第233話 神刀エディステラ
◆◇◆◇◆◇
死の霧を遮っていた【
阻んでいた障壁が消え去ったことで流入してきた死の霧に向かって〈
迫り来る紫色の霧の壁を一筋の紫耀の斬撃が斬り裂く。
文字通り霧散した先には、大魔王〈獄炎の魔王〉の眷属であるメルキオルとカスパルの瞠目している姿があった。
「ムッ。嫌ナ気配デアルナ!」
目の前で起こった異変に対して、カスパルが長杖で地面を強く突いた。
直後に周囲に展開された多数の術式陣から魔物の軍勢が召喚される。
見知っている種もいれば初見の種もいる多種多様な魔物達だが、これらの種には毒を扱う能力を持つという共通項がある。
そんな様々な毒系魔物達が、それぞれの種族固有の毒性能力を行使しながら一斉に襲い掛かってきた。
毒魔の軍勢に対し、既に発動しているエディステラの基本能力【討葬神刃】に加えて第二能力【世界ヲ解ク刃】を発動させる。
濃紫色の刀身から漆黒色のオーラが陽炎のように立ち昇った。
漆黒色のオーラを纏わせたエディステラを魔物達へと振り抜くと、オーラは飛翔する斬撃波となって魔物達を斬り裂いていく。
凡ゆる種族に対する特効効果の付与と刃の鋭さを高める【討葬神刃】だけでも、大悪魔も含めた魔物達を倒すには十分すぎる攻撃力・破壊力を持つ。
そのため、【世界ヲ解ク刃】で発せられるオーラが齎す主な効果は攻撃性の強化ではない。
飛翔する漆黒色の斬撃波は召喚魔物達を斬り裂くが、その斬撃が通過した痕跡部分から、或いは斬撃に消滅させられた部位自体から黒い粒子が吹き出してきた。
黒い粒子の正体は魔力であり、【世界ヲ解ク刃】の漆黒色のオーラによって破壊・分解され、強制的に魔力粒子へと変換されたモノだ。
魔力というエネルギーの一種である黒い粒子は、そのまま消え去ることなくエディステラの刀身へと吸収されていく。
第四能力【界力吸収】の『世界に存在する凡ゆるエネルギーを吸収し帰属者に還元する』という効果によって、吸収した魔力は万能エネルギーへと一度変換された後に、俺の魔力の回復や体力の回復へと充てられる。
つまりは、【世界ヲ解ク刃】と【界力吸収】を併用することで継戦能力が一気に高められるというわけだ。
魔物といった生物やその辺の石ころなどの非生物だけでなく、世界に在る光や熱からもエネルギーを吸収することが可能なので、エディステラがあれば理論上はエネルギー切れが起こることはない。
未使用の第三能力も含めて神刀エディステラは神器に相応しい性能だが、ここまでが元々の神刀が有していた能力になる。
そして俺が所有者になり、更に神器としてランクアップしたことで新たに発現した第五能力は、他四つの能力とはかなり性質の異なるモノだった。
[神器〈財顕討葬の神刀〉の能力【財ヲ顕ス強欲ノ刃】が発動しました]
[討伐対象から財物が
[五百オウロを獲得しました]
[二百オウロを獲得しました]
[三百オウロを獲得しました]
[一千四百オウロを獲得しました]
[二万オウロを獲得しました]
[アイテム〈赤蛇の宝杖〉を獲得しました]
[七百オウロを獲得しました]
[アイテム〈毒魅悪魔の妙薬〉を獲得しました]
[八百オウロを獲得しました]
[三千二百オウロを獲得しました]
[アイテム〈天蒼晶の断罪衣〉を獲得しました]
[アイテム〈紅麗絶刀ルージェリア〉を獲得しました]
・
・
・
第五能力【財ヲ顕ス強欲ノ刃】は、『エディステラで倒した生物から、対象に由来する
顕在化という現象は、ダンジョン内で人型魔物を倒した際に稀に起こる現象だ。
そうして生まれた
神造迷宮や幻造迷宮といったダンジョン内かつ人型という一部の魔物でしか起こらない現象を、場所・種族問わず引き起こせる能力というわけだ。
「イカれた能力だな。だが、最高だッ」
召喚魔物が相手でもドロップするとは思わなかったが、能力名に〈強欲〉と付くだけはあると言える。
特にドロップする財貨の全てが、神造迷宮の宝箱からのみ入手でき、国際通貨としても使われる不朽の財貨たる迷宮硬貨だというのが地味に一番嬉しい点かもしれない。
唯一の難点は、【
何を手に入れたかは後で通知履歴で確認できるので、オフにしておくとしよう。
ドロップした財物は、【
おかげで戦闘に集中することができている。
【強欲神皇】の【戦利品蒐集】と神刀エディステラの【財ヲ顕ス強欲ノ刃】の組み合わせは、まさに前世のRPGにおける敵を倒すとアイテムや金が手に入るシステムとほぼ同じ仕様だと言えるだろう。
その能力を最大限活かすべく、召喚された毒系魔物達を一体も残さず刈り取っていく。
