第237話 秘密研究所と混源融合
◆◇◆◇◆◇
「ーー大魔王の眷属が四体。大魔王の眷属が
「失礼シマス、
先日の大陸オークション会場での騒動で獲得した大魔王の眷属の死骸や肉片の数々に残る血と魔力を、そのオークションで落札した品の一つである魔剣〈
「どうした?」
「六番研究室ヨリ異常ガ発生シタト連絡ガアリマシタ」
「あー、六番か。分かった。すぐに向かう」
今いる中央研究室では、山のように積まれた死骸や肉片にアルヴドラを突き刺す作業をしつつ、【鉄血の君主】の【君主権限】でそれらから血液を回収し球体状にしていく作業も同時に行なっている。
そういった作業を中断すると、傍に浮遊している血液の大玉を今は白衣形態である神器〈
「うーむ、また暴走しているな」
移動する前に【
これは先代黒の魔塔主であるエスプリが秘密研究所に隠していた〈愛欲の魔王〉の肉片を回収し、それを密かに培養し復元を試みた個体だ。
権能【強欲神域】の異界にある固有領域〈強欲の神座〉の一画に作った研究所にて管理しているので、復元体に限らず此処での研究が直接的に現世を危険に晒すことはない。
「処分するのが勿体ないからと回収・復元をしてみたけど、やっぱりそのままの形で使うのは無理かな?」
愛欲の魔王の復元体は今回で三体目。
これまでの二体も制御術式や使役術式を受け付けずに暴走したので既に処分済みだ。
そのままの復元体だからか、倒してもスキルは手に入らないので現状では素材回収ぐらいしか利点がない。
「取り敢えず、アルヴドラに吸わせて、エディステラでアイテムを獲得できるかの確認だな……」
中央研究室から第六研究室までの道中にある他の研究室の状況確認がてら、転移を使わずに自分の足で走って移動する。
人工賢者の石製造施設も異常無し、自作機甲錬騎格納庫も異常無し、魔導兵装開発施設も異常無し、っと。
復元体の素材を使っていない各種人工賢者の石や自作機甲錬騎〈Azazel〉は当然ながら、一体目と二体目の復元体の素材を使って試作した生体魔導兵装〈魔王義体・
心配事が杞憂に終わったことに一安心しつつ六番研究室に足を踏み入れる。
「Khiyaaaaーー!!」
「うるさっ」
入室して早々に空間内に咆哮が響き渡る。
どうも目の前の個体も含めた復元体は、復元体とは言うものの復元できたのはあくまでも肉体だけであるためか理性が無い。
いや、正確には魔王の魂が無いと言うべきか。
必ず暴走するのもこの辺りが原因だろう。
だからと言って適当な魂を入れて肉体をそのまま利用しようとしてもエスプリみたいに精神(魂)を侵蝕されるのがオチだ。
試作兵装のエキドナほどに素材レベルにまで分解すれば大丈夫のようだから、復元体が無駄になることがないのが救いだな。
六番研究室のリーヴ達が拘束結界生成機を使って復元体を抑えているが、流石にそろそろ限界のようだ。
アルヴドラの素の攻撃力では復元体に刃が立たないので【
準備を済ませると右手に神刀エディステラ、左手に魔剣アルヴドラを携えてから復元体に斬り掛かっていった。
◆◇◆◇◆◇
[神器〈
[討伐対象から財物が
[アイテム〈魔王蛇の羽衣〉を獲得しました]
「ふむ。スキルは無理でもエディステラでアイテムはゲットできるのか」
復元体の死骸の上で通知履歴を確認するとアイテムを獲得していた。
しかも
魔王の復元体なら毎回伝説級のアイテムが手に入るのだろうか……また復元体を作って確認しないといけないな。
アルヴドラにも第三能力【王牙斬り】なる任意発動型の攻撃系能力が発現したし、さっきまでの突き刺し作業をこれ以上する必要はないだろう。
「コレの解体作業を頼む。素材はいつも通り保管庫に置いておくように。あと、またオリジナルの肉片から培養してコレと同じ復元体を製造しておいてくれ」
「カシコマリマシタ」
死骸の上から下りて近くにいたリーヴに今後の指示を出した。
指示を受けて動き出したリーヴ達を後目に、復元体によって壊された強化培養槽ーーエスプリの研究所にあった培養槽を元に改良した物ーーを【復元自在】で修復しておく。
この【復元自在】スキルを使えば愛欲の魔王の肉体を復元することができるのだが、即座に復元される代わりに莫大な量の魔力を要求される。
そのため、時間が掛かってでも強化培養槽で復元したほうが安上がりという事情があったりする。
さて、次は何をするか。
今のところ俺の秘密研究所〈
細々としたことはあるが、それらの大半は経過観察や結果待ちといった段階なので除外する。
「となると此処での研究以外か……」
近日中に視察を予定している商会関連施設へ今から向かうのはどうかと思うし、皇城へとアポ無しに商品を売り込みに行くのも駄目だよな。
前者はまだしも、後者も今の俺だったら許されそうだがデメリットのほうが大きいだろう。
よって、これらも除外だ。
今回の戦争における敵国であるハンノス王国関連の調査は、まだ情報を集めているところなので無闇に手を出すことができない。
