第219話 クラン試験後の動き



 ◆◇◆◇◆◇



 ヴァルハラクランへの加入を目的としたクラン試験。

 その一次試験の翌日に行われた二次試験も無事に終わり、そこから更に二日が経った。

 最終試験である二次試験の面接試験でふるいにかけられ、ヴァルハラクランへの入団が決まったメンバーの数は、冒険者と荷物持ちポーターを合わせてちょうど百人。

 上はSランク、下はFランクまでの実行部隊である冒険者達が六十人。

 DランクからFランクの冒険者でもあるサポート部隊であるポーター達が四十人。

 二次試験の面接にて協調性皆無な者や礼儀知らずな者、粗暴すぎる者などの不適格者を弾いていった結果がこの人数だ。


 一次試験においてダンジョン踏破に挑み、実際にダンジョンを踏破できた者は六十人のうちの約半分。

 なお、その踏破した者達の約三分の一が双華クランの面々だ。

 二次試験の面接では、俺は面接官としては参加せずに別室でモニタリングしていた。

 クランマスターの俺の前では受験者達が良い顔をしようとするのは分かり切っているため、敢えてこのような形で面接を行なったわけだ。

 市中での噂や第四回探索の帰り道にて、双華クランの者達の人となりに関しては大体把握していたので、戦力面を抜きにしても彼女達が合格するのは当然だろう。

 そんな彼女達とは違って、面接官ーードラウプニル商会の幹部娘達に頼んだーーに対して色目を使ったり、威圧的な態度で恐喝したり、面接官達を精神系の魔法や能力で操ろうとした者達もいた。

 そういった者達は、面接官兼警備員として参加していたシルキーによって制圧されている。

 正確には、制圧したのは精神系魔法や能力を行使してきた者達だけで、そいつらは行政府に犯罪者として突き出してある。

 残りの色目や恐喝行為を働いて自分を合格させるよう迫ってきた者達は、シルキーから【威圧】を向けられて撃退されていた。


 小人な美少女という外見から甘く見ていたんだろうが、シルキー達はSランク冒険者相当の力を持つ。

 シルキー達は、六大精霊全員が創造に携わったことによって六大元素の属性権能が使えるだけでなく、俺の被造物という同じ立ち位置であるレンタルスキルの全てのスキルを無条件で行使できる。

 そんなシルキーにとってSランクにも満たない輩を制圧・屈服させることなど朝飯前だろう。

 ちなみに、人造精霊であるシルキーは他の普通の精霊達とは異なり、人と同じように飲食することも可能で、そこからエネルギーを獲得して魔力へと変換することができる。

 飲食機能は、俺の暴食系ユニークスキル【天地狩る暴食の覇王ワイルドハント】の内包スキル【万餐吸喰グラトニア】の術式を参考に構築している。

 効率的な魔力補給手段は他にあるため、この機能は思い付きで付加したオマケに近い機能だが、シルキー達も飲み食いするのは楽しそうなので良しとしよう。

 

 

「ーー基本的には団員ではない外部の者をクランの拠点に招くことは許可していない。だが、各々の部屋へ外部の者を招くことに関しては、このシルキー達に報告して彼女達から許可が得られれば許可しよう」



 シルキー達が備える数ある能力の中には、対象の真偽と悪意を判断する能力もある。

 ユニークスキル【救い裁く契約の熾天使メタトロン】の【審判の瞳】を基にした能力なので、悪意をもって団員に同伴し侵入しようとする部外者を見抜くことは容易なはずだ。



「ただし、その外部の者が招いた者の部屋以外の場所に侵入した時は、外部の者と招いた者の双方に罰を与える。ここまでで質問がある者は挙手してくれ」


「はい! どんな罰があるのでしょうか?」


「外部の者を招いた場合のことか?」


「はい、そうです」


「その外部の者が侵した内容次第だな。双方への厳重注意のみの軽い罰から、双方への罰金に加えてクラン追放までの重い罰を想定している。だから、部外者を招く場合はよく考えてから判断するように。この答えでいいか?」


「はい、ありがとうございます!」


「他にはないか?」



 屋内鍛練場の壇上から合格者達を見渡すが、他には誰も質問はないようだ。



「……無いようだな。あとで質問がある場合は、近くの職員やシルキー達にでも尋ねてくれ」



 職員はまだしも、ヴァルハラクランの拠点管理担当のシルキーは全部で十二体いるので、誰かしらは近くにいるだろう。



「最後に再度言っておくが、クランの居住施設に住むことを希望する者は、今日明日中にクラン施設内の事務所に届け出るように。明日の夕暮れを過ぎて夜になっても届け出ていない場合は、クラン拠点内への移住の意思が無いと判断し、クラン拠点の外から通ってもらうことになる。拠点外から通う場合は、間者対策や拠点に住まう者達の保安と安全の都合から、拠点に入る際には毎回検査を受けてもらうので時間が掛かる上に、拠点内の一部施設やサービスが受けられない。だから、移住をするか否かはよく考えてから決めるように」