「来タレ、来タレ。契約ニ従イ、混沌ノ虚ヨリ我ガ元ヘ来タレ。汝ガ敵ハ我ノ敵、我ガ敵ハ汝ノ敵デアル」
カスパルが唱える召喚句によって、奴の頭上の空間に巨大な召喚陣が展開される。
召喚陣から現れたのは、タコみたいな上半身と蜘蛛のような下半身で構成された全身灰色の巨大な魔物だった。
此方に向けられたタコの八つの触腕の先に灰色の光が収束しているのを見据えながら、【神薙斬り】を発動させる。
相手がよく分からない種族であっても、【討葬神刃】はそこに存在するならば何であっても討つことが可能だ。
攻撃力と間合いを超強化する【神薙斬り】状態のエディステラを、巨大な召喚体に向かって神速の速さで十度以上振るう。
八つの触腕も、八つの脚も、常人が直視し続けたら正気を失ないそうな灰色の身体もバラバラに解体し、細かい肉片となった後も【世界ヲ解ク刃】でエネルギー体へと分解・無害化し、エディステラの刀身へと吸収する。
「へぇ、中々のエネルギー量だ。結構強かったんだなッ!!」
一息ついたタイミングでカスパルの杖の先から黒い光線が放たれてきた。
その一撃を未だ【神薙斬り】状態のエディステラで真正面から迎え討つ。
黒き光線と黒き斬撃の拮抗は一瞬のみ。
光線を斬り裂いた斬撃は、そのまま突き進み術者であるカスパルの右腕をも斬り落としていった。
右腕を失った痛みに顔を歪めるカスパルが地面を蹴って横に跳ぶと、その後方には口内に獄炎を収束しているメルキオルの姿があった。
どうやら今の今までブレスとして放つために獄炎をチャージしていたようだ。
「グォアアァッ!!」
メルキオルから黒紫色の獄炎が渦巻くブレスが放たれる。
先ほどのカスパルの光線とは比べ物にならない破壊力を秘めた一撃に対し、エディステラの第三能力【世界ヲ編ム刃】を発動させた。
「穿てーー【
メルキオルの獄炎ブレスへと向けたエディステラの切っ先から黒い燐光を纏った虹色の光線が放たれる。
オリジナルよりも巨大な直径十メートルの黒虹色の光撃が獄炎のブレスと衝突する。
【世界ヲ編ム刃】の効果は、『帰属者が所有する
しかもただ使用できるだけでなく、地力が伝説級以下のオリジナルよりも上の
アイテムの分類上の違いから、全ての伝説級以下のアイテムの能力を行使できるわけではないようだが、今回使用した星剣アルカティムの能力は問題なく使用することができた。
詳しい能力の検証は後日行うが、この能力も中々にぶっ飛んだ能力のようだ。
お互いに借り物の能力とはいえ、おそらくメルキオルの獄炎は
一方で、こちらの【星穿つ極災の虹光】は
なので、神域級の刀を
徐々に黒虹光撃が獄炎ブレスを押し退けていっていることから勝利は間違いない。
視界の端で片腕を失ったカスパルが攻撃を仕掛けようとしているのが見えた。
【複合魔眼】で強化した【
フラつくカスパルを横目に光撃を放ち続けていると、さすがに息切れなのかメルキオルのブレスが途絶えた。
隔てるモノが無くなった黒虹色の光撃は、そのままメルキオルの半身を消し飛ばしていった。
追撃を仕掛けるために駆け出そうとする俺の動きを邪魔するかのように、前方から獄炎の炎弾が大量に放たれてきた。
それらを避けながら進んでいると、幻惑状態から回復したらしきカスパルがメルキオルの元に向かっているのが見えた。
「使ウノデアル、メルキオル!」
「……手段ハ選ンデオレンカ。◼️◼️◼️」
メルキオルが何かを唱えるとともに身体から黒いモヤが漏れ出す。
その黒いモヤは近くまできていたカスパルの身体を包み込むと、逆再生のようにメルキオルの体内へと戻っていった。
「ヌゥ……久シイ感覚ダ」
肉体が急激に変化する生々しい音を立てながらメルキオルの存在感が増大していく。
カスパルを取り込んだことにより、腕や翼などの数が増え、腹部に乱杭歯の生え揃う口が形成され、体皮の色が黒から青へと染まったメルキオルの肉体も十メートルから十五メートルほどにまで巨大化している。
ベタな見た目の合体姿だが、その姿は伊達ではないらしく、力の具合を確かめるように振るわれたハルバードの一撃によって壁が崩壊し穴が空いていた。
オークション会場の外まで繋がるほどではないが、破壊を続けていけば外へと脱出するのは容易いだろう。
「早く倒したほうが良さそうだな」
神刀の力にテンションが上がっていたが、今はそれどころではないようだ。
カスパルと融合して強化されたメルキオルには悪いが、すぐに終わらせる。
「ーー【
少し前に倒した特殊
【世界ヲ解ク刃】による漆黒色のオーラとエディステラの刀身の間に銀色の光が追加された。
更に【天瞬歩法】と【剣神武闘】の
空間を越えたハルバードの一撃によって地面が破砕された音を背後に聞きつつ、メルキオルに迫る。
