第197話 クラン試験



 ◆◇◆◇◆◇



「ーー皆様、おかえりなさいませ」


「ただいま、フィーア。屋敷の外は凄い人だかりみたいだな?」



 帝都の屋敷からアルヴァアインの屋敷へと転移すると、転移用に使っている部屋の前の廊下にて、メイドのフィーアから出迎えを受けた。

 代表してフィーアに返事をしつつ、屋敷の外から聞こえてくる喧騒から察した人の集まりについて尋ねる。



「さすがに夜間はいませんが、大抽選会以降、日が上がっている間はずっとこの状態です」



 窓際へと移動すると、外から見えない角度から屋敷の外をそっと覗き見る。

 アルヴァアインの屋敷の敷地の出入り口にあたる門の外には、大勢の人が集まっていた。

 門の前にはドラウプニル商会の警備部門に属する警備員と、屋敷付きの警備ゴーレムがいるため敷地内に入ってくることは無いが、彼らの声は敷地内へと入ってきている。

 そんなガヤガヤとした彼らの声を拾ったところ、彼らの大半は現役の冒険者だということが分かった。

 彼らが屋敷の外に集まっているのは、俺がクランマスターを務めるヴァルハラクランへと加入したいからのようだ。



「スキルレンタル業の発表以降ということか。レンタルスキルを作った俺のクランなら、クランメンバーには何かしら特別な恩恵があると思ったのかな?」


「そんなところのようです。市場に買い出しに行く者達もよく尋ねられています」


「何を聞かれているんだ?」


「クランメンバーの募集の有無とスキルレンタル業のサービス開始日についてが多いですね。あとは、ご主人様がこちらに戻ってくる日やクランの内情を探る質問ぐらいですね。ただの屋敷の使用人に聞くような内容ではないのと、商会のほうでも似たような状態らしいので、関係者に手当たり次第に聞いてまわっているようです」


「なるほど。まぁ、大体は予想通りの状況か。でも、早めに決めて発表したほうが良さそうだな」


「それがよろしいかと思われます」



 スキルレンタル業のサービス開始日についてもそうだが、ヴァルハラクランのメンバー募集についても後回しにしてきた。

 後者はまだしも、前者はまだサービスの発表から一週間ほどしか経っていないが、その世間への影響力の大きさは、少し考えれば分かるほどに明らかだろう。

 それでも正式な発表について後回しにしていたのは、人々を焦らす目的もあったが、一番の理由は忙しかったからだ。

 帝国との折衝然り、商会の他の仕事然り、セジウムの魔塔関連然り、急ぎではない事柄を後回しにするほどに最近は特に忙しかった。

 他にも分身体を使って色々やっていたし、今の超人的な身体と精神が無ければ今頃は過労死していたかもしれない。

 クランメンバーの募集についても優先事項ではなかったから後回しにしていたのだが、スキルレンタル業の影響によってそうもいかない状況になってしまったようだ。



「クランの建物は土地は確保済みだからいつでも建てられるとして、メンバーの募集か……」


「商会に迷宮部門を新設すると言ってましたが、必要なのですか?」



 フィーアとの会話を黙って聞いていたリーゼロッテが疑問を呈してきた。

 ドラウプニル商会や傘下の組織で取り扱う商材を確保する目的で新設する予定の迷宮部門だが、その業務内容は冒険者クランと結構被っている。

 大雑把に言えば、ダンジョンで素材を確保するのが、商会のためかクランのためかの違いぐらいだろうか。

 いや、ダンジョンで何かしらの偉業を求めるクランと、実益を求める商会という違いもあるかもしれない。

 それですら両立しようと思えば両立できる内容なので、リーゼロッテが言うようにこれ以上にクランのメンバーが必要かを疑問に思うのは当然だろう。



「それぞれで人手は欲しいからな。あと、商会の迷宮部門は商会のことを優先してもらう必要があるのは分かるだろう?」


「まぁ、そうでしょうね」


「だが、そっちのほうのみで人を集めようにも、迷宮都市という土地柄からして集まりにくいと考えられる。だから、ヴァルハラクランのほうでクランメンバーを募集して人を増やして、商会からの依頼という形で迷宮部門と同じことをさせるつもりだ」


「……それならクランだけで良いのでは?」


「俺もそう思うが、クランってのは冒険者ギルドから正式に認可を受けた組織だ。つまりは、指名依頼などで少なからず冒険者ギルドからの干渉を受ける可能性があるということになる。クランだけでなく商会の迷宮部門にも属しているなら言い分ができるんだが、クランのみだとそうはいかない。特に、ドラウプニル商会所属というカタチで他国から帝国に属することになったSランク冒険者のフェインや、元冒険者から現役に復帰して商会所属になった高位冒険者達という戦力を手放すことに繋がりかねないから、迷宮部門は迷宮部門で必要というわけだ」


「今さら国やギルドがリオンの不興を買うようなことをするとは思えませんが、用心するに越したことはないでしょうね」



 リーゼロッテだけでなく他の仲間達も俺の説明に一応納得してくれたようだ。

 こうやって予防線を張っておけば、余計なトラブルは回避できるからな。



「ということは、人材のメインは迷宮部門のほうで、クランのほうはついでですか?」


「そういうわけじゃないが、まぁ、あくまでも冒険者として活動したい独り身や育成枠の人材をクランに置いて、家庭があるから安全かつ安定して稼ぎたい冒険者や、商会所属を気にしない冒険者は迷宮部門にも籍を置くってのが理想かな。さっきも言ったが、商会からの依頼という形でクランメンバーにも迷宮部門と同じ業務をやらせていけば、商会所属を快諾する者も徐々に増えていくはずだ」


