第257話 周りのユニークスキル事情



 ◆◇◆◇◆◇



 アークディア帝国皇帝であり帝国軍総大将であるヴィルヘルムは、帝都エルデアスからガーディディア要塞へと戻って間もなく、全軍に侵攻を再開するよう勅令を発した。

 過去に奪われた土地を取り戻す奪還戦を終えたアークディア帝国軍は、その報復とばかりに軍を三つに分けてハンノス王国の地へと侵攻を開始。


 一つは北のウリム連合王国方面へ、一つは海に面した南側を通って王国の東側の属国方面へ、最後のヴィルヘルムがいる皇帝軍はそのまま東へと主要都市と要塞を落としながら王都に向けて進んでいった。


 また、帝国軍の侵攻開始から程なくして、ハンノス王国の全ての属国が宗主国であるハンノス王国に対して反旗を翻した。

 その数日後には、ウリム連合王国を形成する五つの王国の内、ハンノス王国から最も遠い位置にあるアラダ王国が他の四ヵ国へと宣戦布告を行なった。

 アラダ王国のグリアム王は、自らがウリム帝国最後の皇帝の血を引くことを明かすとともに、ウリムの地の正統な支配者として、魔王に与した他の四ヵ国の王達を許すわけにはいかない旨の声明を国内外へ向けて発信した。

 更にその数日後、ハンノス王国の極一部の貴族達が王国の各地にて挙兵。

 彼らはハンノス王国の王族とアークディア帝国貴族の血を引くカウルを旗頭に、彼が率いる革命軍リベルタスの一員として各地で現王政に対する抵抗運動を始めた。


 立て続けに起こった騒動の殆どはアークディア帝国による仕込みだ。

 ある日の夕食の席でヴィルヘルム本人が言っていたので間違いないだろう。

 帝国が全く関わっていないのはアラダ王国によるウリム連合王国の内乱ぐらいで、リソースに余裕があれば干渉できたのだが、とヴィルヘルムが残念そうに言っていたのでアラダ王国周りの情報自体は把握していたようだ。


 そんなほぼ予定通りの混乱を引き起こした上で行われた侵攻戦は順調に推移した。

 ウリム連合王国方面に侵攻した北方軍はフォルモント公爵家が率いており、此度の戦争に参戦した全ての帝国の属国軍はここに割り振られている。

 南部を通ってハンノス王国東部に侵攻する東方軍はシェーンヴァルト公爵家が率いており、海に面した南部を通る都合上からネロテティス公爵家も東方軍に配属されていた。

 そして、ハンノス王国王都に向かって侵攻する皇帝軍は、アーベントロート侯爵家当主兼軍務卿のアドルフが総大将のヴィルヘルムの補佐に就いており、実質的な指揮はアドルフが執っている。

 俺が配属されているのは当然ながらこの皇帝軍だ。



「ふむ。この都市も抵抗が激しいな。まぁ、当然か」



 【深淵織り成す蜘蛛アトラクナクア】で指先から生み出した黒い深淵糸を、【空間転送】で手元に開けた空間連結穴でショートカットした上で王国兵の身体へと飛ばす。

 接続した王国兵の身体の動作に干渉し、帝国兵へと振り下ろしていた剣撃を外させる。

 そうして生まれた隙を突いた帝国兵の攻撃で王国兵が倒れたのを確認した後、繋げていた深淵糸を外した。


 ガーディディア要塞を出た皇帝軍が攻める要所は、この中規模都市で三つ目だ。

 ハンノス王国もこの一ヶ月黙って待っていたわけではなく、様子がおかしくなったハンノス王を隠居させて実権を握った八錬英雄の第二席でもある王太子の指示により、複数の傭兵団を雇っていた。

 王国が雇った各傭兵団は、どこも世間体よりも金が大事といった類いの傭兵団らしく、王国から見て北東に広がる中小国家群からやってきて早々、王国の各地に送り込まれていた。