微妙に空いた時間の使い方に悩みながら、なんとなく【無限宝庫】内のアイテムを脳内で確認していく。
「おっ。そういえばこんなのがあったな」
【無限宝庫】から手元に〈
大陸オークションで落札した伝説級の
二百億オウロで落札しておいて忘れるとか、我ながらどうかと思うが、暇つぶしに使えるので良しとしよう。
「さてさて。何かに使えそうだから手に入れたが、今なら使い道があるな」
今の俺ならば、以前から考えていたことを実現できそうだ。
一先ずリーヴ達の邪魔になるので中央研究室へと戻った。
まずは【
金塊や各種魔法鉱石などを用意すると、【魔女製作術】を発動させる。
称号〈黄金の魔女〉の〈欲望〉の力も付加されたことにより、七色の魔宝珠が嵌め込まれた砂時計型の黄金像〈
「これを元にアレとコレとソレと……」
強欲の宝像の周りに複数の魔導具と素材を配置していく。
最後に、指先から俺自身の血液を排出し、適当なサイズのガラスの器に入れて同じように配置する。
「うん。感覚的にはこれで大丈夫なはずだ……【混源融合】」
【混源の大君主】の【混源融合】を発動させると、強欲の宝像の足元の地面が黒く染まる。
そこから伸びてきた多数の黒い手のような触手が、強欲の宝像や周りのアイテムの数々に触れていく。
伸びてくる黒い手の数は増えていき、数秒の間に全てのアイテムを黒く染め上げて融け合うと、すぐに黒い卵のような結晶体へと変貌した。
黒い卵は形成されて間もなく罅割れ、その中身を現出させると同時に黒い魔力粒子と化して霧散してしまった。
[アイテムを融合します]
[〈
黒い卵の殻の消滅した後に現れたのは、周りに七つの黄金の環を浮かばせ、嵌め込まれた七色の魔宝珠が淡い光を放つ巨大な砂時計に似た形の金飾の漆黒像だった。
[偉業〈神ならざる身での神器創造〉を達成しました]
[ジョブスキル【
[神器〈貴貨罪貨の強欲の願宝器〉は創造者に帰属します]
おっと、まさかの神器とは……たった七グラムとはいえ
【混源融合】と同様の【混源の大君主】の内包スキルである【始原ノ泥】にて生成した同名物質〈始原ノ泥〉も使用したことにより、高い創造補正が得られたのも理由の一つだろう。
あとは、災聖杯と俺の血を素材に使ったのも大きな要因に……うん、つまりほぼ全部だな。
まぁ、一番の原因は【強化合成】の時よりも性能がグンと上がり、性能的にも別格である【混源融合】にて製作したことで間違いあるまい。
「ふむ。下位とはいえ、神器は神器。帰属特性は勿論のこと、不壊特性まであるみたいだな」
ペタペタとテザウルム・アヴァリティア、もとい強欲神像に触れて、そのツルリとした硬い質感と存在感を肌で感じとる。
帰属者として神器との霊的な繋がりが形成された瞬間に、強欲神像の仕様は把握することが出来ていた。
「狙い通りの仕様だな。さっそく試してみるか」
強欲神像の下部にあるコイン投入口に金貨を一枚投入する。
投入すると同時に、投入口から強欲神像の全身へと金色の光のラインが素早く走るエフェクトを目で追った後に、投入口の上方にある七つのボタンへと視線を向けた。
それぞれのボタンへと視線を向ける度に、そのボタンが何を意味しているかが脳裏へと浮かんでくる。
七つのボタンの内、最も左端にある〈武器〉のボタンを押す。
すると、砂時計型である強欲神像の上部にある七つの魔宝珠が華やかに点滅しだした。
派手な演出だが、なんとも
程なくして、コイン投入口の下方にある台座に光の粒子が集まっていき、アイテムが顕現した。
「
神器、または神域級アーティファクトの分類になるテザウルム・アヴァリティアこと強欲神像の機能は、簡単に言えば『財貨を対価にランダムでアイテムを創造(排出)する』というモノになる。
早い話が〈ガチャ〉である。
なお、この時に使用された財貨は自動的に【無限宝庫】へと送られる仕様だ。
お手軽に大衆から金を集める手段を構想していた際に、レンタルスキルとともに思い付いたのがコレだ。
前世の記憶からのアイディアだが、〈強欲〉という〈欲望〉に相応しい上に遊びも兼ねられるため、レンタルスキルと同じく資金獲得手段として最終候補に挙がっていた。
材料に使えるアイテムと想定する性能の生産系スキルが無かったため採用されなかったが、願望機の一種である災聖杯と【強化合成】の上位互換である【混源融合】の獲得によって実現に至った。
「惜しむらくは一台しか用意出来ないことか。どこに設置するべきか。母機と子機の関係みたいなモノが作れたらいいんだが……」
暇つぶしに実行し想定以上の成果となったが、代わりに悩みの種ができてしまった。
暫くは設置場所に悩まされることになりそうだ。
今回のアイテム案とは別にスキル案もあるのだが、そちらはまだ材料が不足しているので実行することはできない。
だが、アイテム案でこれならスキル案の方も今から期待できそうだ。
そのことを楽しみに思いつつ、設置場所を
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます