第252話 黄金の魔女 後編
「ーーLUluaAAaa?」
エキドナには人語発生機能はないため言葉は通じないが、今は「お手並み拝見といこうか?」と操作している分身体が発言したところだ。
「ウリムの兵士達よ! 祖国のため、自らの限界を超えて敵を駆逐するのだッ!!」
ウリム連合王国の暗躍部隊〈護国の暗灯〉のリーダーがユニークスキル【
このスキルの効果は、簡単に言うと『使用者の宣言した内容によって強化出力と効果が変わる自軍強化能力』だ。
宣言の仕方次第では様々な強化が可能だが、この暗灯リーダーはウリム連合王国の兵士達の力を限界以上に引き出すために使っていた。
限界以上というだけあって強化出力は高いようだが、限界を超えて施された強化にリスクがないわけがない。
「うぉオおおォォー!!」
「ウリムのたメニぃぃーッ!!」
第二遠征軍の兵士達の様子が明らかにおかしいが、【栄光戦誓】と同じユニークスキルの内包スキルである【支配の理】【思考誘導】による支配下にある彼らは、自分達の身に起きた異常に気付くことなくエキドナに突撃していく。
「雷霆よッ!」
暗躍部隊の女性が放った雷光が、狂化された兵士達を追い越してエキドナへと着弾する。
その雷光は魔王素材である黒紫色の竜鱗を剥離させ、外皮を焼くほどの威力があった。
並みの攻撃では傷一つ付かないエキドナの肉体にダメージを与えたのは、雷光女が持つユニークスキル【
同じ内包スキル【貴き天使】と【雷光の支配者】によって強化された雷の純粋な攻撃力は、
思ったよりもダメージを受けたことに驚きつつもエキドナに次の行動を取らせる。
「シャッ!!」
この場に三人いる暗躍部隊最後の一人である赤い全身甲冑に身を包んだ小柄な男が、短く声を発しながら仕掛けてきた魔槍による攻撃を、エキドナは漆黒色の竜爪で受け止めた。
複数の魔法金属で作られたオリハルコン合金に、愛欲の魔王の魔力を浸透させた特別製の竜爪は、身体を覆う竜鱗や外皮以上の強度がある。
それなりに上質な魔槍のようだが、竜爪に勝るほどではない。
兵士達の目では霞んで見える速さで竜爪を振るうが、
僅かにでも傷が付けば傷口からエキドナの魔力が心身を蝕んでいくのだが、小柄男が持つユニークスキル【
完全に見切られているようだが、小柄男の攻撃もエキドナには通じない。
となれば、決定打を持つ雷光女が主軸となって攻撃を仕掛けるのだろう。
その予想を証明するように、小柄男と兵士達が前衛で戦う背後で雷光女が雷を放つという陣形が自然と出来上がっていた。
暗灯リーダーは全体の強化と指揮、兵士達の操作を担当しているようだ。
「まぁ、エキドナが負けることはないだろうが……念のため使っとくか。『
エキドナへと行使した二つの
エキドナの身を焼いていた雷は、身を包んだ青い光に触れた瞬間、その威力と勢いを大きく減衰させられ、今までのようにダメージを与えられなくなった。
そして、小柄男はこれまで打ち合えていた竜爪が赤い燐光を纏った直後に、攻撃を捌き切れなくなり魔槍ごと吹き飛ばされていた。
「何者だっ!」
流石に第三者がいることがバレたようで、小柄男が上空を見上げて誰何してきた。
姿を隠したままの魔法の連続行使で不可知状態が揺らいでいたせいだろう。
タイミング的にもちょうどいいので【隠神権能】を解除して姿を現した。
さて、演技を頑張るか。
「あら、やっと気付いたのね。ホント節穴だこと」
「なんーー」
「あの魔物は貴様の使い魔か!」
小柄男が言葉を続けようとすると横から暗灯リーダーが口を挟んできた。
まぁ、小柄男はエキドナの相手で忙しいから後衛である暗灯リーダーの方が適役か。
「私の使い魔かどうかなんて、そんなことが重要なのかしら?」
「使い魔ならば主人である貴様を倒せば、制御が外れてただの獣となるだろうが!」
「私を? アナタ達如きが? 笑えない冗談ね」
直後、地上から雷が放たれてきたが、椅子にしている〈
金色の障壁に触れた雷が霧散したことに驚いている暗躍部隊の面々を鼻で笑いつつ、新たな固有魔法を行使した。
「『
