第225話 幻主
◆◇◆◇◆◇
カモ、ではなくカジノに通うのも今夜で三日目。
一日目の夜から十億オウロを稼いだのは良いものの、流石に二日続けて億単位のチップを稼ぐとカジノを出禁にされてしまいそうだったため、二日目である昨晩は自重して主にバカラで遊んでいた。
昨晩は自重していたーー勝率九割を自重と呼ぶかについては横に置いておくーーのと、今夜のカジノは一日目のカジノとは別の大規模カジノなので多少はしゃいでも構わないはずだ。
「リオンくんは今夜は何からするの?」
「最初はカードゲームをしようと思ってます。先輩は?」
「私はスロットからしようと思ってるわ」
「……俺が言うのもなんですが、ほどほどにしてくださいね」
「うん!」
「不安だ……」
「安心して。ちゃんと自重するから!」
キラキラした瞳で元気良く答えるセレナ。
俺が昨晩自重した理由の一つに、セレナの存在がある。
セレナが有する唯一のユニークスキルの名は【
その名の通り〈運命〉に干渉する能力を持つユニークスキルであり、戦闘ではその力を使った銃撃で
そんな普段の姿を見ていたため、ギャンブルという〈運〉が絡む場がどれほど彼女と相性が良いかをうっかり失念していた。
攻撃にしか使えない【
カジノから帰る際に一緒に帰っていたので、カジノ側も俺達が同じグループであることは把握済みだろう。
そのため、カジノが出禁にならないようにセレナ共々昨晩は自重したわけだ。
自重してなお、二人で約三千万オウロ稼いだことからは目を逸らす。
間を一日置いたから、今夜は億を稼いでカジノ側の反応を見てみるつもりだったが、ブラックリストに載らないように俺だけでも手加減しておくべきか……。
「大丈夫よ、ご主人様! セレナお姉様には私がついてるから! ちゃんと見張ってるわ」
「目の色を欲望一色に染めた奴が言うと不安しかないな」
目をドルマークにして、セレナをお姉様呼びしている
一日目のカジノで、カレンとシルヴィアはそれぞれに渡した軍資金のチップを全て溶かすぐらいには運が悪い、またはギャンブルの才能がないことが分かっている。
エリンとマルギットとユリアーネの運は普通より少し上ぐらいで、各々が軍資金の十万オウロを百万前後ぐらいにはしていた。
レティーツィアは更に少し上ぐらいで約三百万オウロを稼いでいる。
リーゼロッテは自らのユニークスキル【
つまり、俺とセレナを抜きにしても彼女達だけで二千万オウロ近くを稼いだことになるわけだ。
俺がカジノの運営側だったら、こんなグループは一日目でブラックリスト入りにしているだろうな。
「私が監視しておきます」
「頼むぞ、エリン」
「お任せください」
三日目の今夜は三つのグループに分かれて遊ぶ。
セレナ、カレン、エリンの歳が近いグループ。
マルギット、シルヴィアの親友グループ。
俺、リーゼロッテ、レティーツィア、ユリアーネの女の戦いグループといった組み分けだ。
ユリアーネはレティーツィアとセットだから良いとして、リーゼロッテとレティーツィアは互いに張り合った結果、二人して俺の方にくっついてきたのは明白だ。
そんな女の戦いな本音はさておき、二人はこの二日間でカジノは満喫したらしく、あとは見学するだけでいいとのこと。
他のグループは各々でまだ遊ぶようなので、一番稼ぐであろう俺についていくことにしたんだそうだ。
絶世の美女二人を伴った状態だと更に目立つだろうが……まぁ、彼女達の期待に応えて稼ぐとするか。
さて、まずはブラックジャックからだ。
◆◇◆◇◆◇
「レイズ」
「おおっ、ディーラーが勝負にでやがった!」
「あっちはどうするんだ?」
「ふむ……オールイン」
「「「おおおおぉぉ!!」」」
ポーカーの前に遊んだブラックジャックで稼いだ分と、ここまでポーカーで勝った分も合わせて全てのチップを賭けた。
「……よろしいのですね?」
「ああ」
「では、カードをオープンします」
対戦相手であるディーラーがカードを捲る。
このポーカーは、前世で言うところのフロップポーカーのテキサスホールデムというルールで行われている。
ディーラーは、テーブル上にある五枚のコミュニティカードの中にある二枚のキングのカードと一枚の四のカード、そして自分の手札にある一枚の四のカードによって、キングと四のツーペアが揃った。
対して、俺はコミュニティカード内の二枚のキングと、手札にある一枚のキングによってキングのスリーカードが揃っていた。