 まぁ、現時点で九割方は移住希望の手続きを済ませているので、おそらくは全員が移住するだろう。

 Sランクであるメアとシアは持ち家があったが、俺謹製の最新家電家具タイプの魔導具マジックアイテムが揃えられたSランク冒険者専用の居住施設のほうが豪華だったので、あっさりと引っ越しを決断していた。

 二人が住んでいた家よりも、Aランク冒険者専用の居住施設のほうが豪華ーー金がかけられているという意味ーーなので、Aランクより上のSランク用の居住施設の充実度は推して知るべしだ。

 ドラウプニル商会の警備部門から派生した新設の迷宮部門の者達も、同じヴァルハラクランの拠点内で生活している。

 なので、警備部門から迷宮部門の責任者に異動になった商会所属であるSランク冒険者のフェインなどは、Aランク冒険者である奥さんと一緒に家族寮のワンフロアを丸々使ったSランク用の家に既に住んでいたりする。

 Sランク冒険者が同じ寮内に住んでいることを予め告知していたのも、クラン試験で所帯持ちの冒険者達が多かった一因でもある。

 


「本当なら俺が施設内を案内してやりたいところだが、クラン試験のことで皇帝陛下から帝都の城に喚び出されていてな。この後すぐに向こうへ移動しなければならない。だから、この後の案内などは、シルキー達と同様にクラン拠点の管理を住み込みで行う職員達に任せる。シルキー達も彼ら彼女らのサポートをするようにな」


「「「はーい!」」」



 周りで大人しく整列していた十二体のシルキー達が一斉に元気よく返事をする。

 自分で作っておいてなんだが、こんな美少女然とした精霊達が目の前の冒険者達の大半を蹂躙できる強さを持っているとは、普通は想像できないよな……。


 最後に新団員達に改めて歓迎の意を示してから屋内鍛練場を後にした。



 ◆◇◆◇◆◇



「ーーリオン・ノワール・エクスヴェル。皇帝陛下が御呼びと伺い、馳せ参じました」


「うむ。忙しい中、帝都までよく来てくれた。掛けてくれ」


「ありがとうございます」



 場所は皇城に数ある会議室の一つ。

 正装である黒の魔塔主のローブを羽織り、【礼儀作法】【親愛なる好感】【帝王魅威カリスマ】【百戦錬磨の交渉術】を発動させてから部屋に入ると、室内にいる全員から視線を向けられた。

 昨夜、ベッドの上で寝物語にオリヴィアが教えてくれたが、この部屋は皇城にある会議室の中でも超重要な案件を話し合う際に使われる部屋らしい。

 室内には皇帝であるヴィルヘルムと宰相以外にも一部の上級貴族達の当主達が列席している。

 彼らの中で関係が深いのは、軍務卿でありアーベントロート侯爵であるマルギットの父親アドルフと、西部貴族の君主とも言えるシェーンヴァルト公爵家の当主にして、オリヴィアの弟でシルヴィアの叔父であるオルヴァぐらいか。

 国の重鎮といえば、他には近衛騎士団団長のアレクシアと宮廷魔導師長のオリヴィア、そして冒険者ギルド帝都本部の長であるヴォルフガングもいる。

 アレクシアとヴォルフガングはまだしも、オリヴィアに関しては昨夜から今朝方までアルヴァアインの屋敷にいたので、久しぶりな感じは全くしない。

 昨夜は仕事終わりに今日の議題の詳細な内容を教えるためにわざわざアルヴァアインまで来てくれた。

 そのおかげで準備は万全である……一ヶ月前に関係が進展して以降、オリヴィアとは週の半分は夜を共にしている点については目を逸らすとしよう。

 


「今日喚んだのは他でもない。リオンがクラン試験にて生み出したダンジョンについてだ」



 クラン試験の受験者の中には、皇帝直下の諜報部隊に属する魔角族の女性もいた。

 他国などの諜報員などは不合格にしたが、彼女に関しては素の性格も悪くない上に、美人……試験用ダンジョンを踏破できる実力など、器量も良かったので合格にした。

 徹底的に情報を隠すのも良くない結果に繋がりそうだったし、他のクランメンバーやシルキー達といった周りの目があることもあって迎え入れた次第だ。

 彼女も一次試験後に情報を送っていたようなので、この展開は必然だと言える。

 