「「「Gura、Gura!!」」」
「分かったなら行きなさい」
「「「GurrraaAー!!」」」
周囲に現れた七つの黒い暴食球達は、表面に白い牙が生えた口を現して軽快に鳴いて了解の意を示す。
暴食球は雄叫びを上げながら地上に降下すると、近くの兵士達を捕食しながら暗躍部隊の三人へと接近していく。
「なんだコヤツらは!?」
「魔法で作った魔法生物の一種よ。可愛いでしょう?」
「チッ、なんと悍ましいモノを!」
悪態をつく暗灯リーダーが手を振るい、地面が隆起して土槍を形成すると暴食球達を貫いていった。
魔法陣も無かったから今のは彼が持つユニークスキルの内包スキル【環境支配】のようだ。
名称こそ違うが、現【星界の大君主】の【
「この可愛さが分からないなんて残念な老人ね。そんな残念な男にこの子達は倒せないわよ?」
「「「GeraGura、GeraGura!!」」」
土槍に貫かれていた暴食球達が同意するように笑うと、貫通部分に新たな口を生み出して身を貫く土槍を捕食して再び動き出した。
暴食球が食べている兵士ごと葬るために雷光女が放ってきた雷も、新たに生まれた口が呑み込んでいき無力化していく。
「くっ、やはり術者を倒すのが確実か。兵士達よ。紫の竜だけでなく、あの黒い球体の化け物の動きも止めるのだ!!」
エキドナと暴食球達と元々戦っていた兵士達だけでなく、上空にいる俺に向かって矢や魔法を放っていた兵士達も参戦していった。
俺の相手は暗躍部隊の三人がするらしい。
「物忘れが激しいのね。アナタ達じゃ相手にならないって言ったでしょう?」
「喧しいわッ! お前達はあの女を全力を以て殺すのだ!!」
どうやら他の二人へと【栄光戦誓】の強化を集中させたらしく、雷光女と小柄男から感じられる力が一気に膨れ上がった。
目や口端から血を流しながら攻撃を仕掛けてくる二人を見据えつつ、次の固有魔法を行使する。
「『
自分の顔から魅了の魔力が放たれ、
「ねぇ、私のために戦ってくれるかしら?」
「……勿論だ! 君のために敵と戦おう!!」
「まぁ、ありがとう。それじゃあ、あの雷使いの女を倒してくれる?」
「あ、ああ! この僕に任せてくれッ!!」
空中でピタリと動きを止めた小柄男へと声を掛けると、熱に浮かされたかのように雷光女と戦うことを承諾してくれた。
小柄男が雷光女へと攻撃を仕掛けに向かったが、雷光女のほうが基礎レベルは上だし装備もユニークスキルの格も上だから、実際のところ倒すのは厳しいだろう。
まぁ、固有魔法のモルモット役と足止め役を担ってくれさえすればいいので全然死んでくれて構わないんだけど。
「『
念のため身体能力強化の固有魔法も発動させると、あっさりと操られてしまった小柄男に悪態を吐いている暗灯リーダーとの距離を詰める。
強欲の戦杖に座ったまま空中を滑走すると、周りに固有魔法の魔法陣を展開した。
「『
周囲の黄金色の魔法陣から放たれた大量の先端が牙のような形状の青紫色の鎖が暗灯リーダーへと殺到する。
暗灯リーダーは風や重力を支配して自らの身体を飛翔させて鎖を避けるが、この鎖は自動追尾型なのでそう簡単には逃げられない。
「往生際が悪いわね。ほうら、追撃よ」
空中を逃げながら放たれてきた炎や光の属性攻撃を【絶魔の金輝盾】で防ぐと、ユニークスキル【
黒と白の二つの術式陣から、笛を持った目元を隠した天使と、全身に口を生やした非人型の悪魔が顕現する。
「〈
「◼️◼️◼️◼️◼️◼️ーーーッ!!」
「〈堕チヨ〉〈狂エ〉〈満チヨ〉〈腐レ〉〈惑エ〉〈閉ジヨ〉〈爆ゼヨ〉〈叫ケ〉〈痛メ〉ーー」
刑笛天使が、戦場に心身を侵す裁きのラッパの音が吹き鳴らす。
この程度の音響攻撃ならば【否弾の加護】で防げるため俺はノーダメージだが、俺以外の者達の反応は、口から大量の血を吐き出すか、その場に崩れ落ちて二度と動かなくなるかの二つに分かれた。
もう一方の獄韻悪魔は、全身の口から淡々と吐き出した様々な呪詛を暗躍部隊の三人へと贈り出した。
同格である刑笛天使のラッパ音にも反応することなく紡がれた呪詛は、獄韻悪魔の能力によって意志を持つかのような動きで三人の聴覚へと届けられる。