「俺の勝ちですね」
「……」
【
俺の手札にキングが来たことに関しては、各種幸運系スキルによって強化された運のおかげだ。
真っ青な顔で崩れ落ちたディーラーを無視して倍になった配当金を回収する。
えっと、大体五億オウロぐらいか。
「よくもまぁ、良いカードが来るものね」
「運も実力のうちと言うだろ?」
「では、その実力を次もここで発揮しますか?」
「うーん、そうだな……」
いろんな意味でガタガタ震えているディーラーを後目に、この後の行動について考える。
五億オウロも稼げば今日は十分だと言えるが、一日目同様にまだ時間があるんだよな。
『どうしたもんかな、アモラ』
『ピッピィ、ピッ!』
『もっと稼ごうだって?』
『ピッ。ピピィー、ピッピッピッ!』
『ママ達が喜ぶのは間違ってはいないが、それ以外に問題があってだな』
『ピィー?』
『……まぁ、どうにかなるか』
ペンダント内の異空間にいるアモラと【意思伝達】で話してこの後どうするかを決めた。
どうせカジノ側の反応に関しては早いか遅いかだろうから、今のうちに稼いでおくのがいいだろう。
その後、三人を引き連れてスロットコーナーに向かい、更に総額で五億オウロのジャックポットを叩き出したタイミングで、此方に近付いてくる反応があるのを【
スロット画面に肉眼を向けたまま【強欲なる識覚領域】を発動させて確認したところ、予想通り相手はカジノ側の人間だった。
赤い服を着た数人の美女ディーラーの中の一人が声を掛けてくる。
「お客様、お楽しみ中のところ失礼します」
「はい、どうかしましたか?」
変わらずスロットの画面を見たまま、赤い服を着た美女ディーラーに応える。
「お客様の類稀な幸運を祝しまして、当カジノのオーナーがお客様をおもてなししたいとのことです」
「それは光栄ですね」
美女ディーラーと話しながらもスロットのレバーを引く。
お、ジャックポットだ。
「……お、オーナーがお待ちですので、今から私共について来ていただけないでしょうか?」
「構いませんよ」
最後に五百万オウロを稼ぐと、引き攣った笑顔を浮かべる美女ディーラー達に大人しくついていく。
用があるのは俺だけのようなので、リーゼロッテ達は他の皆のところに行ってきていいと伝えたのだが、一緒についていくと言われた。
まぁ、彼女達がいいと言うなら構わないか。
「此方になります。少々お待ちください」
VIPルームがあるエリアを通り過ぎた先にあった一室の前で美女ディーラー達が立ち止まる。
入室の許可の確認を取る美女ディーラーの声を聞きながら、【万能索敵】と【
やはり物理的に近くに来てもマップ上の詳細情報欄には欠落が多く、名前と基礎レベルぐらいしかステータス情報は得られなかった。
代わりに【万能索敵】の方では、もう少しだけ対象の情報を得ることができたが、この差は単なる相性の良し悪しだと思われる。
入室許可が出て俺達四人だけが入室する。
豪奢な内装の室内では、リーゼロッテとレティーツィアに勝るとも劣らない美貌を持つ美女が俺達を待ち受けていた。
「ようこそ。ワタシが当カジノのオーナーであるアイリーン・エドラ・ハルシオンよ。先ずは座ってちょうだい」
簡潔に自己紹介をしたカジノのオーナーこと、エドラーン幻遊国の支配者である幻主アイリーンは、俺達に席を勧めた。
SSランクの超越者の一人であり、王権称号〈幻界王〉をはじめとした〈幻想の魔女〉〈夢幻の英雄〉といった各種称号を持つ彼女からは敵意は感じられない。
だが、彼女は
内包スキル名の看破が出来ないため、名称から効果を予想することもできないが、ユニークスキル名から能力の方向性は大体察しはつく。
まぁ、称号効果によって強化されているだろうから、方向性はあくまでも目安でしかないのだが、何も予想が付かないよりかはマシだろう。
艶魔族の進化先である天艶魔族なだけあって、妖艶な玉体と美貌を持っており、常人ならば容易く惑わされてしまうのは間違いない。
俺は絶世の美女を見慣れているため見惚れることはないが、詳細不明のユニークスキルという不確定要素があるのと、いざという時はリーゼロッテ達を守る必要もあるので、油断せずに会話に臨むとしよう。
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