「そう仰られると思い、資料を用意して参りました。質問等に関しましては、この資料に目を通していただいた後に、答えられる範囲内にてお答え致します」



 【無限宝庫】から手元に出現させた人数分の資料の束を、ユニークスキル【移動と破壊の統魔権ラウム】の【物質転送】で各々の前へと転送した。

 オリヴィアからの情報と俺が独自に集めた情報によると、どうも俺に〈魔王〉の疑いが出ているらしい。

 馬鹿げた話ではあるが、神々と世界を除いてダンジョンを生成出来るのは、判明している限りでは魔王のみ。

 魔王とは簡単に言えば〈魔物の王〉なわけなので一見すると俺は当て嵌まらないのだが、〈亡国の魔王〉こと〈理想の勇者〉である元人間のアンデッドの〈大魔王〉という実例が存在しているため、俺が魔王という懸念を一笑に付すのが難しくなっているようだ。

 ただ、先日教会にて特殊徘徊主ワンダリングボス神の使影アンブラムアポストル〉を討伐したことを神々の名の元に祝われたことが、魔王ではないという証明にもなっていて事態をややこしくしているらしい。

 複雑ではあるが、事前にレンタルスキルやらシルキーやらの開発などもあったことで、魔王ではないと九割方思われているだけマシだろうな。


 そういった魔王疑惑を払拭するために用意したのが、この資料の束である。

 一部の名称や能力の詳細は隠しているが、グラズヘイムがユニークスキル由来であることも明かしている。

 グラズヘイムの情報からグラズヘイムのメリットへと興味が向くような資料の書き方をしたので、読み進めることによって一割未満の魔王疑惑は気にならなくなるはずだ。


 暫しの間、お偉方が資料を捲る音のみが室内に響く。

 やがて、全員が資料の最後まで目を通し終えると、ヴィルヘルムが代表して口を開いた。



「まず初めにリオンの口から直接聞かせてもらいたいが、この〈グラズヘイム〉という名のダンジョンの内部にいる魔物は、本当にダンジョンの外へと出てくることはないのだな?」


「はい。魔物達が自発的にダンジョンの外に出ることは勿論のこと、生きている魔物を拘束したり、転移魔法などで外へと無理矢理連れ出すこともできません。私の名前に誓って真実であると断言致します」


「ふむ、そうか。では、このダンジョン内部で出現する魔物の系統だが、資料にはリオン自身の経験によって変化すると書かれていたが、これについてもう少し詳しく説明してくれ」


「かしこまりました。私自身の経験とは、正確には私が魔物を倒した経験のことを指します。アンデッド種を多く倒したことによってアンデッドが、魔蟲種を多く倒したことによって魔蟲種が追加された形になります」


「なるほど。アンデッド種と魔蟲種に関しては、ギルドからの報告で知っているが、悪魔種も倒していたのか?」


「はい。アルヴァアインの神造迷宮にて倒しています」



 ヴィルヘルムがアークディア帝国にある全ての冒険者ギルドのトップであるヴォルフガングへと視線を向けると、ヴォルフガングが肯定するように頷いた。



「確かにアルヴァアインの神造迷宮には悪魔種も出現するのう。確か、中層じゃったか?」


「はい。中層の第二十八エリア帯の地底湖フィールドですね」


「おお、そうじゃったそうじゃった。あそこは寒さが厄介な場所だった。あの頃が懐かしいのう……」



 何やら昔を懐かしみだした様子のヴォルフガングを置いて、事実であることが確認とれたため、ヴィルヘルムが再び口を開く。



「では、この三種以外も出現させられるということだな?」


「詳細は省かせていただきますが、現時点でも他種の魔物も出現可能です」



 実際には、俺が自分のダンジョンで出現させられるのは、俺が保有する魔物顕現スキルで生成できる魔物だけだ。

 今の俺は、通常スキルだと【上位天使顕現】【上位アンデッド顕現】【悪魔顕現】【魔蟲顕現】の四つが、ユニークスキルでは【魔物災誕リ・アライブ】【眷属創造】【愛欲す災魔の顕現ラストメナス】の三つの内包スキルが該当する。

 少し特殊な【魔物災誕】を除くと、【眷属創造】ではゴーレム種が、【愛欲す災魔の顕現】では魔獣種、人型種、竜種がそれぞれのスキルで生成可能であり、俺のダンジョンでも同様に生成可能だ。



「この魔物を倒してもレベルは上がるのか?」


「私が調べた限りでは、地上の魔物や幻造迷宮の魔物、そして神造迷宮の魔物と変わりはないため、討伐によってレベルを上げることは可能かと思われます。また、素材に関しても違いは見受けられません」


「ほう……」



 資料に書かれているのと同じ内容を言っただけだが、直接当人から聞くのはやはり違うらしい。

 室内のお偉方の目の色が変わったのを感じ取ると、更に【懐柔】を追加発動させて彼らの〈強欲〉を刺激しつつ、今後のイニシアチブを握るために弁舌を振るい、力の限りを尽くしていった。



 

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