 アークディア帝国がある地域では馴染みのない傭兵団だが、国同士のいざこざが多い中小国家群がある大陸中央部では需要があるため珍しくない存在だ。

 冒険者ほど数は多くないが、冒険者兼傭兵の者もいるため意外と数は多いらしい。

 そんな傭兵達の主な仕事は対人戦だ。

 そのため人間相手の戦いに慣れている彼らは、戦争ではそこらの兵士以上の力を発揮することも珍しくない。

 傭兵の中には凄腕の実力者もおり、この都市の防衛にもそんな傭兵が所属する傭兵団が派遣されていた。



「お、勝ったな。流石はアレクシア」



 視線の先には、帝国兵相手に無双していた凄腕の傭兵の首を刎ねたアレクシアの姿があった。

 傭兵が対人戦に秀でているなら、近衛騎士は護衛と対人戦のスペシャリストだ。

 そんなスペシャリスト達を率いる近衛騎士団団長であるアレクシアと相手の傭兵は、共に冒険者換算だとAランク冒険者ぐらいの実力がある。

 レベルも装備もそこまで差はなかったが、対人技術の質には差があったようで、ヴィルヘルムの指示によりアレクシアが送り込まれて間もなく勝敗が決していた。

 件の傭兵の頭部が地面に落ちたのを確認すると、少し前にこの傭兵を肉眼で目視した時に脳裏に浮かんできた通知を見返した。



[発動条件が満たされました]

[ユニークスキル【神魔権蒐星操典レメゲトン】の固有特性ユニークアビリティ〈魔権蒐集〉が発動します]

[対象の魔権を転写コピーします]

[ユニークスキル【獅子と破嵐の魔権ヴィネ】を獲得しました]

[対象の魔権はユニークスキル【神魔権蒐星操典】の【魔権顕現之書ゲーティア】へと保管されます]



 いやー、あの傭兵を雇ってくれた王国にはホント感謝だな。

 予期せぬ魔権系ユニークスキルの獲得に喜びつつ、【世界ノ天眼ワールドアイズ】で戦場を俯瞰する。

 戦場であるハンノス王国の中規模都市の外壁へと殺到する帝国兵達と、それを阻止しようとする王国兵。

 一ヶ月半前のグロール要塞戦の時の戦力があればすぐに都市を落とせていただろうが、戦端が開かれてから四時間が経った今も外壁の全てを占領できていないでいる。

 まぁ、三大公爵と麾下の騎士団がいないからこんなもんだろうな。



「お疲れ様、アレクシア。流石は近衛騎士団団長だな」


「ありがとうございます、リオン」



 戦場から戻ってきたアレクシアと言葉を交わす。

 周りの目はあるが声は届かない声量なので互いに名前呼びだ。



「リオンが貸してくださった例のレンタルスキルのおかげです」


「アレがなくても勝てたさ」


「否定はしませんが、ここまで早期に勝利を掴むことは出来ませんでしたよ。っと、すいません。陛下にご報告しなければなりませんので」


「ああ、そうだったな。なら早く行かないと」


「はい。報告が終わりましたら代わりますので、それまでお願いします」


「任せてくれ」


「ありがとうございます。それでは失礼します」



 ヴィルヘルムが待つ背後の指揮所へと向かうアレクシアを見送る。

 彼女が戻るまでヴィルヘルム達がいる指揮所前の警備を続けるとしよう。

 周りには他にも近衛騎士達が警備についているが、全員俺は勿論のことアレクシアよりも弱いので、彼女が離れている間の警備に不安が残る。

 そういう理由から臨時で俺が指揮所の警備責任を任されていた。



「ズィルバーン騎士団長が言ってたのって、テスターのアレのこと?」


「ああ。どうやら使ったみたいだ。今夜時間の都合が合えば、スキルの感想を聞くために夕食に誘おうかな」


「……本当に好きよね」



 共に警備についているマルギットの視線から逃げるように顔を逸らして反対側のシルヴィアを見ると、彼女からは救いようがないとでも言うように肩を竦められた。


 帝国軍を三つに分けて王国へと侵攻を始めるにあたり、低下するヴィルヘルム周りの戦力の補強も兼ねて近衛騎士団団長のアレクシアにレンタルスキルのテストを依頼した。

 勿論、ヴィルヘルムに話を通した上での依頼だ。

 彼女にテスターを依頼したレンタルスキルは、まだ一つも実装されていないユニークスキルを模したレンタルスキルである、擬似ユニークスキル群〈黄金十三星座トレデキム・アウルム〉の一つ【蟹座の権星コード・キャンサー】だ。

