第250話 帝国の戦力



 ◆◇◆◇◆◇



「ーー『星地の崩擁グランド・エンブレイス』」



 【神魔権蒐星操典レメゲトン】の【星刻召喚之魔書アルス・パウリナ】によって使用可能になった環境破壊系戦術級大地星魔法『星地の崩擁』が眼下のルヴェン要塞を崩壊させる。

 局地的に強い地震と生物には害となる魔力嵐に晒され、堅固な造りの要塞が倒壊していく。

 要塞内部の者達の気配が次々と消えていくのを【万能索敵ワイルド・レーダー】で感知しつつ、魔法強化のために使用した〈三天魔導宝杖トレス・ウィレス〉を再度構える。

 三天魔導宝杖を使わずとも同複製品から剥奪した【三天威・魔導増幅】を使えばいいのだが、これほどの破壊力は杖型迷宮秘宝アーティファクトである三天魔導宝杖の『一日三回のみ魔法を大幅に強化できる力』があってこそ、という認識を傍にいるアドルフに植え付けるためだ。



[保有スキルの熟練度レベルが規定値に達しました]

[ジョブスキル【高位槍術師ランス・ハイロード】がジョブスキル【槍王キング・オブ・ランサー】にランクアップしました]

[ジョブスキル【高位斧術師アクス・ハイロード】がジョブスキル【斧王キング・オブ・アクサー】にランクアップしました]

[ジョブスキル【高位盾術師シールド・ハイロード】がジョブスキル【盾王キング・オブ・シールダー】にランクアップしました]

[ジョブスキル【高位射手ハイシューター】がジョブスキル【大射手アーク・シューター】にランクアップしました]

[ジョブスキル【高位野伏ハイレンジャー】がジョブスキル【大野伏アーク・レンジャー】にランクアップしました]

[ジョブスキル【高位歩哨ハイセンチネル】がジョブスキル【大歩哨アーク・センチネル】にランクアップしました]



 【情報賢能ミーミル】による情報通知アナウンスが脳裏を過ぎる。

 ルヴェン要塞に駐留する数千にも及ぶ兵士達の数が数だけに、獲得した同名またはその下位といった既得ジョブスキルの熟練度が全て統合されてランクアップを果たした。

 軍人らしい数々のジョブスキルがランクアップしたが、新規スキルを獲得したという通知はなかった。

 まぁ、そんなもんだよな。



「『星天の火柱ヘブンズ・ピラー』」



 『星地の崩擁』の効果時間が終わったタイミングで概念系戦術級業炎星魔法『星天の火柱』を発動した。

 崩れ去った要塞の瓦礫や死体の一切合切を焼却する天まで届かんばかりの黄金の炎の柱が立ち昇る。

 『星地の崩擁』と同様に三天魔導宝杖によって戦術級から準戦略級にまで効果範囲が拡大された『星天の火柱』によって、そこに一つの要塞があったという痕跡が焼滅した。



「……流石は勇者、いや、この場合は賢者か?」



 『星地の崩擁』が終了したと同時に発動した【戦利品蒐集ハンティング・コレクター】が回収した要塞内の無事な金銀財宝を脳内で確認していると、すぐ後ろで一連の眺めていたアドルフが声を掛けてきた。