メルキオルの四つに増えた全ての手には、身体同様に巨大化したハルバードが握られていた。
一つを避けた後にも残り三つのハルバードによる空間を越えた攻撃が繰り出されてくるが、その全てが今の俺の速度に追いつけていない。
腹部の口から放射された獄炎の壁を斬り払い、そのまま上部右腕と下部右腕を刹那の内に振るった数十の斬撃で粉微塵にする。
「「ヴォアアアアァァーーッ!!」」
頭部と腹部の口から放たれた二重の咆哮を、振動している大気ごと斬り滅ぼす。
その斬撃の余波だけで、感覚的にオリハルコン以上の強度になっていたメルキオルの身体に深々と太刀筋が刻み込まれた。
直後、メルキオルの体内から滲み出る紅い光によって二つの右腕が一瞬で復元し、身体に刻まれた太刀筋が消え去った。
現象から察するに、カスパルとの融合とともに身体の奥へと取り込まれた災聖杯の力のようだ。
融合して治癒の対価として捧げる血の質でも上がったのか、先ほどまでよりも効力が上がっているように感じられる。
頭部へと距離を詰めて右腕同様に斬り滅ぼしてみたところ、目の前で瞬く間に頭部が復元された。
超至近距離からの噛みつき攻撃を避けながら首を刎ねる。
再び復元する頭部をまた刎ね飛ばし、俺を捕まえようと迫る四腕や獄炎を次々と斬り捨てながら、強化されたメルキオルを一気に倒し切る方法を模索する。
まぁ、考えるまでもないか。
「ーー【
服に隠れた身体の表面に電子回路のような黄金色の光の筋が浮かび上がったのを感じつつ、【世界ヲ編ム刃】にセットしていた【星穿つ極災の虹光】を別の能力へと変更し発動させた。
「幻葬剣現ーー〈
聖剣デュランダルの【
これまでに神刀エディステラで使用している各種強化能力と効果が被る部分もあるものの、これら全ての効果は互いの効果を損なうことなく発動し重複し合っている。
持てる斬撃強化能力の殆どを注ぎ込み、攻撃性能が極限にまで高められたエディステラを振るう。
紙を割くようにメルキオルの身体が両断されただけでなく、その斬撃は余波だけでアイリーンの力で守られているオークション会場の床や壁をも破壊していた。
申し分ない破壊力だが、このままだと攻撃を続けられないので、俺とメルキオルを隔離するように【神聖光星の防護領域】を発動させ、これ以上の会場の崩壊を防いだ。
最低限の準備を済ませると、光速に迫る神速の速さでメルキオルの周りを駆け回り斬撃を振るっていく。
メルキオルは身体を削られながらも獄炎や近接攻撃だけでなく、カスパルの毒や病などの能力までも空間移動と組み合わせて仕掛けてくるが、それら全ての攻撃が俺に当たることはない。
メルキオルが一度の攻撃行動をとる間に、俺は十数回の斬撃をメルキオルの身体に刻んでいる。
瞬時に身体を復元しようとも、俺にダメージを与えることが出来なくては意味がない。
身体の復元のために対価として災聖杯に捧げられる血液も有限だ。
身体を斬り裂いた際に飛散した血液だけでなく、露出した身体の断面から流れ出る血液へと【鉄血の君主】の【君主権限】で干渉し無理矢理引き摺り出すと、神器〈
攻撃を受ける度に急激に血液が減少していくことにメルキオルも気付き、更に攻撃が激しくなったが今の俺が被弾することはない。
【火眼金睛】で全ての攻撃を見切り、その倍以上の数の斬撃をメルキオルへと繰り出す。
そういったことを繰り返しているうちに、メルキオルも限界を迎えた。
「カッ、グハ、ハハッ。マサカ、敗レル、トハ、ナ……」
その言葉を最後にメルキオルの身体は復元されずに崩れ落ちる。
メルキオルが力尽きるまでに【神聖光星の防護領域】を三度張り直すことになったが、どうにか倒すことができた。
辺りに散乱する大量の肉片の総量は強化メルキオル何体分だろうか……。
「ん? 魂が見えな、チッ! まだか!?」
生命反応が消えたメルキオルの体内にある災聖杯がこれまで以上の光を放っている。
まだ復活するのかと身構えていると、突如として少し離れたところにある空間が縦に裂けた。
裂けた空間を補強するように細長い歪な形の
おそらくだが、敗北と同時にメルキオル自身とカスパルの魂が自動的に災聖杯に捧げられるようにしていたのだろう。
予想外の展開に悪態をつきつつ、二体の大魔王の眷属の魂を捧げたことで開かれた細長いゲートの奥へと視線を向ける。
そこでは、メルキオルとカスパルとは比較にならない存在感を放つ巨大なナニカの眼が、俺を真っ直ぐと見つめ返していた。
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