 剣士や騎士などに役立ちそうなスキル構成の擬似ユニークスキルとなっており、【剣王キング・オブ・セイバー】に至るレベルの剣士兼近衛騎士であるアレクシアには最適だと思いテストをしてもらっている。


 凄腕傭兵の首をアレクシアが刎ねる少し前の戦闘中。

 既に自前の身体強化スキルを使用していたアレクシアの身体能力が更に上がった時があった。

 おそらくこのタイミングで、全ての擬似ユニークスキルに実装予定の全能力強化系内包スキル【黄金の祝福ゴールド・ブレス】を使用したのだろう。

 帝国兵を助けたりしていたため常時観戦することは出来なかったが、その後に【断ち切る刃】【不屈防盾】【不朽浄刃】といった残りの内包スキルを使って一気に勝負を決めたといったところか。



「本当に私にもユニークスキルが目覚めるの?」



 擬似ユニークスキルとアレクシアについて考えていると、ジトっとした視線を向けていたマルギットがそんなことを聞いてきた。



「俺がマルギットを調べた限りではな。前にも言ったろ?」



 寝物語にベッドの上でな。



「一向に目覚めないんだけど……」


「ユニークスキルってそういうものだからな」


「リオンが言うと説得力が無いな」


「シルヴィアの言う通りよ」



 まぁ、大半は戦利品とはいえ、頻繁にユニークスキルを手に入れている俺が言ったら説得力皆無か。



「……ゴホン。そんなにユニークスキルが欲しいなら俺が目覚めさせてもいいんだが……」


「何か問題があるの?」


「俺との結びつきが色々と深いマルギットの場合だと、たぶんシルヴィアのユニークスキルみたいに俺の影響を受けて本来の形から変化する気がするんだよな。なんとなくだけど」



 マルギットとシルヴィアと出会ったきっかけでもあった、シルヴィアの試練系ユニークスキルの呪い。

 その非常に珍しいタイプのユニークスキルの呪いを力尽くで解決すべく、【強欲神皇マモン】の力でシルヴィアの精神世界に深く潜って障害を直接排除した。

 だが、その際に精神的に深く結びついたことで、呪いが解消されたシルヴィアのユニークスキルは俺の最上位ユニークスキルの影響を受けて本来のカタチから変化してしまった。

 シルヴィアの時とは事情も状況も違うが、【第六感】など各種スキルによる効果もあって、俺が目覚めさせたユニークスキルは俺のユニークスキルに関連したモノになるとほぼ確信している。

 下手したら本来の形すら分からないまま覚醒するかもしれない……まぁ、弱体化はしないだろうけど。

 そういった内容をマルギットに説明したところ、その返事はあっさりとしたものだった。



「別に構わないわよ」


「本来の自分の力のカタチが分からない可能性があるんだぞ?」


「別に気にしないわよ。それに……リオンの色に染まったスキルの方がいいし」



 最後の方は囁くような声量の呟きだったが、俺の【地獄耳】はしっかりと拾っていた。



「うわっ、狡いんだ……」



 この後マルギットを天幕に連れ込んで押し倒そうかと考えていたら、マルギットに対するシルヴィアのそんな言葉が聞こえてきて我に返った。

 今は仕事中だから、抱くのは少なくともこの都市の攻略が終わってからだな。



「……そういうことなら今夜にでも目覚めさせるか」



 マルギットから無言で頷きが返ってきたので力尽くの覚醒は確定か。

 これでまだ仲間内でユニークスキルを持っていないのはエリンだけだが、エリンもユニークスキルの才があるからそのうち目覚めるだろう……マルギットにしたのと同じ話を分身体経由でエリンにもしとくのが賢い選択なんだろうな。

 

 

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