 アドルフや彼の護衛達も俺と同じく空を飛んでいる。

 彼らが空を飛ぶのに使っているのが自動継続発動タイプの魔導具マジックアイテムでなかったら、魔法の破壊力に驚くあまり制御を誤り地上に落下していたかもしれないな。



「確かに、この場合はどちらなんでしょうね。それはそうと、依頼はこれで終わりですか?」


「ああ。ルヴェン要塞の破壊は確認した。生存者は……言うまでもないか」


「転移で逃げた者もいなかったので全滅ですね。まぁ、襲撃前に要塞の外に出ていた者は別ですが」


「うむ。そこは仕方なかろう。今の魔法を使えばグロール要塞の攻略は容易いだろうな」


「ルヴェン要塞よりも要塞の規模は大きいですが些細なことです。お望みならば使いますが?」


「大敗を喫するようなら負けるよりはと頼むかもしれんが……ルヴェン要塞以上の依頼料になりそうだ」



 ルヴェン要塞殲滅の依頼料は結構な額の金銭を要求している。

 それでも、要塞攻略に必要な兵力や物資、攻略後の死傷者に掛かる費用などを考えれば非常にお手頃価格だ。



「少なくとも数倍はするでしょうね」


「ううむ、そうならんよう兵達には頑張って貰わんといかんな。では、そろそろ戻るとしようか」


「承知しました」



 アドルフと護衛達も対象に含めてから【転移無法】を発動させ、〈ブレイディア〉と名付けられた前線拠点都市へと転移した。



 ◆◇◆◇◆◇



 アークディア帝国がグロール要塞攻略の前線拠点都市〈ブレイディア〉を手に入れてから三日後。

 進軍を再開したその日のうちにグロール要塞に到着したアークディア帝国軍は、グロール要塞を陥落すべく攻城戦を開始した。



「進撃せよ!!」


「「「うおぉおおおー!!」」」



 アークディア皇帝であるヴィルヘルムの勅令を受けて、歩兵職である兵士達が雄叫びを上げながらグロール要塞へと前進を開始する。

 地上を征く兵士達の頭上を放射系攻撃魔法や矢弾、そして軍団魔法レギオンマジックによる大規模攻撃魔法が追い抜いていき、グロール要塞の上空に展開された障壁へと次々と着弾していく。

 ハンノス王国側も城壁の上の防衛設備を起動し、地上から接近する兵士達の迎撃を開始した。

 要塞への遠距離攻撃に対して広範囲に障壁を展開している間は、魔法同士の干渉や魔力リソースの都合で要塞から大規模攻撃魔法は飛んでこない。

 グロール要塞からの軍団魔法による大規模攻撃魔法は飛んでこなくても、城壁の上にいる王国兵からの遠距離攻撃は飛んでくるため、帝国兵達は全速力で城壁に向かって駆け続けている。



「もどかしいもんだ」


「リオンからすればそうよね。でも、これが普通の戦よ」


「そうみたいだな……」



 ヴィルヘルムがいる本陣の近くに待機はしているが、危険が迫らない限りは手を出さないことになっているため非常に暇だ。

 なので、簡易天幕の中で【無限宝庫】から取り出したソファに腰を下ろすと、上級魔法『遠隔空間投影リモート・プロジェクション』によって戦場の光景を眼前に表示し観戦していた。

