第207話 オティヌスとグリームニル
◆◇◆◇◆◇
ロンダルヴィア帝国の北に広がるグランズルム天狩国を、更に北に抜けた先にある人類未踏の氷の大地。
グランズルム天狩国の領土である平地に面した山脈の上空より、マグナアヴィスの断末魔の叫びが周囲の山々に響き渡る。
「ーー能力の使用制限さえなかったらこんなもんだよな」
地響きを立てて上空から山の斜面へと墜落してきたマグナアヴィスを
このマグナアヴィスはランスロットが倒した個体とは別の個体だ。
俺の背後にある巣の中にいたのだが、俺が近付くと迎撃のために巣から出てきた。ちなみに性別は雌だ。
急上昇して襲い掛かってきた雌のマグナアヴィスと入れ替わりに巣の前へと転移し、この位置から攻撃して今に至る。
雌のマグナアヴィスの心臓部には穴が空いており、先ほどまでマグナアヴィスがいた上空を覆っていた雲は、何かが通過したかのように霧散していた。
手を翳すと雌のマグナアヴィスを貫いた漆黒の槍が転移してくる。
久しぶりに【
グングニルを投擲した際に発生した衝撃波は、大気だけでなく周囲の山々に降り積もっていた氷雪をも震わせ、大規模な雪崩れを引き起こしている。
以前のグングニルではここまでの被害は出なかったはずなので、性能が向上しているのは間違いない。
まぁ、俺の身体能力が上がって投擲の勢いが増したことも一因だろうな。
[スキル【氷嵐暴雪域】を獲得しました]
[スキル【氷妃の抱擁】を獲得しました]
[スキル【殲刃剣翼】を獲得しました]
[スキル【有翼制御】を獲得しました]
[スキル【巣作り】を獲得しました]
新規スキルこそ雌のマグナアヴィスのものしか獲得していないが、経験値のほうは雪崩れに巻き込まれた魔物達からも獲得していた。
前回レベルアップしてから間もないためレベルが上がるのはまだ先だが、Sランク魔物である
「ま、メインはこっちなんだが」
グングニルの具現化を解除してから雌のマグナアヴィスの死骸を【無限宝庫】へ回収し、グングニルを投擲した際に脱げた隠密ローブのフードを深く被り直してから、背後にあるマグナアヴィスの巣の中へと入る。
一面を氷で覆われた巨大な洞窟を暫く歩くと、更に広大な空間へと出た。
上から雪と光が入ってくるのが見えたので視線を上へ向ける。
そこには今入ってきた洞窟と同様の作りの縦穴が空いていた。
山に作っているだけあって縦穴のほうが距離は長いようだから、迎撃に出てきた雌のマグナアヴィスは横穴である洞窟から出撃したのだろう。
「さて、目的のモノは……お、あったあった」
巣の更に奥に作られた寝所?らしき場所に一つの青白い卵が鎮座していた。
眷属ゴーレム達によってこのエリアのマップが解放された際に、巣の中にマグナアヴィスの卵がもう一つあることが分かっていた。
ランスロットは雄のマグナアヴィスとの戦闘後もアナスタシアの護衛の任があるため、オティヌスで回収に来たというわけだ。
マグナアヴィスの卵は一般的な成人男性ほどのサイズがあり、成体のマグナアヴィスのサイズを考えると、大きいような小さいような微妙なサイズだった。
「それでも、このサイズならグランズルムの連中も盗めるのは一個までだろうな」
一個だけとはいえ、どちらか一羽はマグナアヴィスがいたであろう巣の中からどうやって盗んだのやら。
【強欲王の支配手】で卵を浮かせて傍に移動させると、マグナアヴィスの羽毛などを使って作られた卵置き場も浮かせて横へと退かす。
すると、そこには眩いばかりの金銀財宝がぎっしりと敷き詰められていた。
【
上からは親のマグナアヴィスからの魔力を、下からは金銀財宝の中にある様々な
【
卵への魔力供給用に魔導具の類いがあるのは分かるのだが、そうではない財貨や財宝も大量に保管されている。
雄のマグナアヴィスから得た【高貴なる蒐集家】のスキル的にも、マグナアヴィスは金銀財宝といった光り物が大好きなようだ。
【星の叡智】には無かった情報だから、ここのマグナアヴィス達の個性か、或いは情報として開示するまでもない内容だからかもしれない。
「全部で総額いくらぐらいだ?」
マグナアヴィスの活動範囲は不明だが、財貨に表記されている国名からして、至るところから掻き集めたことが伺える。
グランズルム天狩国の者達が巣の場所などを知っていたのも、このあたりが理由なのだろう。
全ての金銀財宝を【無限宝庫】に納めると、卵を権能【強欲神域】の固有領域〈強欲の神座〉へと送った。
異界にある固有領域へ送り込んだのは、【無限宝庫】に有精卵は収納できないからだ。
予め強欲の神座内に卵専用の空間を作っておいたので安全は確保されている。
どのように育てるかは既に決めているが、大量の魔力を注いだりする必要があるので、卵が孵るまで暫く時間が掛かるだろう。
「もう一つの卵の方はグリームニルで回収するとして、オティヌスは探索に戻らせるか」
少し前に、グランズルム天狩国のエリアマップを解放させていた眷属ゴーレムの働きによって、マグナアヴィスの奪われたほうの卵の行方が判明した。
現地へは暗躍用の分身体であるグリームニルを向かわせるとしよう。
◆◇◆◇◆◇
グランズルム天狩国は狩猟採集社会ではあるが、そんな彼らも平原に城郭都市という強固な拠点を築いている。
この城郭都市は部族の数だけ存在しており、マグナアヴィスの卵が運び込まれたのはとある部族が治める都市だった。
