがあるSランク相当の魔物である〈
このソードファミリアに匹敵する別のリビングアーマー種の反応もあり、これらのリビングアーマーも〈錬剣の魔王〉の眷属ポジションの魔物なのだろう。
「まぁ、魔物が相手なら遠慮する必要はないと許可を貰っている今の俺を前に無駄なことを……」
【星覇天冠】によって戦場で散った両軍の兵士達やリビングアーマー達から魔力を掻き集めると、その魔力を使って【
展開された術式陣を通過するようにして、追加で生み出したブリューナク達を解き放つ。
ただでさえ強力なブリューナクが強化されたことで、黄金の光の剣槍は一筋の虹色の光と化してソードファミリアをはじめとした各種Sランク相当のリビングアーマー達を貫いていった。
この一撃には、【
それらの効果を、被弾対象の防御と耐性効果を無効化しやすくする【防護貫通】と、被弾対象の生死に関わる事象を限定的に操作できるようになる【生殺与奪権】を使って最大限の効力を発揮できるようにした。
その結果、ただの一撃で眷属級である最上位のリビングアーマー達が討たれていった。
ギリギリで強化ブリューナクを避けたことで、致命傷に至らないダメージしか受けていなかった個体までもが、傷口から凄まじい速度で侵蝕してくる呪いによって身体を崩壊させていく。
大小のダメージに関わらず崩壊する最上位のリビングアーマー達の姿に動揺する王国本陣の様子を【
ダメージ量関係なく一撃でSランク相当の魔物を屠れるだけあって、多重強化状態のブリューナクの維持には膨大な量の魔力が消費され続けるからだ。
ここまでの強化ともなると、その威力と消費魔力量は【
グングニルはブリューナクとは異なり周囲への被害が出るなどの違いがあるが、今生で獲得したスキルのみで
[スキル【撃震剣斬】を獲得しました]
[スキル【不動鎧錬】を獲得しました]
[スキル【上位魔鎧兵顕現】を獲得しました]
[スキル【錬成の心得】を獲得しました]
[スキル【指揮の心得】を獲得しました]
多数のSランク相当の魔物を倒したこともあって新規スキルを手に入れた。
指揮官系のリビングアーマーがいたからか、リビングアーマー生成スキルを獲得できたのが地味に嬉しい。
「基礎レベルも一つ上がったし、良いこと尽くしだな。アンタもそう思うだろ?」
納刀状態から解放した〈
転移からの奇襲をしてきた第一席には悪いが、【世界ノ天眼】で王国本陣を監視していたから丸分かりだったんだよな。
「……」
「本気で王国に勝ち目があるとでも?」
「……ワタシは『王国を守る』剣ダ。剣はただ、主の望むガママに振るわレるのみ。ワタシは、王国の『敵を排除する』剣であル」
「なるほど。大したプロ意識だ」
理性を保ったまま扱える本当にギリギリのラインの魔王の力を錬装剣に宿した影響か、目の前に現れた第一席の皮膚は所々が鋼色に変色していた。
理性こそ保っているようだが、言動の抑揚が少々おかしいため肉体だけでなく精神の方にも影響が出ているのが見て取れる。
それでも尚、八錬英雄第一席としての矜持も護国の意思も揺らいでいないらしい。
〈強欲〉たる俺には共感できない類いの心構えだが、理解はできるので素直に感心した。
「……参ル!」
そう言葉を発した第一席が一瞬で距離を詰めて錬装剣を振るってきた。
その一撃を再びエディステラで防ぐが、先ほどとは違って耐えられず次は俺の方が弾き飛ばされてしまった。
転移で奇襲してきた時も身体強化スキルは使っていたようだが、その時は防ぐことができていた。
空中を駆けてきた際の勢いが斬撃に乗せられたのもあるだろうが、それだけではない気がする。
一番怪しいのは第一席が持つユニークスキルだろう。
加速した思考の中で【
「……なるほど。言葉、いや言霊による強化か」
状況的には事象強化というべきかな?
つい先程の第一席の発言を振り返るに、『王国を守る』と『敵を排除する』が怪しいな。
前者が王国を守る行動への強化補正で、後者が敵である俺に対する特効といったところだろうか?
俺の前で宣言することで〈敵〉という括りを俺一人に限定して効力を跳ね上げているのだろう。
まぁ、全ては現状からの予測だが、そう大きく外れてはいないはずだ。
「『ワタシは王国の守護者であル』。故に、『ワタシは必ず勝利する』のだ!」
更に言霊を使った強化を重ねがけしながら追撃を仕掛けてくる第一席を迎え討つべく、【英勇覇争】と【
エディステラの【世界ヲ解ク刃】も発動させ、言霊の力を分解できるか試してみることにした。
黒いオーラを纏わせたエディステラで錬装剣の斬撃を正面から受け止める。
お互いに強化を重ねがけしたが、次は吹き飛ばされなかった。
言葉という目に見えない力であるため判断がつかないが、多少は言霊の力に対して効果があるのだと思うこととしよう。
「『ワタシは勝利』し、敵であル『貴公は負ける』のだ。『無駄な抵抗は止メよ』」
ガクンっと力が抜けようとするのを、気合いと咄嗟に発動させた【武神の悟り】の対精神攻撃効果で耐え抜く。
どうやら言霊による干渉は状態異常攻撃扱いではない上に、耐性系スキルも素通りするようだ。
音を媒介にしている上に世界を通して命じているため、聴覚を潰したとしても防ぐことは出来ないだろう。
確かに
自分の手札の中から、この力に対抗できるであろう力の効果を確認しつつ、【武神の悟り】の対精神攻撃効果以外の強化効果も活用して第一席と剣戟を交わしていく。
この力ならば、魔王の力で強化された言霊にも通じるはずなので、そのまま一息に終わらせることにした。
「『攻撃は無駄だ』。『貴公の攻撃はワタシには通じナイ』!」
俺への弱体化の意味が込められた言霊が第一席から発せられる。
先ほどと似た現象が身に起こるのは明白だが、それを無視して全力でエディステラを振るった。
「ーーいいや、通じるとも」
振り抜かれたエディステラの刃が第一席の身体を通過する。
その斬撃の軌跡は、一目で致命傷だと分かるほどの、我ながら会心の一撃と誇れるものだった。
「ば、かな……」
真っ二つに両断された第一席の身体と錬装剣が地上に落ちていく。
弱体化されなければこんなものだろう。
視線をエディステラを振るった俺の両手に向けると、そこには先ほどまではなかった黄金の指環が全ての指に装着されていた。
これはユニークスキル【
この指環の効果は幾つかあるが、その内の一つが『全ての手の指に黄金の指環を顕現させている間は、自分より基礎レベルが十以上も下回る存在からの属性系・状態異常系・精神干渉系・環境系など凡ゆる攻撃を全て無効化する』という効果だった。
先ほど基礎レベルが上がったことで、第一席とのレベル差がちょうど十になったため条件を満たし、言霊による攻撃を無効化することができたわけだ。
言霊による全ての弱体化が強制解除されたことで、複数の身体強化系スキルも十全に効力を発揮した。
突然速さが跳ね上がった動きに第一席は反応することが出来ず、一撃で討たれたというわけだ。
[スキル【護国の防人】を獲得しました]
[ジョブスキル【
[ユニークスキル【
数は少ないが、どれも第一席らしいスキルだな。
「さて、第二席、いや新ハンノス王は耐えられるかな?」
王国本陣で急上昇していく魔力を観測しながら、【思考伝達】でヴィルヘルム達に連絡を取るのだった。
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