単発でならまだしも、裁きのラッパ音で心身にダメージを負ったところに連続して届けられた呪詛には、英雄級といえど対抗手段が整っていなければ耐えることはできない。
「ぎっ!?」
「がはっ!?」
「ぐぅっ!? 新手とは、卑怯者めッ!」
「非合法部隊なんて卑怯の代名詞みたいな部隊を率いているくせに戯言をほざくじゃない」
地上でもがき苦しむ二人と、地上に落ちてもなお悪態を吐く暗灯リーダーを変わらず見下ろす。
心身への深刻なダメージによって身動きが取れなくなった三人へと嫉妬の鎖が次々と突き刺さっていく。
鎖が突き刺さった三人の内、暗灯リーダーを除いた二人の体内を鎖が食い破っていき、やがて二人の身体をバラバラに引き裂いた。
[スキル【力戦奮闘】を獲得しました]
[ジョブスキル【
[ジョブスキル【
[ジョブスキル【
[ユニークスキル【雷霆と幻視の大天使】を獲得しました]
[保有スキルの
[ジョブスキル【
[ジョブスキル【
既にコピー済みの【戦争と看破の魔権】を獲得することはなかったが、まだ獲得していなかった【雷霆と幻視の大天使】はちゃんと獲得できた。
帝王権能級ユニークスキルなせいでキャパシティの空きはギリギリだな……ユニークスキルじゃなければ後十個ぐらいは入るか?
「アナタはまだよ。暗躍部隊のリーダーなら色々と知っているんでしょう?」
痛みに苦しみながらも、地を這って必死に逃げようとする暗灯のリーダーの後頭部を踏み付けると、足裏越しに【
記憶情報を奪い終えた後の暗灯リーダーの末路は、当然ながら先の二人と同じだ。
[ジョブスキル【
[ジョブスキル【
[ジョブスキル【
[ジョブスキル【
記憶情報を奪っている裏では、エキドナが全ての兵士達を殺し尽くしていたので、運用テストが済んだエキドナをさっさと元いた場所へと戻した。
【
「『
足元に黄金の魔法陣が展開されると、戦場にある様々な物質が魔力粒子と化して魔法陣へと吸収されていく。
非魔導具の武具と道具だけでなく、兵士達の死体や四散した血肉、様々な物資に資材の残骸の山など全てが魔法陣に蒐集される。
最後に刑笛天使と獄韻悪魔、暴食球達が魔力粒子となって吸収されると、黄金色の魔法陣が虹色に明滅しだした。
[スキル【聖禍の調べ】を獲得しました]
[スキル【悪威の告韻】を獲得しました]
天使と悪魔が死んだことにより獲得した新規のスキルを確認した後、脳裏に浮かぶ〈蒐獲可能物一覧表〉に目を通していく。
死体や残骸含め、自らが作り出すのに関わったモノを魔力粒子の形でエネルギー化した上で魔法陣に集め、その莫大なエネルギーを使って任意の物質を創造し、〈
「さて、どれにするか……」
既に持っている物もあれば、【星界の大君主】の【創生ノ星】でも創造できない初見の物もある。
暫し悩んだ末に獲得する物を選ぶと、手の上に目的の物が創造された。
創造を終えると足元の魔法陣は消え去り、周囲は暗幕の闇と静寂に包まれた。
「エキドナと〈黄金〉の固有魔法のテスト結果は……まぁ上々か」
前者はまだ未使用の機能が半分ほど残っているが、最低限の実戦テストができたので良しとしよう。
創造された蒐獲物を【無限宝庫】に収納すると、【復元自在】を使って荒れた大地を元の状態に戻し、戦闘があった痕跡を消し去っておいた。
「これで帝国軍もリベルタスも自分達の力だけで勝てるだろうし、暫くはのんびりできるかな?」
戦場に張っていた時間の結界と暗幕の空の魔法を解除する。
暗幕が完全に解除される前にグロール要塞近くの自分の天幕内へと転移すると、脳を休めるために寝る時間までゆっくりと過ごすのだった。
[スキルを融合します]
[【
[【身代わり】+【天翼翅絶】+【災獣の牙城】+【巨鎧戦殻】=【天鎧災翼の巨牙城郭】]
[【重装騎士の身のこなし】+【大族長の斧葬術】+【大悪魔の近接武器術】=【悪魔王の近接武術】]
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