そんな都市の中心部にある一際大きな屋敷は、大魔導によって張られた結界に覆われている。
正面入り口以外から入ろうとすると館内に警報が鳴る機能と、転移阻害機能をもつ複合型の結界だ。
【亜空の君主】の【君主権限】で結界に干渉し、警報機能を無力化してから塀を飛び越えて敷地内に侵入した。
【隠神権能】を使えば簡単に用を済ませられるのだが、隠密技能の地力を鍛える絶好の機会なので、卵がある場所まではこっそりと移動する。
息を止め、音を立てず、気配を希薄化し、感情を無にし、機械の如く正確無比の動きで潜伏しながら、屋敷内の厳重な警備を潜り抜けていく。
[経験値が規定値に達しました]
[スキル【隠密の心得】を習得しました]
なんだか今さらな内容の心得スキルを習得したが、それだけ
【
やがて、卵が安置されている部屋の近くに辿り着いた。
ここまでは誰にも見つからずに来れたが、ここから先はそうもいかないだろう。
部屋の周辺には十数人のワイルドエルフ達が警戒にあたっており、互いが視界に入る位置に立っているため一人ずつ気付かれないように処理することは不可能だ。
つまりは、全員同時に処理する必要がある。
物陰から姿を曝け出すと一度だけ
その場にいた全員が手を打つ音に反応して反射的に顔を此方に向けてくる。
姿を現すと同時に両眼を【
「侵にーー」
おそらく「侵入者」と叫びたかったのだろうが、言い切る前に警戒にあたっていたワイルドエルフ全員が絶命した。
床に身体が崩れ落ちて物音を立てる直前に【
魔眼を解除してから卵がある部屋の扉の取っ手に手を掛ける。
「……」
一気に扉を開け放つと、部屋の奥から短剣が飛来してきた。
短剣を投げ放ってきたのはここの族長である女ワイルドエルフだ。
ランスロットが倒した族長は別の部族の長であり、アナスタシアから聞いた二つの部族の関係性からして弱味かなんかを探りに来ていたのだろう。
短剣の刃を指で挟んで止めると、素早く持ち替えて女性族長へと投げ返す。
「くっ、がぼっ!?」
投げ返した短剣を女性族長が別の短剣で弾いた瞬間、彼女の背後へと【亜空の君主】の【転移無法】で転移して【無限宝庫】から取り出した適当な短剣で咽喉を貫いた。
咽喉を貫かれた状態で暴れる女性族長を羽交締めにしつつ視線を部屋の隅に向けると、そこにはマグナアヴィスの卵があった。
追加で【魔装具具現化】で強力な麻痺効果を持つ短剣型魔剣を具現化させ、女性族長の肩に突き刺して大人しくさせる。
女性族長が動きを止めた隙に卵へと近付いて手を翳し、もう一個の卵と同じ様に強欲の神座内の卵専用空間へと送った。
「これでよし。さて、オマケを貰おうか」
「ぐぼっ、が、ガッああ、あっ!?」
女性族長の頭部を鷲掴みにして【
これでグランズルム天狩国の情報が手に入った。
族長の一人だから有する情報には重要なモノも多い。
記憶情報を奪い尽くすまでの間に、彼女が所持している魔導具や金品の類いを【悪辣器用な手癖】で剥ぎ取っていく。
数秒ほどで作業を終わらせると咽喉に刺さった短剣を引き抜いた。
この状態でもまだ生きていたが、痺れている身体をどうにか動かして魔法を行使しようとしてきたので、手を振るって首を折ってトドメを刺す。
[スキル【調教の心得】を獲得しました]
[スキル【感応調教】を獲得しました]
[ジョブスキル【
[特殊条件〈魔女取得〉〈尽きぬ欲望〉などが達成されました]
[称号〈黄金の魔女〉を取得しました]
[特殊条件〈魔女取得〉〈製作技能取得〉などが達成されました]
[スキル【
新規スキルが手に入ったのは予想通りだが、予想外な称号を手に入れてしまった。
「……スキルで女性に成れるから、か?」
【
リーゼロッテから【魔女】を借りてみた時は何も起こらなかったから、一時的な取得は条件に当てはまらないらしい。
ふむ……どうやら生来の性別である男性の時でも、称号持ちの魔女のみの魔法であり、各々の称号に因んだ魔法である〈
この女性族長は国内唯一の【魔女】持ちであり、族長兼大魔導という肩書きを持ってはいたが、称号持ちの魔女ではなかった。
何かしらの称号を冠していたら多少手強かったかもしれない。
「〈黄金〉の魔法は後で確かめるとして、他にも何かないかな?」
気を取り直して室内を漁っていると、謎の集団が敷地内に侵入してきたのを感知した。
マップを開いてマップ上の詳細情報を確認したところ、謎の集団を構成する種族はワイルドエルフではない上に、所属する勢力もグランズルム天狩国ではなかった。
なんとなくだが、ランスロットとマグナアヴィスの戦いを監視していた勢力の者達のような気がする。
国家間の距離と移動や準備に費やす時間からして、監視していたことと現在進行していることは無関係だと思われる。
侵入してきた集団の目的地は族長室のようだし、女性族長の部族がマグナアヴィスの卵の強奪に動いた時から横取りする気だったのだろう。
敢えて出迎えるのも一興かとも思ったが、本体のほうが忙しくなりそうなので、余計な思考で本体に負担をかけないためにも大人しく退散するとしよう。
族長室がある階に侵入者達が到達するまで室内を物色すると、女性族長の死体を室内に残したまま【転移無法】でその場を後にした。
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