 一応護衛役ということになっているマルギットとシルヴィアも、余人の目に触れない天幕内なので俺の両サイドに座っている。



「お、兵士達が城壁に取り付いたぞ」


「本番はここからだな」



 これまでとは違い王国側は迎撃に使える攻撃魔法が制限されるが、代わりに彼我の距離は近づいているので命中率は上がっている。

 帝国側にとっては被弾率が上がることになるため、帝国兵達の正念場はここからだというわけだ。



「流石に時間がかかるかしら」


「城壁の一部さえ取れれば、そこを橋頭堡にして攻めれるだろうが、どうだろうな?」



 そう答えてから、目の前の丸テーブルにある大皿の上の様々な魔物の肉を使った肉串の山から一本手に取った。

 未だ最高位に達していない生産職系ジョブスキル【高位料理人ハイコック】の熟練度上げのために適当に作った物だが、良い肉だからか結構美味い。

 手持ち無沙汰な状況だが、少なくとも口は寂しくならないだろう。


 今回のグロール要塞攻略戦において、ヴィルヘルムは自らのユニークスキル【豊穣なる嵐の戦主バアル】の内包スキル【気高き君主】を発動させていた。

 平時では魅力値の強化効果しかないが、戦場においては同一戦場にいる配下の兵士達の身体能力を強化する効果も発揮される。

 強化率は然程高くないが、開戦直前のヴィルヘルムの【鼓舞】の効果と合わさって兵士達の戦意は非常に高まっていた。

 ちなみに【鼓舞】のスキルはレンタルスキルであり、【武神の悟り】の融合素材に使った【軍神戦戯】の一部効果『味方の戦意高揚』を抜き出して作られている。

 少なくとも戦意に関しては十分なはずだ。



「あっ、叔父がいる」


「どこ?」


「ほらここ」


「公爵家当主なのによくやるよ」



 シルヴィアが指差す方には確かに彼女の叔父であるオルヴァ・アウロラ・シェーンヴァルトの姿があった。

 シェーンヴァルト公爵家の妖精騎士団を率いて城壁に突貫しており、オルヴァなど空を飛べる者達は要塞の近くまで接近すると、一気に城壁の上へと飛翔していた。

 他の者達は地面を隆起させて城壁の上まで繋がる道を形成し、その上を駆け抜けていっている。

 オルヴァや妖精騎士団の一部の騎士達の身体が淡く発光しているので、おそらく契約精霊の力を精霊紋を通して発現しているのだろう。

 一騎当千に相応しい力で攻め込んだ城壁上の一部を瞬く間に制圧してしまった。



「こっちにはフォルモント公がいるわね」


「大貴族が次々と最前線に出てくるとは……」


 

 風の上級精霊の風を纏わせた魔剣で城壁上の王国兵を薙ぎ払っているオルヴァから、マルギットが指差したところへと視線を移す。

 そこには、帝国東部国境の守護者である天翼人族のマキア・マルキス・フォルモント公爵が、麾下の戦翼騎士団と共に上空から城壁上の王国兵へと襲い掛かっている光景があった。

 フォルモント公は昨日まで着ていた蠱惑的なドレス姿から同色の細身の全身鎧へと姿を変えている。

 腰部から生える天使のような翼を羽ばたかせると、空中を縦横無尽に駆け回り対空攻撃の全てを華麗に避け、一気に接近しては手に持つハルバードを振るい王国兵を刈り取っていく。

 戦翼騎士団の同族の騎士達も、フォルモント公と同様の一撃離脱ヒットアンドアウェイ戦法を繰り返していき、着実に城壁上の王国兵の数を減らしていっている。

 それどころか、その機動力を活かして城壁上の防衛設備も次々と破壊していき、地上の兵士達の援護も行なっていた。



「これは、ネロテティス公か」



 画面の端の方に、城壁上へと水で構成された巨大な竜が突撃したのが見えた。

 『遠隔空間投影』の表示範囲外だったのでユニークスキル【妖星王眼グラムサイト】の【世界ノ天眼ワールドアイズ】で確認すると、そこには帝国南部沿岸の支配者である古竜人族のメーア・リヴァ・ネロテティス公爵の姿があった。

 ネロテティス公がいるのは最前線ではないが、要塞からの攻撃魔法が届かないほどの遠方から水の巨竜を突撃させて攻撃に参加しているようだ。

 いや、よく見ると先ほど城壁に突撃した水の巨竜の中からネロテティス公爵家麾下の蒼竜騎士団の騎士達が現れていた。

 どうやら攻撃と兵員の輸送を兼ねた水竜の特攻だったらしい。

 少数だがAランク冒険者に匹敵する猛者もいるようで、次々と城壁上の王国兵を排除している。

 それどころか蒼竜騎士団の一部の騎士達は城壁の門を開きに向かっていた。

 そこにネロテティス公による第二第三の水竜達が突撃してきた。

 要塞上空の障壁に邪魔されない低空を飛行してきているため、水竜の迎撃は城壁上の戦力で行うしかない。

 だが、水竜を構成する大質量の水を削り切ることはできず、成す術なく城壁への攻撃と兵員の増援を許していた。



「三大公爵と各々の騎士団の活躍で思ったよりも早く終わりそうね」


「血の気の多い人達だな」


「公爵達もリオンにだけは言われたくないと思うぞ」


「……」



 シルヴィアからの的確なツッコミに返す言葉が浮かばず、憂さ晴らしに彼女の口に肉串を突っ込んでおいた。

 そのままモグモグと肉を咀嚼するシルヴィアの頭を撫でると、【無限宝庫】から取り出した〈光揺蕩う天旬葡萄酒ルーヴェール・ワイン〉を呷りながら観戦を続けるのだった。





☆お知らせ

新たに『アポカリプスな時代はマイペースな俺に合っていたらしい』という現代ファンタジー系の作品を書き始めました。


ある日、突如としてモンスターが現れ、これまでの平和な日常が崩壊した世界が舞台です。

そんな終末世界を自称凡人の元社会人主人公が好きに生きる物語になります。

なお、レベルやスキル、ステータスといったモノはありませんが、似たような現象はあります。

内容もノリも更新時間も自由に書いていきますので、興味がありましたら是非ご覧くださいませ!




 

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