「そういう方針ならば結構人が集まりそうですね」



 話が一区切りついたタイミングで一度解散して各々の自室へと向かい荷解きをした後、二階の共用スペースであるリビングに集まった。



「クランの方針は分かったけど、具体的にはどうやって選抜するの? あの様子だと、面接したら途轍もない数になりそうよ」



 全員が集まると、マルギットが開口一番にクランメンバーの選抜方法について尋ねてきた。



「選抜方法か……元々は面接を考えてたけど、マルギットが言うように人数が凄いことになりそうだよな」


「誰かに任せるっていうのもアリだけど、少なからず他所の勢力の手が入ってくるでしょうね」


「そうなんだよな。だからこそ後回しにしていたんだが、そうもいかないようだし……」



 クラン加入希望者を一斉に集めて、【情報賢能ミーミル】や【審判の瞳】を使って俺がスパイや悪人を判別するという方法もあるにはあるが、人数が多いので正直言えば面倒くさい。

 それに加えて、クランマスターなので俺の一存で決めることはおかしくはないが、理由を明かさず不採用にすると少なからず反感を生みそうでもある。

 面接という形をとれば別だろうが、それをやるには人数が多いという最初の問題へと戻ってしまう。

 善悪やスパイの判別の問題を乗り越えたとしても、全ての加入希望者を採用するわけにはいかないので、更に能力を調べる試験も必要になるだろう。

 ここでも表向き調べている体裁を見せる必要があるので、やはり時間がかかることになる。

 体裁を気にしないならば一気に解決するが、これまでに俺が築き上げてきたらキャラや評判が崩れるのでそれは避けたい。

 さて、どうしたものか……。



「ねぇ、リオンくん」


「どうしました?」



 頭を悩ませていると、世界間で流れる時間の差から俺より年下になってしまった、同郷であり学生時代の先輩でもある異界人フォーリナーのセレナが声を掛けてきた。



「加入希望者の数を適当に減らすのは嫌なのよね?」


「そうですね。将来を見越しての育成枠の人材も欲しいですから、欲を言えば全員の能力は見たいところです」


「それならダンジョンを使うといいんじゃないかしら?」


「巨塔のダンジョンエリアをですか?」


「ええ。面接前の選考試験として、指定された素材を自力でダンジョンエリアから集めてくるというクエストを出すの。クエストは数種類用意して、自由に一つだけ選べるようにすればクリアできる可能性は上がると思うわ。個人で受ける試験だから、クエストも一人でクリアできる内容にする必要があるでしょうね」


「それが能力試験と振るい落としを兼ねているというわけですか。良い手ではありますが、試験官の目が届かないところで素材を違法に手に入れる輩については、どう判別するんですか?」


「素材がダンジョンで採取してきたばかりのものか店で購入したものかは、素材の鑑定が出来る人なら見抜けると思うの。他人から奪ったかどうかなどは、真偽判定のスキルや魔導具マジックアイテムで判別したり、魔導契約書ギアス・スクロールで行動を制限すれば大丈夫だと考えているんだけど、どう?」


「なるほど……費用はかかりますが、現実的に可能な方法ですね」



 用意したクエストの中からどれを選ぶかで受験者の得意不得意が分かるし、自分の力をちゃんと把握しているかも判別することができる。

 素材鑑定や真偽判定のスキルや魔導具は、商会で使っている物やスキル保有者がいるから、それらを使えば問題無いだろう。

 前もって素材や行動を調べることを告知しておけば実行する者は減るだろうが、クエストは振るい落としを兼ねているので敢えて告知しない。

 これで悪事を働くような輩は面接前に振るい落とすことができる。

 クランの試験だから受験できるのは冒険者だけなので、クエストごとにランク制限でも掛けておけば、根性や才覚のある育成枠の新人冒険者も確保できそうだ。

 うん、中々いいんじゃないかな。

 ダンジョンエリアが使えるかどうかによっては、俺がスキルで作ったダンジョンを公開して使用するのも良いかもしれない。

 全ての受験者にとっては初見のダンジョンになるから、より平等に試験を行うことが出来るだろう。



「選考方法として参考にさせてもらいますね。ありがとうございます、先輩」


「どういたしまして。まぁ、私もマンガやゲームを参考にしただけなんだけどね」


「ああ、どうりで何処かで聞いたことがあるような内容だと思いました」



 指定の素材を指定数持ってこい、というクエスト内容は、まさにゲームによくあるお使いクエストみたいなモノだろう。

 そう考えると、俺製ダンジョンを使った、試験ダンジョン攻略なども選考に加えても面白そうだ。

 試験ダンジョン攻略は面接の後にすれば、スパイと僅かに残る悪人達は排除出来ているだろうし、残る受験者達に臨時パーティーを組ませて協調性を確認することもできる。

 うん、思ったよりも良さげだ。

 何よりも、試験当日に俺が直接的に受験者と接するのが、面接ぐらいしか無いのが素晴らしい。

 俺製ダンジョンを使う場合は、受験者達の様子をポップコーン片手に観戦出来そうだし、意外と楽しめそうだ。

 スキルレンタル業に六大精霊と続き、果てにはダンジョン創造まで明かすことになるが、色々制約があることを匂わせればどうにかなることを前二つで学んだので大して気にしていない。

 今ほどの肩書きが無ければ選ばないし選べない選択肢だが、その分だけ得られるメリットも大きくなる。

 俺製ダンジョン公開後の反響が凄そうだが、今さらのことなのでこれも気にしないでおこう。


 さて、どんな試験ダンジョンにするかを考えるためにも、久しぶりに巨塔のダンジョンエリアに向かうとしようか。



 

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